第103話 冒険者ギルド
そして俺は自宅に戻るとまだ娘達は学校から帰宅しておらず、シルルがリビングのソファーで横になりゴロゴロしている様子が見られた。
「おかえり」
「ただいま」
シルルは朝言っていたように出掛けていなかったので俺は少しだけ安堵する。
正直今のシルルを1人で外に出すと何か問題を起こしそうだからな。
今日はもう何かをする予定はない⋯⋯それなら夕食の準備でもするか。
「シルル何か好きな食べ物はあるか?」
俺は今日1日留守番をしていたシルルを労うため食べたいものを聞いてみる。
「特にないよ」
その回答が1番困るんだが⋯⋯俺は抗議の声を上げようとシルルに視線を向けると何か光るものが目に入った。
「綺麗だな」
シルルの手には1センチくらいの透明な宝石のような物が握られていた。これはダイヤモンドか?
「これ? これは私の1番大切なもの⋯⋯」
宝石は透き通るようなどこか神秘的な輝きを持っているためシルルが大切だというのも頷ける。
だが宝石は大きい物ではないしどうやって保管しているのかわからないが失くしてしまわないか不安だ。
俺は余計なことかもしれないが1つ提案してみる。
「その宝石⋯⋯ネックレスにしたらどうだ? 鎖と留め具なら持っているぞ」
「ん⋯⋯それじゃあ任せる」
俺は異空間からシルバーの鎖と留め具を取り出し宝石が取れないように調節をする。すると作業をしている間シルルはジーっと俺に向かって視線を送ってきていた。
「何だ? 気になることでもあるのか?」
「うん⋯⋯何か感じるものがない?」
「どういうことだ?」
感じるもの? シルルの言っている意味がわからないので俺は思わず聞き返してしまう。
「ううん⋯⋯何でもない」
「何かあるのか?」
「本当に何でもないから気にしないで」
するとシルルはすぐに引き下がってしまい、結局何を言いたかったのかよくわからないまま時間だけが過ぎてしまった。
そして5分ほどで作業が終わったので出来たものをシルルに渡す。
「どうかな?」
シルルはネックレスを自分でつけて鏡越しにその姿を確認している。
「これ気に入った⋯⋯ありがとうユクト」
シルルは少し世間離れしているが今の姿を見ると年頃の女の子何だなと実感することができた。それと気のせいかもしれないがお礼を言った時の声のトーンがいつもより感情が込められていた気がする。それだけこの宝石が大切な物だということが伝わってきた。
そしてシルルはその後何度もネックレスを眺めていたりさわったりしていたため喜んでいる様子が誰の目にも明らかだったので、俺はシルバーの鎖と留め具をプレゼントして良かったと安堵するのであった。
それにしても宝石を留め具につけている時にシルルから問いかけられたことは何だったのだろう。「何か感じるものはない?」とはどういうことだ。あのような綺麗な宝石は初めて見るし、特別触って何か感じるものなど全くなかった。少なくともネックレスを作製して渡した後は喜んでいるようだったから悪いことではないとは思うが⋯⋯。
シルルの行動はいつもの気まぐれで大したものではないと決めつけていたが、後にこの宝石が俺の運命を変えるほど重大な物になるとはこの時の俺は知るよしもなかった。
翌日、俺は午後から魔法養成学校の講師の依頼があるため午前中に帝都の南にある冒険者ギルドへと向かった。
古びた木造の建物⋯⋯歴史を感じると言えば聞こえはいいが一度冒険者ギルドはゴードンやリリーの手によって解体し新しい組織に生まれ変わっている。
今は昔と違って年功序列、経験年数ではなく実力でランクが決定されているらしいが⋯⋯どこまで変わっているかは眉唾物だ。
とにかく建物の中に入らないことには何もわからないため、俺は開かれた冒険者ギルドの扉を通ると大勢の人間の姿が目に入った。椅子に座って依頼者と話している者、仲間と談笑している者、朝から酒を飲んでいる者などその姿は様々だ。
その光景に懐かしい想いが込み上げてきたが午後から予定があるため俺は一直線にギルドの職員がいるカウンターへと向かう。
