第99話 ゼーリエからの呼び出し
二度寝してから一時間後
俺は寝ている娘達やシルルを起こさないようにそっと抜け出すと朝食の準備に取りかかり、サラダにスープ、そしてオムレツを手早く作り皆を起こしに向かう。
「朝食が出来たぞ。そろそろ起きてくれ」
声をかけるとまずセレナとトアがハッと起きて周囲を確認し始める。
「もうこんな時間ですか!」
「パパごめんなさい⋯⋯トア寝坊しちゃった」
「いいんだよ⋯⋯トアも疲れているだろう」
セレナもトアも寝坊したことで恐縮してしまい、着替えるためか慌てて部屋を出ていった。
それにしても2人が遅く起きるなんて珍しいな。ブルク村に住んでいた時も見たことなかったぞ。
俺は不思議に思いつつ残りの2人⋯⋯シルルとミリアに視線を向ける。
2人は今仰向けに寝ているんだが⋯⋯呼吸をする度に上下している胸の鼓動があまりに違っている。
しかもシルルは胸の谷間が見えるシャツを着ているため目に毒だ。
とりあえず布団をかけておくか。
俺はシルルの胸が隠れるように薄手の掛け布団をかけると⋯⋯ミリアは目を覚ましておりじっと俺の行動を見ていた。
「パパひどいよ! 今ボクとシルル姉の胸の大きさを見比べていたでしょ!」
「いや、そんなことは⋯⋯」
あるからハッキリと言えないな。正直な話シルルとミリアの胸の大きさは天と地ほどの差がある。
「パパのバカぁぁっ! 胸が大きくなる魔道具を作って見返してやるぅぅっ!」
そしてミリアは叫びながら部屋を出ていってしまった。
胸が大きくなる魔道具を作るって⋯⋯もしそんなものが出来たらミリアは多くの女性に感謝されるかもしれないな。
「なに? もう朝なの?」
そんな出来事があったとはつゆ知らずシルルが眠い目を擦りながら起床する。
「ああ⋯⋯シルルおはよう。朝食は出来ているぞ」
「おはよう⋯⋯ご飯ありがとう」
シルルはペコリと頭を下げてふらふらと部屋を後にした。
やれやれ⋯⋯朝から我が家は賑やかだな。
些細なトラブルはあるものの、久しぶりの自宅の賑やかさに俺は思わず笑みが溢れるのであった。
朝食時⋯⋯先程俺の部屋であった出来事がなかったかのようにみな食事を取っている。
ミリアも「久しぶりのパパのご飯だあ」と言って俺の部屋であったことを気にしてないのか一心不乱に朝食を食べていた。
そしてシルルはまだ寝ぼけているのかイスに座りながらうとうとしていたため隣にいる世話好きなトアが朝食を食べさせている。
何かシルルは昨日この家に来たばかりなのに馴染んでないか? 俺はシルルと娘達の対応力の早さに、これも若さゆえの柔軟な考えかと驚いている。
「あっ! パパ⋯⋯そういえばゼーリエ校長がパパに会いたいって言ってたよ」
「ゼーリエ校長が?」
朝食を食べ終わったミリアが突如魔法養成学校の校長であるゼーリエさんが俺に会いたいと口にした。
もしかしたら銀の竜について何かわかったのかもしれない。
「うん⋯⋯だから今日はボクと一緒に学校に行こ」
「ああ⋯⋯わかった。教えてくれてありがとう」
今日の予定は魔法養成学校に行くことが決まったが一つだけ心配なことがある。
「シルルは今日はどうする? 先に言っておくが学校に入ることはできないぞ」
魔法養成学校には結界が張られているから部外者であるシルルは入ることはできない。ただ昨日ドミニク皇子に対する態度を見ても1人にするのは心配だ。
「そう⋯⋯それなら⋯⋯今日は寝るから部屋にいる」
「そうか⋯⋯わかった」
シルルが家にいるならとりあえずは安心して魔法養成学校に行ける。
だがゼーリエ校長から銀の竜についての話が聞けるかもしれないがもしかしたらズルドから買った情報と同じ内容かもしれない。
俺はそう思いつつも銀の竜について新しい情報が聞けることを期待してミリアと魔法養成学校へと向かうのであった。
「ゼーリエ校長先生もパパに会いたいだなんて素敵なことをしてくれるね。お陰でボクはパパと一緒に学校に行けるよ」
魔法養成学校へ向かう途中、ミリアは俺の右腕に自分の腕を絡めて上機嫌にしている。
朝ベットでシルルとミリアの胸の大きさを見比べるという非礼なことをしてしまったから機嫌が良くなり俺は少し安心する。
「俺とセレナがいない暮らしはどうだった?」
「う~ん⋯⋯パパとセレナ姉がいなくて寂しかったけど毎日トアと同じ部屋で寝てお喋りして楽しかったよ」
