第112話 姉のために

 魔法養成学校の授業が無事? 終わると俺は1人校門へと足を向ける。

 本当は授業の後ミリアと一緒にアルトへ行くつもりだったが、ミリアは放課後リリーと行っている訓練があるとのことで連れ去られてしまった。


 そして魔法養成学校を出て10分程歩くと商家アルトが見えてくる。

 さて⋯⋯サーヤちゃん今日もお店で働いているのだろうか?

 俺はアルトに足を踏み入れようとしたその時。


「「パパ」」


 背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきたので振り向くとそこにはセレナとトアがいた。


「2人とも学校の帰りか?」

「うん⋯⋯せっかくだからセレナお姉ちゃんを誘ってサーヤちゃんの所に行こうかと思って」

「トアちゃんがサーヤちゃんに会いたいと言っていていたので、私も付き添わせて頂きました」


 そういえばトアはサーヤちゃんのことを何かと気にしている節があったな。トアはもしかしたらサーヤちゃんを妹のように思っているのかもしれない。


 トアは俺の所に駆け寄ってくると自然に自分の左手を俺の右手に絡め、そして少し遅れてセレナは控え目に俺の右手の袖を掴んできた。


「俺もサーヤちゃんに用があるから一緒に行っていいかな?」

「もちろんパパなら大歓迎だよ」

「一緒に行きましょう」


 こうして俺はセレナとトアと共に商家アルトへと向かう。


「いらっしゃいませ~」


 店内に入ると1人の女性から挨拶を受ける。


 サーヤちゃんはいないのか? 俺は店全体を見渡すが⋯⋯。

 店の中は20メートル四方くらいの広さで客は数人、店員は三人⋯⋯しかしその中にサーヤちゃんの姿はない。今日は休みかもしくは休憩中なのか? それと今まで気にしていなかったが、アルトは雑貨や食品を扱う店のようで、店内は綺麗に整理されており、品揃えが豊富にありそうだった。


「何かお探しでしょうか?」


 店内をキョロキョロと見渡していたことで若い女性の店員が俺に話しかけてくる。


「娘達とサーヤさんに会いにきたのですが本日はいらっしゃらないのでしょうか?」


 おっさんの俺が会いにきたと言うと女性店員に不信感を持たれそうなのでここは娘達の名前を使うことにする。


「え~と⋯⋯サーヤちゃんはいませんね。さっきまではお店にいたのに」


 所用で席を外しているのかな? それならこのままここで待てばサーヤちゃんに会うことが出来そうだ。


「サーヤちゃんなら外に出て言ったわ。何だかとても急いでいるように見えたけど⋯⋯」


 しかし別の女性の店員さんが俺達の言葉を聞いていたのか、サーヤちゃんの所在について話してくれた。


 急いで外へ?

 何だか俺はこの女性店員さんの言葉に嫌な予感を覚え、サーヤちゃんの行動について聞いてみることにする。


「どこに向かったかわかりますか?」

「い、いえ⋯⋯慌てていた様子でしたが、どこへ行ったかまでは⋯⋯」


 俺の気のせいならいいが相手はサーヤちゃんの両親を殺害した卑劣な奴だ。杞憂ではあるかもしれないがここは最悪の事態を想定して動くとしよう。最悪の事態とはもちろん命を奪われることだが⋯⋯。

 もしサーヤちゃん達姉妹の命を狙い始めたとするならぱ、この半年間サーヤちゃんとそのお姉さんに何もせずにいたのに、今になって動き始めた原因はなんだ。

 商家アルトの権利書を手に入れたのか? だがそうであるならば両親と共に姉妹を殺害しておけば自動的に親族であるエゾルが商家の権利書を相続するはずだ。

 わざわざ今まで生かしておく必要はないはず⋯⋯。

 他に考えられることは⋯⋯何かサーヤちゃんやエゾルを取り巻く環境に変化があったというのはどうだろうか。

 エゾルについては全くわからないが、サーヤちゃんについては⋯⋯まさか!


