第118話 セレナ、トアVSコゼ後編
「バカな! 私の槍が折れるだと!」
コゼさんは折れた槍を持ちながら信じられないといった表情で部屋の入り口まで後退する。
「いくら剣聖の攻撃だからといって一撃で槍が⋯⋯」
「一撃じゃありませんよ」
セレナお姉ちゃんはすごいことをやったけど喜びを表さず冷静に言葉を発する。
一撃じゃない? あっ! そういうことか。私はセレナお姉ちゃんが言っている意味がわかった。
「ま、まさか! 私の攻撃を防いでいる時に⋯⋯」
「ええ、同じ箇所を狙って槍を捌いていましたから」
「すごいすごい! さすがセレナお姉ちゃん!」
一方的に攻撃をされているだけかと思っていたらまさかそんな神業をしていたなんて。
トアは益々強くて冷静沈着なセレナお姉ちゃんを尊敬してしまう。
「クックック⋯⋯剣聖相手に接近戦で勝とうなど無理な話だったということか」
けれどコゼさんは自分が劣勢にもかかわらず笑みを浮かべ何やら様子がおかしい。槍はもう折れてしまっているため武器としては使用出来ないと思うからもしかして逃げるのかな? コゼさんは入口の近くにいるのでいつでも逃げることは出来るし、トア達はルナちゃんを置いて追いかける訳にはいかない。
けどもしコゼさんが逃げたらトア達は勿論ここであったことを憲兵の人達に伝える。そうしたらコゼさんはお尋ね者になっちゃうからやっぱりここはトア達の命を奪うことを考えていると思う。
コゼさんは会話をしながら両手を後ろに持っていく。
あの動き⋯⋯怪しいです。コゼさんは何かをするつもりだ⋯⋯それなら。
トアは
「いくら剣の腕が良くてもこの8本のナイフからは逃れられないだろう!」
コゼさんが後ろに回した両手から何かを投げると複数のナイフが一斉に私達に襲いかかってきた。
「そのナイフには猛毒が塗ってある! 貴様の剣技が優れていようとも防ぐことは――」
至近距離で投げられた複数のナイフ⋯⋯いくらセレナでもコゼの言うとおり、達人が投げたものを全て剣で防ぐのは無理だ。
このままだとセレナに猛毒のナイフが刺さり、命を奪われてしまう。しかし普通なら焦燥感に駆られ反射的にナイフをかわそうとするか、剣で叩き落とすことをするが、セレナは剣を構えるだけでその場から一歩も動かなかった。
「なん⋯⋯だと⋯⋯」
そしてコゼさんは自分が投げたナイフの末路を見て驚きの声を上げている。
「な、なぜだ! なぜナイフが全て弾かれ地面に⋯⋯まさか、魔法か!」
そう⋯⋯トアはコゼさんの言うとおり光の防御魔法⋯⋯
「だが魔法を発動した様子など⋯⋯それに何も見えなかったぞ」
「魔法はコゼさんが来る前から使ってたの⋯⋯
「そのお陰で相手は隙だらけです」
セレナお姉ちゃんはコゼさんとの距離を瞬時に詰めるとお腹に蹴りを入れる。
コゼさんは私のナイフを防がれたショックなのか、セレナお姉ちゃんの蹴りがまともにお腹に当たり、体をくの字にしてその場に倒れるのであった。
セレナお姉ちゃんは倒れたコゼさんが気絶しているのを確認すると隠し持っていたロープで縛り、動けないように拘束する。
「さすがトアちゃんですね。助かりました」
「ううん⋯⋯セレナお姉ちゃんが私達を護ってくれたからだよ。さすがにあの雷光閃は
そしてセレナお姉ちゃんが右手をグーにして出して来たので、トアも右手をグーにして手を合わせる。
「お二人とも⋯⋯すごい⋯⋯です。何も打ち合わせ⋯⋯してなかったのに⋯⋯」
ルナはまるで相手のことがわかっているかのような連携の良さに驚きを隠せない。
「う~ん⋯⋯そこはパパに仕込まれたからね」
「強敵や大人数の方達と戦う時は仲間と連携できるかどうかが鍵だと言われて来ましたから。味方や敵がどんな能力を持っているのか、どんな思考を持っているのか、次にどんな行動に移すか常に考えろと」
「それじゃあ⋯⋯2人はこれまで⋯⋯力を⋯⋯合わせて強い人達に勝って⋯⋯来たんだね」
ルナちゃんの言葉を聞いてトアとセレナお姉ちゃんは顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
「私とミリアとトアちゃんの三人で、未だに倒せない人がいますけどね」
「そ、そんな⋯⋯強い人が⋯⋯いるの?」
「いるよ⋯⋯トア達が目標にしている人なの」
「それって⋯⋯誰ですか?」
ルナちゃんの質問に対してトアとセレナお姉ちゃんは瞳が合わさり、そして同じ人の名前を発するのであった。
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