娘達は本当に仲がいい。今までケンカしている所なんてほとんど見たことがないから親としても助かっている。
「それでトアがね⋯⋯」
「まだ準備ができていないのか!」
ミリアが話している最中に前方から突然大きな怒鳴り声が聞こえ俺は思わず視線を送ってしまう。
「ご、ごめんなさい! すぐにやります!」
ん? あの娘は⋯⋯確か前にトアと一緒にいた時に会った⋯⋯サーヤちゃんだ。
「兄はいったいどんな教育をしていたんだ!」
「お父さんは関係ありません。私が至らないだけです」
「子供の不始末は親の不始末だ! 躾がなっていないガキめ!」
中年の男性がサーヤちゃんをどなりつけ突き飛ばす。
「きゃっ!」
サーヤちゃんは軽く声を上げ地面に尻餅をついてしまうが中年の男は構わずこの場を立ち去ってしまう様を見て俺とミリアは倒れたサーヤちゃんの元へと駆け寄る。
「サーヤン大丈夫?」
「大丈夫か?」
こんな小さい娘を突き飛ばすなんて⋯⋯話を聞く限りどうやら中年の男性はサーヤちゃんの父親の弟みたいだな。
いや、今はそこを気にしている場合じゃない地面に押し倒されたサーヤちゃんが心配だ。
俺はサーヤちゃんに手を伸ばすとサーヤちゃんは俺の手を掴んでくれたので引っ張って立ち上がらせるが⋯⋯。
「ありが⋯⋯いたっ!」
サーヤちゃんは手をケガしたのか痛みで顔をしかめる。
倒れた時に手首を捻ったのかもしれない。
俺はサーヤちゃんの手を掴んだまま魔法を唱える。
「ごめんなさい⋯⋯地面に手をついた時⋯⋯あれ? 痛くない!」
サーヤちゃんのしかめた顔が驚いた表情に変わる。
良かった⋯⋯どうやら手の痛みは引いたようだ。
「パパかっこいい⋯⋯サラッとスマートに治しちゃうなんて⋯⋯」
「あっ! ユクトさんが治してくれたんですね。ありがとうございます」
サーヤちゃんは身体の前で手を組みペコリと頭を下げてくる。その所作は綺麗でとても10歳くらいの女の子とは思えないほどだった。
先程あの中年男性がサーヤちゃんのことを教育が出来ていないや躾がと言っていたが俺にはとてもそのようには見えなかった。
「いや、それより手は大丈夫?」
「はい、もう全然痛くないです」
サーヤちゃんはそう言うと笑顔で手首を上下に振り始める。
「あのおじさんサーヤンに酷いことして⋯⋯ボクちょっと文句言ってくる」
そういえばさっきも口にしていたがミリアはサヤちゃんのサーヤンって呼ぶんだな。
「いえ、私が至らなかったから⋯⋯それに叔父さんには感謝してます。叔父さんが継いでくれたからお父さんの商家は潰れずに済みましたし⋯⋯お姉ちゃんを有名なお医者さんに診せてくれて生まれつき身体が弱いのは病気のせいだったと特定してくれました。それに病気を治すために薬も手配してくれています」
厳しいけど悪い人ではないのかな?
サーヤちゃんが納得しているなら俺からとやかく言うつもりはない。
それよりサーヤちゃんのお姉さんが病気なら⋯⋯。
「もし良かったらお姉さんの病気にこの薬を使ってみてくれないか」
俺は異空間から1枚のアオヅミグサの葉っぱを取り出しサーヤちゃんに手渡す。
「これは⋯⋯」
「特別なアオヅミグサで煎じて飲むと病気に効くんだ」
「ありがとうございます! さっそくお姉ちゃんに渡します」
クラウくんのように毒を飲まされているわけではないと思うがこれで治るといいな。
「では、私はお仕事があるので失礼します。お薬本当にありがとうございます」
「バイバイサーヤン」
「仕事がんばってね」
サーヤちゃんは何度もこちらに頭を下げて商家の中に入っていった。
しっかりした子だな⋯⋯だからこそ危ういと感じてしまう。本来あの年齢なら親に甘えていてもおかしくない。ストレスを溜め込まなければいいが⋯⋯。
「今度サーヤンを家に呼んでもいいかな? パパとトアの美味しいご飯でもてなしてあげたいな」
ミリアも俺と同じものを感じたのかもしれない⋯⋯このままだとサーヤちゃんが潰れてしまう可能性があると。
そうだな⋯⋯それで少しでもサーヤちゃんの気が紛れるなら俺も賛成だ。
「その時はミリアも手伝ってくれよ」
「ついに天才料理人ミリアの実力を見せる時がきたね」
ミリアは冗談っぽく言い包丁で物を切る仕草をする。
そして俺達はサヤちゃんが来た時にどんな料理でもてなすか話ながら魔法養成学校へと向かうのであった。
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