第98話 争いは何も生まない

 翌日早朝


 俺は旅の疲れと久しぶりの自宅でのベットということで深い眠りについたようだ。疲労は完全に抜け心地よい温もりが俺の身体を包み込んでいる。


 心地よい温もり? なんだこれは?


 う、動かない⋯⋯両手だけではなく両足も⋯⋯。


 俺は慌てて下半身に目を向けるとそこには⋯⋯。


 ミリアside


 月が空に輝きみんなが寝静まる頃


 ボクは抜き足差し足忍び足でパパの部屋へと向かっていた。

 パパは疲れているかもしれないけど10日も離れ離れだったんだ。今日くらい一緒に寝ても良いよね。

 そしてドキドキした想いを胸にパパの部屋の前に到着すると⋯⋯。


「むっ! 何奴!」


 廊下から気配を感じたので思わず声を上げ視線を送るとそこにはパジャマ姿で枕を前に抱えた妹のトアがいた。

 姉のボクが言うのもなんだけどこの娘本当に可愛いね⋯⋯清楚な白のパジャマが良く似合う。こんな姿で一緒に寝たらどんな男の人もイチコロだね。


「ミリアお姉ちゃんもパパの所に行くの?」


 どうやらトアもボクと同じ考えのようだ⋯⋯さすがは姉妹だね。本当はボク1人でパパを独占したかったけどここで争っても仕方ないのでトアと共闘することにした方が良さそうだ⋯⋯パパの腕は2本あるしね。


「そうだよ。一緒に行こうか」

「うん」


 元々トアは平和主義者なため特に問題なく2人でパパの部屋に行くことになる。


「ゆっくり開けるね」


 そしてトアが音を断てないようにドアを開けるとボク達は一直線にパパのベットへと向かう。

 ベットには布団に入ったパパの頭が見え、規則正しく寝息を立てている姿が伺える。

 久しぶりのパパだ⋯⋯さっきまではシルル姉がいたから自重したけど今のボクを遮るものは何もない⋯⋯後はベットに突撃をするだけだ。


「ボクは右から行くね」

「それじゃあトアは左から」


 ボク達は左右に分かれ後は布団を捲ってパパと一緒に寝るだけだったけど⋯⋯このときボクは何か違和感を感じた。


「誰かいる⋯⋯だと⋯⋯」


 どう考えてもパパの身体の体積では考えられないほど布団が盛り上がっていたのでボクの灰色の脳細胞が一瞬で推理を開始し答えを導く。


「セレナお姉ちゃんだよね」


 けれどボクが真実を言う前にトアが正解を口にする。


 セレナ姉は10日もパパを独占したのにまだ独り占めするつもりなのか⋯⋯我が姉ながら中々やる。

 だけど今日はボクの定位置をセレナ姉に譲る訳にはいかない。

 ボクとトアは目線で合図すると同時に布団をめくる。


 するとそこにいたのは⋯⋯シルル姉だった。


「えっ? えっ? どういうこと? 何でここにシルル姉が⋯⋯」

「ひょ、ひょっとしてシルルお姉ちゃんってパパの恋人だったの?」


 ボクもこの状況に頭が混乱しているけどそれ以上にトアちゃんが驚きの表情を浮かべて今にも目から涙が溢れそうになっていた。

 シルル姉が家に来たのってトアが言うようにパパの恋人だから?

 あまりのショックでボクはトアを気遣うことも声を出すことも出来なかった。


 だけどシルル姉はミステリアスで綺麗な人だけどボクのパパへの想いはこのくらいで挫けることはない。とりあえずシルル姉を起こして本当にパパと恋人なのか聞かないと。


 ボクは事情を聞こうとシルル姉に話しかけようとしたその時、突如パパの部屋のドアが開くとそこにはセレナ姉が立っていた。


「やはりこうなりましたか⋯⋯」

「セレナお姉ちゃんどういうこと?」


 トアの問いかけにセレナ姉はやれやれといった様子で語り始める。


「シルルさんは出会った頃からずっとパパの布団に入って一緒に寝ているんです」

「「えっ!」」


 出会った頃からパパの布団に入って一緒に寝ている!?

 ボクとトアは驚きのあまり声を出してしまう。


「一目惚れっていうやつかな?」

「一目惚れ! けどパパにならあり得るかも」


 夕食の時セレナ姉に話を聞いたけど拐われた所を颯爽と現れたパパに助けてもらったらそれは惚れるよね。


「まあ今はいいや⋯⋯ボクはもう眠いから寝るね」

「えっ? ミリア寝るってどこで⋯⋯」


 シルル姉はパパの右側に寝ているならボクは左側に移動する。


「ちょ、ちょっとミリア何を!」

「ボクはもう眠いから寝るね」

「トアも~」


 ボクはパパの左腕をトアはパパの左足を抱き枕にしてベットに横になる。

 やっぱりパパの隣で寝るのは一番安心するけど最近はすごくドキドキもするんだよね。


「2人とも、いえ3人ともパパから離れなさい!」

「嫌だよ、今日くらいパパと一緒に寝ても良いでしょ?」

「セレナお姉ちゃんもパパの右足の所が空いているよ?」


 トアの悪魔の誘惑にセレナ姉の心が傾き始める。

 セレナ姉も我慢しなきゃいいのに。ボクから見てもセレナ姉がパパのこと大好きなのは明白だ。


「で、ですが年頃の男女が一緒に寝るなんて⋯⋯」


 今までセレナ姉もパパと寝てたいたのに無理しちゃって。

 それならとボクはより一層強くパパに抱きつくと⋯⋯。


「あっ!」


 セレナ姉は声を上げあたふたと慌て始めそして⋯⋯。


「ふ、不純なことが起きないか心配なので今日は私もここで寝ます」


 そう言ってセレナ姉はパパの右足付近でボクの方に顔を向けず横になる。


 不純なこととはどんなことかセレナ姉に聞いて見たかったけどこれ以上イジルのはかわいそうだし眠かったのでボクはパパの腕に包まれ夢の世界へと向かうのであった。


 翌日早朝ユクトside


 俺は下半身に目を向けて見るとそこには⋯⋯娘達とシルルが俺の両手両足をがっちりとホールドしていた。


 みんないつの間に俺の布団に入ってきたんだ。

 しかもそのことに気づかないとは⋯⋯どれだけ俺は疲れていたんだ。

 いくら心を許している娘達だからといってもしこの状況をおやっさんに知られたらたるんでいると叱責を受けることは間違いない。

 とりあえずどうするか⋯⋯みんな幸せそうに寝ている。


「もう一度寝るか」


 皆ぐっすり眠っているのにわざわざ起こす必要はないし、旅から帰って来たばかりだ⋯⋯今日くらい二度寝してもいいだろう。


 こうして俺は娘達とシルルの温もりに包まれながらもう一度夢の世界へと旅立つのであった。


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