第100話 七竜
俺とミリアは魔法養成学校の校門に到着した。
やはりここに来るとどうしても結界を壊してしまったことを思い出す。
俺はおそるおそる校門を潜るが特に遮るものはなく、すんなりと学校内に入ることができた。
「パパのビクビクした動き面白~い」
「仕方ないだろ。また結界を壊したらリリーに何を言われるか」
「そうよ。これ以上私の仕事を増やさないでほしいわ」
突然背後から声をかけられたので後ろを振り向くと両腕を組んで少し不機嫌そうなリリーが立っていた。
「リリー姉おはよう~」
「だからみんなの前ではリリー理事長でしょ!」
リリーはミリアを注意しているように見えたが、もう言っても聞かないと思っているのかどこか諦めているようにも見える。
そして注意されたミリアはバイバイと手を振り校舎へと入っていってしまった。
「リリーおはよう⋯⋯この間はラニの護衛をしてくれて助かったよ」
「護衛? 私は行ってないわよ。もしお礼を言いたいなら謎の美人魔法使いXと剣士Yに言うのね」
そうだ⋯⋯リリーとゴードンはドミニクに目をつけられると学校に迷惑がかかるから正体を明かせないことになっているんだ。
「そうだな。だがもしリリーが美人魔法使いXと剣士Yに会うことがあったらユクトがすごく感謝していたと伝えておいてくれ」
「しょうがないわね。もしその2人に会うことがあれば言っておくわ」
「ありがとう⋯⋯その話とは関係ないが今度食事にでも行かないか? 帝都にいる娘達の面倒を見てくれたお礼に」
本当はラニ達の護衛をしてくれたお礼をしたいが娘達の面倒を見てくれたのも事実、そちらの方で感謝の意を伝えるとしよう。
「しょ、食事! 仕方ないわねえ⋯⋯ユクトがどうしてもって言うなら行ってもいいわよ」
「どうしてもだ⋯⋯リリーと食事に行きたい」
俺はハッキリとリリーに伝える。
「もう! わかったわよ。相変わらずストレートなことを口にするんだから⋯⋯行くから日程決まったら教えて」
リリーはそう言葉を残すと一人校舎へと急ぎ足で入っていく。
講師をやる日程についてもリリーと話をしておきたかったが仕方ない。ゼーリエ校長の話が終わったら理事長室へ寄るとするか。
そして俺は講師らしき人に校長室の場所を聞き向かっていると何故か周囲にいる学生達から好奇の視線を受けることになった。
「ねえ、あの人ってミリアさんのお父様でしょ?」
「ああ⋯⋯Fクラスを指導してSクラスに勝利した人だろ」
どうやら学生達は先日あったクラス対抗戦について話しているようだ。
何だか若い子達に自分のことを噂されると恥ずかしいな。俺は少し足早に校長室へ向かおうと思ったが⋯⋯。
「ミリアさんのお父様と1つになることで魔法のレベルが上がるって聞いたんだけど」
「えっ? 1つになると? それってもしかして大人の階段を昇るってこと!?」
ん? 何か話が怪しい方向へと向かっていないか?
「けどそんなこと好きな人じゃないと無理だよ⋯⋯けど⋯⋯」
「ミリアさんのお父様って独身なのよね?」
「かっこいいし⋯⋯ありよね」
ありってなんだ?
何故か周りにいる女子学生から獲物を狙うハイエナのような気配を感じたため、俺は急ぎこの場を立ち去ることにした。
コンコン
「ユクトです⋯⋯ゼーリエ校長先生はいらっしゃいますでしょうか?」
「どうぞ⋯⋯中に入ってくだされ」
俺は学生達の輪から逃れ、校長室の扉を叩くと部屋の中からゼーリエ校長の声が聞こえてきた。
「失礼します」
俺は扉を開け校長室の中へと入る。
「こちらへどうぞ」
ゼーリエ校長はソファーに腰をかけており、俺はその対面に座るよう促された。
「突然呼び出して申し訳ない」
「いえ、昨日ちょうど帝都に帰って来た所なので問題ないです」
「ブルーファウンテンはどうでした? 銀の竜の情報は掴めましたか?」
ゼーリエ校長は俺がブルーファウンテンに行っていたことを知っているようだ。情報源はミリアかリリーという所か。
「いえ、ブルーファウンテンで目撃されたものは竜なのか魔物なのか分からず終いでした」
「そうか⋯⋯私の方でもまだ銀竜の居場所は掴めておらん」
そうなると何故俺は今日ゼーリエ校長に呼ばれたんだ?