カウンターには中年の男が眠そうな目を擦りながら机に肘をついており、お世辞にも接客態度が良いとは言えない様子だった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「あん? 何の用だ」
言葉遣いからしてやはり俺はこのギルド職員に良くは思われていないようだ。それならとっとと用件を聞いてこの場から離れるとしよう。
「Aランク冒険者のデニーロさんがどこにいるか教えてほしいんだが⋯⋯」
「デニーロさんだ? ん? それよりお前どこかで見たことがあるな」
中年男性は俺の顔をジロジロと見てくる。
俺はこいつの顔に見覚えはない。
俺のことを見るよりさっさとデニーロさんの居場所を教えてほしいのだが⋯⋯。
「あっ! 思い出した! お前昔ゴードンさんやリリーさんとパーティー組んでた奴だろ!」
どうやらこの職員は以前俺のことを見たことがあるようだ。まさか14年前のことを覚えている奴がいるとは思わなかった。そして冒険者にとって英雄であるゴードンとリリーという名前が聞こえたことによって周囲の注意がこちらに集まる。
「ゴードンの兄貴とリリーの姉御とパーティーを組んでたって聞こえたぞ」
「あいつもSランクの冒険者なのか?」
「だがあんな奴見たことないぞ」
周りの冒険者が好奇の目で俺を見てくる。
まいったな。目立つつもりはなかったんだがやはりゴードンとリリーの名前は冒険者にとって絶大なもののようだ。
「だけどお前はゴードンさんのパーティーを抜けたんだろ? 確かランクはCだったよな」
この職員の言葉で先程まで好奇な視線だったものが悪意のあるものに変貌する。
「ゴードンの兄貴とリリーの姉御が行った冒険者ギルドの改革は2人がBランクの時だよな?」
「ということはあの男はその前にパーティーを抜けたのか」
「抜けたんじゃなくて実力がなくて辞めさせられたんだろ」
ひどい言われようだが自分勝手に抜けたのは事実なので俺は言い返すことはしない。
そして周囲からは俺について色々な憶測が飛び交う。
これはもう騒がしくてデニーロの話をする所じゃないな。
だがそんな騒然とした中、酒を飲んでいた1人の男が立ち上がり声を上げるとギルド内は一気に静寂を取り戻すこととなる。
「おまえらピーチクパーチクうるせえぞ」
腕や顔に傷跡があり右目に眼帯をしている男は、威圧を込めて言葉を発するとこちらへと向かってきた。
「デ、デニーロさん⋯⋯」
ギルド職員が恐れた様子で男の名前を口にする。
この男がデニーロか⋯⋯騒ぎになったことは予想外だったが結果として目的の人物に接触することが出来たようだ。
「お前⋯⋯俺を探しているんだってな」
「ああ、スラムのことで聞きたいことがある」
「スラム⋯⋯だと⋯⋯」
スラムという言葉が出た時にデニーロの眼光が鋭くなった。
何か気に障るようなことだったのだろうか?
「スラムの何を聞きたいのか知らないが俺は力のない奴の願いを聞く程暇じゃない」
「俺の力は足りないと言うのか?」
「あんたはゴードンさん達のパーティーにいたようだが所詮それは過去のことだろ?」
「だったら試してみるか?」
俺とデニーロの間に一触即発の空気が流れる。
あまり力ずくで言うことを聞かせるのは好きではない⋯⋯だが中には力でしか言うことを聞かない奴もいる。
今は時間がないので手っ取り早く解決できるのならデニーロの土俵に立つのも悪くない。
「デ、デニーロさん騒ぎを起こすのは勘弁してください。俺がギルド長にどやされてしまいます」
だが俺とデニーロが行動を起こす前にギルド職員が情けない声を上げながら俺達の間に入ってくる。
「ちっ! だがこの俺の殺る気はどうしてくれる?」
「そ、それは⋯⋯そうだ! ここは
「
初めて聞くものだがおそらく言葉からすると氷の塊をどれだけ壊すことができるかを競うことだろう。
「へへっ⋯⋯俺は受けてやってもいいぞ」
「こっちも望む所だ」
こうして俺はサーヤちゃんの両親を殺害したスラムの者達の情報を手に入れるためデニーロと
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