第104話 |氷塊《アイスブロック》|破壊《クラッシャー》前編

 俺は冒険者ギルドでサーヤちゃんの両親を暗殺した者達の情報を得るためにデニーロと氷塊アイスブロック破壊クラッシャーというものをやることになった。


「デニーロさん準備します」

「ドラン任せたぞ」


 受付のギルド職員ことドランが扉をくぐって外へ走っていくとデニーロも後に続く。


「お前もそんなとこに突っ立ってねえで早く外に出ろ」


 どうやら氷塊アイスブロック破壊クラッシャーは外でやるものらしい。

 憶測だが確かに氷を破壊して水浸しにされたら冒険者ギルドとしてもたまったもんじゃないだろう。

 どんなゲームでも負けるつもりはないが一応氷塊アイスブロック破壊クラッシャーについて聞いておくか。


氷塊アイスブロック破壊クラッシャーとはどんなものなんだ?」


 俺はデニーロに促されて外へと足を向けた時、氷塊アイスブロック破壊クラッシャーについて質問してみる。


「お前は知らずに勝負を受けたのか! まあいい、名前の通り重ねられた氷の板を拳でどれだけ割ることができるか競うものでこのギルドの伝統でもあり、今まで全ての氷を破壊することができたのはゴードンさんだけだ」


 デニーロが得意そうに説明してくる。どうやらこのデニーロも他の冒険者達と同じ様にゴードン達を尊敬している節が見られる。

 それと氷塊アイスブロック破壊クラッシャーはいつから伝統になったんだ? 俺が冒険者ギルドにいた時はそんなもの一度も聞いたことなかったぞ。

 しかし俺が冒険者ギルドを抜けて14年間も経ったんだ。新しい何かが始まってもおかしくはない。

 そう考えると無性に自分が年を取ったなと思わせられる。


「おい、ボーッとしてるんじゃねえ! さっさとこっちに来やがれ」


 おっと、今は感慨に耽っている場合じゃないな。今はこの氷塊アイスブロック破壊クラッシャーでデニーロに勝つことが先決だ。


 外に出るとデニーロはギルドの裏手の方へと足を向ける。ギルドの裏はちょっとした広場になっており、ドランが用意したのか30センチくらいの石の台座に10センチ程の氷の板がいくつも積み上げられているものが2つあった。


「デニーロさんはこちらに⋯⋯あんたはこっちだ」

「どっちだろうが構わねえ、さっさと始めるぞ」


 ドランに促され、俺は氷の塊の前に案内される。

 氷の板は10枚か⋯⋯全部で100センチほどの分厚さになるな。おそらく魔法で氷を作製したのだろう。これは下手に拳で氷を割ろうとすれば手が傷つき骨が折れるのは間違いない。躊躇わず一気に割ることが重要だ。

 それとデニーロはどうかわからないがドランはどうやら俺に勝たせたくないらしい。

 それはそれぞれの前にある氷の質を見ればわかる。俺の方の氷は透明でデニーロの方の氷は不透明だ。

 一般にはあまり知られていないが透明の氷の方が硬く割ることは容易ではない。

 ドランの顔を見るとこちらの方を向いてニヤリと笑ってきたので狙ってやっているのは間違いないだろう。


「おまえに1つだけ言っておきたいことがある」


 そして突如デニーロが俺に向かって指を差し宣言し始めた。


「俺が勝ったら二度とゴードンさん達とパーティーを組んでいたと語るな! 当時のことを俺もゴードンさんから話を聞いたことがあるが、子育てをするからパーティーを抜けるだと? お前みたいな半端な奴がいるから冒険者の地位が上がらねえんだ。冒険者を舐めるんじゃねえ!」


 もしかしたらデニーロはゴードンやリリーと一緒に冒険者ギルドの改革を行ったメンバーなのかもしれない。そのような者があっさりと冒険者を辞めた俺を面白く思わないのは当然のことだろう。


「わかった⋯⋯だがこっちが勝った時には俺の要求を聞いてもらうぞ」

「そんなあり得ねえ未来は来ねえから何だって約束してやる⋯⋯なんなら負けたらてめえの舎弟になってやるよ」

「舎弟はどうでもいいがその言葉を忘れるなよ」


 この勝負に勝てばサーヤちゃんの両親を殺害した奴らの所に案内させることができる⋯⋯絶対に負けられないな。


「何だか面白いことになってきたな」

「Sランクパーティーと組んだことがある男と冒険者ギルドのエースであるデニーロ⋯⋯いったいどっちが勝つんだ」

「さあ1口銀貨一枚だ! 今の所倍率はデニーロ1.25倍、謎の男4.62倍だよ。早くしないと締め切っちまうぜ」


 冒険者ギルドの中にいた奴らも俺とデニーロの後をついてきて賭け事を始めたようだ。しかもどうやら俺の方が大穴らしい。


「はっ! ギャラリー達もうるせえからとっとと始めるか。まずはお手本を見せてやるよ」

「好きにしてくれ」


 俺は順番などどちらでもかまわない。まずはデニーロの実力を見せてもらうか。


 デニーロは見た目はいかついけど年齢は俺と同じくらい。そうなるとAランクに認定されたのはギルド改革後の可能性が高いためそのランクは実力どおりだと推測される。


 デニーロは氷板の前に立つと目を閉じ深呼吸を始めた。

 集中している様子が周囲にも伝わり、先程まで騒がしかったこの場に静寂が訪れる。

 デニーロは氷板を何枚割ることができるか⋯⋯観客達の期待が俺にも伝わってくる。

 そしてデニーロは左手を振りかぶり一気に氷板に向かって手刀を繰り出すと周囲の空気を切り裂き、激しい音と共に氷が砕け散る。


「す、すげえ音⋯⋯」

「何枚割れたんだ」


 遠巻きに見ている観客達は驚きの表情を浮かべながら氷板を注視しているとデニーロの手は石の台座の所まで降りていることに気づく。


「全て割った⋯⋯だと⋯⋯」

「さすがはAランク冒険者!」

「デニーロさんがあの偉大な冒険者ゴードンさんに並んだぞ!」


 周囲にいた観客達は氷板を全て割った強者に対して称賛の声をあげ、デニーロはその声に応えるように左手を天に向かって突き上げるのであった。


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