第101話 新たなる情報

 ゼーリエ校長からの話が終わり、次に俺はリリーに会うために理事長室へと向かった。


 コンコン


「どうぞ」

 

 理事長室のドアをノックするとリリーから声が返ってきたので俺は部屋の中へと入る。

 するとリリーは黒塗りの重厚な机に座り凄いスピードで書類に印を押している姿が目に入った。


「忙しい忙しい⋯⋯誰か手伝ってくれないかしら?」

「いや、無理だろ。俺なんかが見て良い書類じゃないだろし」

「わかってるわよ。ちょっと言ってみただけ」


 そしてしばらく経つとリリーは作業の手を止め、俺の方へと向き合う。

 本当に忙しそうだな⋯⋯何だかラニの護衛を手伝ってもらったことが申し訳なってくる。


「それで? 何の用なの? って臨時講師をしてくれる件よね?」

「ああ⋯⋯週に一回いつから行けばいい?」


 俺が臨時講師をする日程について口にすると突然リリーが頭をかかえ始めた。


「はあ⋯⋯そのことが私の仕事を増やしている一因なのよね」


 リリーはため息をつきながら紙の束を俺に見せてくる。


「何だこれは?」

「これは学生からの要望書よ」

「要望書?」


 何か無理難題が記載されていてリリーの仕事の負担になっているということか。それにしても凄い枚数だ⋯⋯100枚くらいはあるんじゃないか。


「大変だな」

「大変だじゃないわよ! これ全部あなたせいよ!」

「俺のせい?」


 まさか結界を壊したことか? いや、あの件は学生ではメルルさんとミリアしか知らないはず。2人がそのことを人に話すとは思えないが⋯⋯それともビルドのことか? FクラスをSクラスに勝たせたことで苦情でも来たのか?

 見に覚えがあることが多すぎて俺はリリーの問いに何も答えることができない。


「見てよこれ⋯⋯」

「見ていいのか?」

「ええ」


 リリーが書類の束を渡してきたので俺は遠慮なく読ませてもらうと⋯⋯。


 ・ユクト先生の授業は実践的で面白かった。

 ・自分がレベルアップしていることが目に見えてわかったのでこのまま講師を続けてほしい。

 ・F組だけユクト先生の授業が受けられてずるい。


 以前俺がF組を指導していた時のことが好意的に書かれていた。こういうのを見ると指導する方としてもやる気が出てくるな。

 俺は続けて学生からの要望書に目を通す。


 ・ユクト先生は独身と聞いたのですが付き合っている方はいるのでしょうか?

 ・ユクト先生とエッチなことをすると強くなれると聞いたのですが本当でしょうか?