 俺と知り合ったことか。

 そして俺が半年前に起きたサーヤちゃんの両親殺害について調べ始めたから、真相にたどり着く前に命を奪おうとしている?

 だがもしその考えが正しいならサーヤちゃんだけではなく、お姉さんと俺自身にも危険が降りかかってくる可能性があるな。

 その結論で動くとしてもまずはサーヤちゃんの居場所を突き止めなければ話にならない。

 ここは外に出てサーヤちゃんを探しに行くべきか⋯⋯。

 俺はこれからの行動を頭の中で張り巡らしていると女性の店員さんが何かを思い出したのか声をかけてきた。


「そういえばサーヤちゃんは薬を取りに行くと言っていました」

「薬? それはどこでもらえるのですか?」


 それはお姉さんが飲む薬なのかわからないが、これで一筋だがサーヤちゃんの居場所について手がかりを得ることができた。


「たぶんルナちゃんの物だと思いますが、薬はエゾル様がいつも用意していたのでどこで手に入れているのかわかりません」


 もしエゾルがサーヤちゃんを陥れるつもりなら、俺にサーヤちゃんの居場所を教えることはないだろう。ここは薬を処方する医者の所を回るべきか。だがこの帝都にいくつ探す場所があるのか検討もつかない。

 それならば俺の周囲を調べている情報の専門家に聞いた方が早いだろう。


「セレナとトアはサーヤちゃんのお姉さんの所で待っていてくれないか」

「パパはどうするのですか?」

「俺はちょっとサーヤちゃんを探してくる」


 万が一サーヤちゃんのお姉さんに何かがあってもセレナとトアの2人がいれば安心だからな。


「ルナちゃんには最近会っていなかったから楽しみ~」

「だが2人とも


 俺がそう言葉を発するとセレナとトアの表情は真剣なものへと変わる。どうやらハッキリと言葉にしなくても何か危険なことが起きるかもしれないことが2人には伝わったようだ。まだルナちゃんが狙われているかどうかは明確ではないため、店員さんの前で口に出す訳にはいかない。

 本当は2人にも俺の考えを伝えたかったが今は時間がおしい。


「店員さんありがとうございました。それじゃあ俺はこれで」


 俺はそう言葉を残し、商家アルトを後にした。


 サーヤside


 目の前には今まで通ってきた世界と同じとは思えないほどボロボロの建物や汚れた道が広がっていた。


「たぶんここってスラムだよね」


 昔お父さんとお母さんからスラムには絶対に行くなと言われていた⋯⋯けど今はお姉ちゃんを少しでも楽にさせるために進むしかない。

 薬がないとお姉ちゃんは、お姉ちゃんは⋯⋯。

 もしお姉ちゃんがいなくなっちゃったら私は1人になる。そんな未来を想像しただけで私の心は簡単に壊れてしまうことがわかった。


 だから怖くても私は進む。意を決してスラムに入り、叔父さんにもらった地図の通りに向かっているけど⋯⋯。

 スラムに入った瞬間に今まで嗅いだことのないような刺激臭が私の鼻を犯していく。

 周囲の人達は平気な顔をしているからおかしいのは私の鼻なのかな?

 臭いと言葉にしたかったけどここに住んでいる人達に対して失礼になってしまうので私は鼻をつまみ、涙目になりながら目的へと駆けていく。


「え~と⋯⋯こ、ここを右に曲がって⋯⋯」


 私は地図の通りに道を曲がろうとしたけどこの先は高い建物に挟まれ、日の光りがない所を進むので躊躇してしまう。


「怖い⋯⋯けど、お姉ちゃんためお姉ちゃんため」


 私は祈るような気持ちで声を出しながら暗闇を進むけど⋯⋯。


「おい! お前見ない顔だな」


 突如暗闇の中から話しかけられ、私は驚いてその場に尻餅をついてしまうのであった。

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