第116話 セレナ、トアVSコゼ前編
トアside
私とセレナお姉ちゃんは若い店員さんの案内でルナちゃんの部屋の前まで移動した。
「では私はこれで」
「「ありがとうございました」」
店員さんは一礼するとまたお店の方へと戻られたのでトア達は頭を下げる。
ルナちゃんに会うのは3ヶ月ぶり。いつもベッドの上にいてそれ以外の姿は見たことがない⋯⋯。トアの魔法で治すことか出来ればいいのに。
だけど今トアが知る限りでは病気を治す魔法はこの世界で存在していない。
それに原因はわからないけどルナちゃんの身体の痛みだけでも取れればと以前回復魔法をかけたら逆に苦しくなっちゃったことがあった。
こういう時、聖女という特別な称号を頂いているのに何も出来ない自分が無力に感じる。
もしお姉ちゃん達が聖女の称号を持っていたら何か凄いことが出来るのかな?
セレナお姉ちゃんはしっかりしているし、ミリアお姉ちゃんは新しい魔道具を作ってしまう程の天才⋯⋯それに比べてトアは⋯⋯。
ううん⋯⋯今はそんなこと考えちゃダメ。
トアが暗い雰囲気でいたらルナちゃんの体調がもっと悪くなっちゃう。
パパからもルナちゃんのことをお願いされているんだ。スマイルスマイル。
トアは笑顔を浮かべてルナちゃんの部屋のドアをノックする。
トントン
「どう⋯⋯ぞ⋯⋯」
微かだけど部屋の中からルナちゃんの声が聞こえたので、トア達はドアを開け中に入る。
「ルナちゃん久しぶり~」
「すみません、突然押し掛けてしまい⋯⋯」
「いいの⋯⋯私も2人に会えて⋯⋯うれしい」
ルナちゃんは私とセレナお姉ちゃんの言葉に返事をしてくれる。
今日はルナちゃんの調子が良いみたい。本当に体調が悪い時は身体の痛みでうずくまり、声を出すのも辛いと言っていたから。
「今日は⋯⋯どうしたの?」
「ルナちゃんに会いたくて来ちゃった」
本当はパパに言われたからだけどルナちゃんに会いたいという気持ちもあるから嘘じゃないよね。
「そういえばサーヤさんはお店にいなかったけどどこかに出掛けているのですか?」
「ええ⋯⋯私の薬を⋯⋯取りに」
「そうですか。お薬はいつもどちらで買っているのですか?」
「叔父さんが⋯⋯いつも用意してくれるので⋯⋯わからないです」
サーヤちゃんがどこに行ったのかわかればとセレナお姉ちゃんがルナちゃんに聞いてくれたけど⋯⋯。もしサーヤちゃんの行き先を知ることができたらパパの役に立つことが出来たのに。
それにしてもパパは気をつけてって言っていたけどルナちゃんの身に何か危険が迫っているということかな?
ルナちゃんは病気で外に出ることが出来ないからこれから部屋に来る人には気をつけた方が良いってことだよね。
「トアちゃん⋯⋯1人気配を消しながら向かってきている人がいます」
セレナお姉ちゃんが周囲の様子を察知してルナちゃんに聞こえないよう耳元に話しかけてくる。
隠れながらここに来るってことはその人は悪い人だよね。
トアは何が起きてもいいように準備をする。
「トアお姉さん⋯⋯どうしたの?」
「ごめんなさい⋯⋯ちょっと騒がしくなるかもしれないけど気にしないで」
「ええ、何があっても護りますから安心してください」
「えっ? それって⋯⋯どういうこと?」
そしてルナちゃんが頭にはてなを浮かべていたその時。
バンッ!
突然部屋のドアが開くと男の人が槍を両手に持ちトア達の方に向かって突き刺してきた。
「ふっ!」
だけどトア達に放たれた槍は、セレナお姉ちゃんが剣で切り払い叩き落とす。
「ほう⋯⋯やるではないか」
男の人はセレナお姉ちゃんに攻撃を防がれると一度後退しこちらの様子を伺っていた。
「あなたもやりますね。ですがルナさんは殺らせませんよ」
セレナお姉ちゃんが男の人に普段見たことがないほどの怖い殺気をぶつけている。そのことからセレナお姉ちゃんが本気だと言うことがトアにはわかった。
「あ、あなたは⋯⋯コゼ、さん⋯⋯」
「コゼ? 何者ですかこの人は?」
「叔父さん⋯⋯の⋯⋯警護をしている⋯⋯方です」
もしかしてその叔父さんもグルなのかな? 全部の状況はわからないけどトア達はパパから言われた通りルナちゃんを護るだけ。
「クックック⋯⋯」
コゼさんは突然笑い声を上げる。その様子は好意的なものではなく、正気じゃない目をしておりどこか恐ろしさを感じる。
「何がおかしいのですか?」
そのような狂気の目からトアとルナちゃんを護るため、セレナお姉ちゃんが前に出てくれる。
「いや、1人だけではなく、3人も串刺しに出来ると思ったらつい笑いが込み上げてな。若い娘の首は極上のステーキのように刺しごたえがある。そして槍を引き抜いた時に溢れ出る血⋯⋯想像しただけでイッテしまいそうだ」
「それはあくまであなたの頭の中で起こる出来事です。現実には私達に敗北し、地面にひれ伏すことになるでしょう」
出会ってすぐだけど今のセリフからコゼさんは見た目も頭の中も狂っていることがわかった。
とりあえずコゼさんのことはセレナお姉ちゃんに任せて
セレナお姉ちゃんとコゼさんの視線が交錯する。そして1秒、2秒と時間が過ぎて行き、私とルナちゃんは息を飲む。
そしてこの膠着状態を壊したのはコゼさんだった。
手に持った槍を連続で突いてくるとセレナお姉ちゃんは剣を使って防御する。
「くっ! 速い!」
コゼさんの槍が私達に襲いかかってくるけどセレナお姉ちゃんは額に冷や汗を浮かべながらも何とか剣で防いでいた。さすがセレナお姉ちゃん、あんなに鋭い突きを全て防ぐなんて並みの人では出来ないことだ。
だけど見方を変えるとセレナお姉ちゃんはコゼさんの攻撃を防ぐことしか出来ていない。
これはトアとルナちゃんが後ろにいるせいだ。
それにこの狭い部屋ではどうしても間合いが長く、突くことがメインの槍が有利、このままだといずれコゼさんの刃が私達の所に⋯⋯。
「こ、怖い⋯⋯」
ルナちゃんが震えながら絞り出すように声を出す。
「ルナちゃん大丈夫だよ。私とセレナお姉ちゃんが絶対に護るから」
「う、うん⋯⋯」
自分で動くことが出来ないルナちゃんに取っては今の状況は恐怖でしかないと思う。
ここは早くコゼさんを倒して安心させてあげなくちゃ。
「怖いのですか? ならば私がすぐにあなたの恐怖を解き放って上げましょう。死することによって⋯⋯雷光閃!」
コゼさんはスキルを口にし右手に持った槍を引く⋯⋯そして一気に前へ突き出すと槍の先端が光り、今迄とは比べ物にならないスピードでトア達に襲いかかってくるのであった。
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