 ・一目惚れしました。私の連絡先を記載して置きますのでユクト先生からの返事を待ってます。


「う~ん⋯⋯間違った情報も含まれているな。そういえば校長室に向かう時にも学生達がそれらしいことを口にしていたぞ」

「口にしていたぞじゃないわよ! ユクトは魔法養成学校の風紀を乱すつもり?」

「そ、そんなつもりはない」


 リリーが鬼のような形相をしていたため俺は思わずどもってしまった。


「も、もしうちの子達に手を出したら承知しないからね!」

「リリーだって同調魔法アラインメントがどんな魔法かは知っているだろ?」


 何を隠そう俺はおやっさんとコト以外で初めて同調魔法アラインメントを使ったのがリリーだからな。

 そういえばリリーも初めは同調魔法アラインメントを勘違いしていて⋯⋯。


「ユ、ユクト! 今あなたは何を考えているの! 即刻その記憶を消し去りなさい!」

「わ、わかった」


 引き続き鬼の形相をしているリリーの言葉に俺は頷くことしか出来なかった。リリーは初めて同調魔法アラインメントをした時のことを話してほしくないらしい。

 とりあえず俺が五体満足でいられるためにも話題を変えた方が良さそうだ。


「それで何が大変なんだ?」

「S~Fクラスの7クラスがユクトに講師をして欲しいって要望が上がっているのよ。ユクトは週一回の臨時講師だから日程調整が難しくて⋯⋯」

「それなら特別な用事がない限り週二回講師をするよ⋯⋯美人魔法使いXには世話になったからな」

「本当に?」

「ああ」

「あっ! けど食事のお礼はちゃんとしてもらうからね」

「わかってる⋯⋯リリーも楽しみにしてくれて嬉しいよ」

「べ、別に楽しみじゃないからね! ただ男なら一度言った言葉は守りなさいって言いたいだけだから! それじゃあ明日から臨時講師よろしくね!」


 リリーは捲し立てるように話すと俺は身体を押されて理事長室を追い出されてしまうのであった。



 俺は魔法養成学校を後にすると次に騎士養成学校へと向かった。だがゴードンは不在だったみたいでラニの護衛をしてくれたお礼を言うことが出来なかった。

 しかし臨時講師をすることについてはスミス先生に日程を調整して頂きその結果。明日、明々後日は魔法養成学校で、明後日は騎士養成学校で臨時講師を行うことに決まった。


 そして俺は本日予定していた最後の場所、酒場ラファルへと向かうといつも通り店の前にはゾックが門番として陣取っていた。


「ようユクト、また腕相撲やるか?」

「はは⋯⋯やめとくよ。今日は予定があるんだ」

「なんだよ、たまには付き合えよ」

「また今度な」


 俺はゾックと軽く挨拶をかわして酒場ラファルへと入っていく。そして店の奥の個室へと向かうと変わらずズルドが椅子に座り一杯飲んでいた。


 ズルドはいつもここにいるがいつ自宅に帰っているのだろうか。もうここの主とかしてるな。

 俺はズルドの前の席に座る。


「へっへっへ⋯⋯ユクトの旦那お久しぶりです。また派手にやりましたねえ」

「何のことだ」


 確かに前回ズルドと別れてから色々あった⋯⋯こいつはどこまで掴んでいるんだ? まさか俺のことを尾行しているんじゃないだろうな。


「惚けないで下さいよ⋯⋯盗賊を撃退し村を救った英雄、帝都に美人な女性を連れて凱旋、極めつけはドミニク皇子にお会いしたことですよ」


 どうやらズルドには全て筒抜けのようだ。

 こいつの情報はどこから仕入れているのか一度聞いてみたいがそれはこの業界ではマナー違反になるので聞いてはいけない内容だ。


「よく調べているようだが余計なことをすると身を滅ぼすだけだぞ。もし娘達にまでその手を伸ばしているのなら⋯⋯」


 いくら昔馴染みの情報屋だろうが容赦しない。

 俺は殺気を込めてズルドを睨み付けると⋯⋯一秒、二秒、三秒と時間が過ぎていく。

 するとズルドは俺の殺気に堪えられなくなったのか顔を歪ませ口を開いてきた。


「ユクの旦那は敵に回したくありませんからね。そのようなことはしませんよ」

「疑われる行動もするなよ」

「わかっていますって⋯⋯ほんの冗談ですから怒らないで下さい。それで今日はどんなご用で?」

「頼まれたものを渡しに来ただけだ」


 俺は異空間から水筒を取り出すとズルドへ渡す。


「ありがとうございます。これで体調を崩しても大丈夫ですね」


 ズルドには俺の求めている情報をすぐに伝えてもらいたいから、初めから体調を崩さないように行動してほしいものだ。


「それで銀の竜はいたんですかい?」


 ズルドの目が鋭くなり俺を見据えてくる。

 銀の竜の情報はズルドに取っても必要なものなのだろう。


「いや、残念ながら何もいなかったよ」

「そうですか⋯⋯引き続き銀の竜についてはこちらで調査致しますので何かわかりしだいまたご連絡を差し上げます」

「よろしく頼む」


 ズルドに銀竜の情報と青の泉の水を渡したので用件は終わった。もうここにはいる必要はないので俺は席を立ち上がると⋯⋯。


「ユクトの旦那待ってください⋯⋯不快にさせたお詫びと言っては何ですが1つ無料で情報を提供しましょう」


 ズルドは娘達のことで俺を怒らせたと感じたのか頭を下げ、こちらの言葉を聞く前に語り始めた。


「最近ユクトの旦那の娘さん達が懇意にしているサーヤという少女について」

「サーヤちゃん⋯⋯だと⋯⋯」


 俺はズルドが口にした情報が気になり再び席に着くことを選択するのであった。

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