第117話 セレナ、トアVSコゼ中編

 コゼさんの槍の先端が光り、まるで稲妻のように鋭い突きが私達の方へと向かってくる。

 この攻撃はさっき迄とは全然違う。闘気を込めた槍だ。いくらセレナお姉ちゃんでもまた剣で捌ききれるかどうかわからない。


「はあっ!」


 セレナお姉ちゃんも私と同じ考えだったのか、声を上げながら剣で捌くのではなく、槍の先端に対して闘気を込めた剣撃を繰り出して撃ち落とすことを選択した。


 剣と槍がぶつかり、キーンと甲高い音が辺りに響き渡ると2人は互いの攻撃による衝撃で後方へ僅かに吹き飛ぶ。


「やりますね。その若さで私の槍を撃ち落とす技術があるとは⋯⋯まさかあなたが噂の剣聖ですか?」

「そうです⋯⋯と言ったら引いてくれますか?」

「それは無理な相談です。あなた達をこの部屋から逃がす訳にはいきません」

「でしたら答える義務はありませんね」


 そしてコゼさんは再び私達に向けて槍を高速で突き出し、セレナお姉ちゃんがその攻撃を防ぐ。

 このコゼという人はセレナお姉ちゃんの剣聖という称号を聞いても恐れるそぶりがないのは、それだけの実力を持っているからだ。

 でも普段のセレナお姉ちゃんならもっと上手く戦えているはず。戦えない理由はやっぱり後ろにトアとルナちゃんがいることと本来セレナお姉ちゃんは足を使ってスピードで相手を翻弄する戦法が得意だけどこの狭い部屋では、そのスピードを生かすことが出来ないからだ。


 普通ならかなり劣勢な状況だけど⋯⋯けれどトアのお姉ちゃんは普通じゃない。


「な、何故だ! 先程までは私の槍をかわすのもギリギリだったはずだ!」


 コゼさんの言う通り、今のお姉ちゃんは戦いが始まった時と違って襲いかかる槍を剣で軽々と捌いている。


「もう疲れたのですか? それとも良心の呵責に悩まされ、無意識に手加減しているのでは? それなら早めに投降することをオススメします」


 セレナお姉ちゃんは挑発気味に言葉を発しているけどトアは何で急に攻撃をかわせるようになったのかを知っている。

 昔パパがセレナお姉ちゃんは凄く眼が良くて学習能力が高いと言っていた。

 その優れた眼で相手の攻撃の軌道を学習することができ、コゼさんの槍を受ければ受ける程、セレナお姉ちゃんは攻撃をかわすことができる。

 そして普段身体を鍛えていることも相まって反応速度が良いので、そう簡単にセレナお姉ちゃんを捉えることはできない。


「ここまで当たらないとは⋯⋯早くその白く美しく気高い首を串刺しにさせろ!」


 コゼさんはセレナお姉ちゃんに攻撃が当たらないことによって苛立ちを覚えているのか激昂し、槍の軌道が単調なものになっている。


「そのような攻撃では私に当てることなど出来ませんよ。そろそろ決着をつけさせて頂きます」


 セレナお姉ちゃんはコゼさんの槍を防ぎながら前へと距離を詰めていく。


「くっ!」


 すると間合いを詰められると危ないと思ったのか、コゼさんは一度後方へと下がり、仕切り直すことを選択する。


「さすがは剣聖といった所か⋯⋯その可憐な見た目に少々騙されてしまったようだ」

「私はパパに見た目で人を判断するなと言われてきたので、コゼさんと違って油断することはありません」

「あなたの言う通りですね。ではここからは本気で行くとしましょう」


 コゼさんはそう言って右手に槍を持つと槍の先端部分が光り出した。

 これは先程放った雷光閃という技だ。

 コゼさんは通常の攻撃だとセレナお姉ちゃんを捉えることか出来ないと考えたのか自分の持てる最高の技で決着をつけようとしている。

 さっき見た雷光閃は名前の通り、雷が走ったかのように思えるほど凄まじい一撃だった。

 セレナお姉ちゃんはまた剣で叩き落とすのかな?

 でもこれはトアの勘だけどさっきより凄い攻撃が来るような気がする。

 その時セレナお姉ちゃんは雷光閃防ぐことができるの?

 ううん⋯⋯セレナお姉ちゃんならきっとできる。それならトアはトアの出番が来るまで準備するだけ。


 先程まで剣と槍が交わった時に放たれる金属音は無くなり、この部屋は今、静寂が支配している。

 どちらが先に動くか、セレナとコゼは息を殺しそして⋯⋯同時に動いた!

 しかし同時に行動を起こしたということは間合いが長いコゼが有利。コゼは全ての力を槍に込め右手を突き出す。


「全てを貫け! 雷光閃改!」


 これはさっきの攻撃より速く、槍の先端に集中している光が大きいため、雷光閃より強い一撃が来ることが予想される。

 セレナお姉ちゃんはどうするの?

 トアは瞬きもせず2人の攻防を見ていると⋯⋯。


 セレナお姉ちゃんはコゼさんの槍を横に移動してかわすことを選択した。


「ならばこのまま後ろの娘2人を貫いてやる!」


 剣で迎撃してくる⋯⋯コゼはそう考えていたため、このセレナの行動は予想外であったが瞬時に切り返え、トアとルナを殺害する方向へとシフトする。

 だがこの時コゼはセレナが何故槍をかわす選択をしたのか不意に頭の中にを過った。


 コゼside


 槍をかわすということは後ろの2人を見捨てること。誰だって自分の命が1番大切だ。私の最大の一撃を目にしたら仕方のないことだ。

 だがこの剣聖と呼ばれた少女がそう簡単に仲間を見捨てるのか? それとも何か策が、私を殺す案があるということか。

 まさか! 私の攻撃が後ろの2人まで届くということはそこは既にこの少女の間合い。後ろの2人を槍で突き刺した瞬間、私は無防備になる。その時を狙って私を始末するつもりか!

 現にこの少女は今、私の槍をかわした後、剣を振り上げている。

 しかし放たれた雷光閃改を止めることはもう出来ない。このまま2人を始末して返す刃でこの剣聖の少女を迎撃するしかない。

 私はこの時、後方にいる2人より剣聖の行動を注視することにした。


 トアside


 セレナお姉ちゃんがコゼさんの槍をかわしたため、雷光閃改がトアとルナちゃんに迫ってくる。

 このままだとトア達が串刺しにされる! そんなことは頭の中には全く思い浮かばなかった。

 だってセレナお姉ちゃんが何とかしてくれるってわかっていたから。


 セレナお姉ちゃんはコゼさんの攻撃をかわしながら剣を振り上げる。そして重力に逆らわずそのまま剣を振り下ろすと私達に迫っている槍の側面を斬りつける。


 すると甲高い音と共にコゼさんの槍は折れ、二つに分かれるのであった。



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