「だが銀の竜について記載されている本を見つけることが出来たので今日はご足労頂いたのだ」
「銀の竜についてですか⋯⋯」
確かに俺は銀の竜は竜種であることしか知らない。
それに気になることもある⋯⋯ブルーファウンテンのザジ村長は
だがタルホ村にいた銀竜は村を滅ぼしていた⋯⋯最強種の竜でも銀竜は特別なのだろうか? それとも人間に恩恵を与える青竜の方が特別なのかが気になる。
倒すことが目的であるなら相手の情報を知っておいて損はないはずだ。
「こちらをご覧下さい」
そう言ってゼーリエ校長は一冊の古い本をテーブルの上に置き中身を開く。
「これは国の歴史について書かれている本です。まずはこちらから見てください⋯⋯竜の中には知能を持った七匹の竜がいるようです。それが銀竜、赤竜、青竜、土竜、緑竜、白竜、黒竜でこれらの竜は女神アルテナ様の使いとされています」
「銀竜が女神様の使いですか⋯⋯信じられません」
銀竜が女神様の使いであるならタルホ村は何か怒りを買うことをしたということなのか。
「焦るでないまだ続きがある⋯⋯だがここの文章を読むとどうやら銀竜だけは別のようだ。12,000年ほど前に女神様に反逆したのかこの世界の人口の半分をみな殺しにしたと⋯⋯」
「みな殺し⋯⋯ですか⋯⋯」
さすがにそれだけ多くの人が殺されれば各国が協力して軍を派遣していたはずだ。銀竜⋯⋯想像以上にやばい相手のようだ。
「そしてこの魔法養成学校の結界はその頃に作られたと記載してあります」
ん? 俺はゼーリエ校長の言葉に何か違和感を感じた。
結界は12,000年前に作られた? 普通に考えるなら銀竜に対するものと考えられるが結界は俺でも破ることができた。世界の半分の人の命を奪った銀竜が結界を壊せないとは考えづらい。もしかして他の⋯⋯別の何かから護るための結界なのか?
だが今はそのようなことを考えても仕方ない。俺は続けてゼーリエ校長の言葉に耳を傾ける。
「そして詳しい内容は書かれていませんが七竜には人智を越えた特殊な力があるらしいです⋯⋯おそらく青の泉がそれに当たるのではないかと」
「確かに病気に効く水は人智を越えていますね。そうなるとブルーファウンテンにはやはり青竜がいるということでしょうか?」
「そこまではわかりませんが⋯⋯とにかく銀竜が人間に友好的ではないことは確かですな」
竜という存在だけでも危険だがさらに人智を越えた特殊能力まであるとは⋯⋯俺は銀竜を倒すことができるのか? だがもし銀竜が魔法養成学校の結界を破れない程度の力であれば勝機はありそうだ。
「以上が銀竜についての情報になります」
そう言ってゼーリエ校長は古書を閉じる。
「お忙しい中、わざわざ調べて頂きありがとうございました」
「このくらい大したことじゃありません。それにユクト殿に貸しを作った方がいいという打算的な考えもありますので」
ただより高いものはないと言うがどうやらゼーリエ校長にはその言葉が当てはまるようだ。
「引き続き調査して何かわかりしだいお伝えします」
「よろしくお願いします」
だがブルーファウンテンを調べて何もなかった今、少しでも銀竜の情報が欲しいため俺はゼーリエ校長の行為に甘えるしかないのであった。
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