第97話 久々に会う娘達
ドミニク皇子がこの部屋を立ち去った後、兵士達が亡骸となったトグラの処理を行っている。
「トグラ医師から黒幕へと繋がる道が絶たれてしまいましたね」
ラニは肩を落とし悔しさをにじませていた。
死人に口なし⋯⋯何故トグラはクラウくんに毒を飲ませたのか、永遠に真実が語られることはなくなった。
「自分の不利な状況を覆すためにまさかあのような手に出るとは⋯⋯ドミニクお兄様は人の命をなんだと⋯⋯」
普通では考えられない⋯⋯だが貴族で、ましてや皇族なら下を切り捨てるなど当たり前のことだ。
そのことを頭の中に入れておきながらこの場では行動に移さないと甘い考えをしてしまった俺の落ち度でもある。
「ユクトさんは旅から戻ってきたばかりですよね? 後は僕達でやりますので今日は自宅にお戻り下さい」
確かにこの場に俺達がいても何も出来ることはない。
俺とシルルはクラウくんの言葉に従ってこの騒然とした屋敷を立ち去ることにした。
屋敷を出ると辺りは暗く、人の数は帝都に到着した時とは違い既にまばらになっていた。
クラウくんにアオヅミグサの薬が効いた場合、恩人であるシルルがいた方が良いと思ってついてくることを容認したが、トグラが殺害される現場を見せることになってしまい申し訳ないことをしてしまった。
「さっきの男は誰ですか?」
「ああ⋯⋯この国の⋯⋯皇帝の息子だよ」
「皇帝?」
シルルは皇帝のことを知らないのか? 世俗を離れた生活をしていたとしてもさすがにおかしいと感じたが、今は色々なことがあり疲れていたこともあってその事にふれる気にはなれなかった。
「簡単に言うとこの国で2番目に偉い人だ」
「ふ~ん⋯⋯偉い人なのに嘘をつくんだね」
「わかるのか?」
「うん」
シルルはあまり人と関わることをしていなさそうに見えたので他人の考えには疎いと思っていたが、意外に観察力があるのかもしれない。
「ラフィーニもクラウもレイラもユクトも嫌いな人なんでしょ? 私達を拐った人達みたいに倒せばいいのに」
おいおい⋯⋯シルルはかなり物騒なことを口にするな。あの時の奴らと同じ様にということはドミニク皇子の首をはねるということだ。
確かにドミニク皇子の命を奪えばラニやクラウくんに危害が及ぶことはなくなるが代わりに俺や娘達はこの国を追われることは間違いないだろう。
「シルル⋯⋯ここで暮らしていくなら冗談でもそんなことを口にしたらダメだぞ」
「わかった⋯⋯ユクトに従う」
シルルは一応俺の言うことを聞いてくれそうだが、何かこの先問題を起こすのではないかと不安に思う俺だった。
そして俺は約10日ぶりに娘達の家へと戻ってきた。
まずはシルルのことを娘達に話さないとな。セレナの中ではシルルが自宅に泊まるのは数日だと思っているだろうから話を修正しないとならない。
「ただいま~」
俺は娘達の自宅のドアを開くと突然何かが飛び込んできた。
「パパァァ! おかえりなさい! ボクすごい寂しかったよ。けどボク達は遠距離恋愛という試練に打ち勝ったね。これで2人の愛は一層深まったから次のステップに進めるよ」
ミリアが胸の所に頬擦りしている様を
「あ、あれ? パパってこんなにぷにぷにだったっけ? 特に胸の所が⋯⋯」
ミリアはあろうことか両手でシルルの豊満な胸を揉みしだいていた。
そう⋯⋯ドアを開けた瞬間何故かシルルが体当たりをしてきて、俺とシルルの位置が入れ代わっていた。
「はっ! この感触⋯⋯ボクのバストでは一生味わえないものだ! まさかパパ⋯⋯女の子になっちゃったの!!」
「そんなことあるはずないでしょ!」
「イタッ!」
セレナがバカなことをしているミリアの頭を軽く小突いた。
「お客様になんて失礼なことをしているのですか! シルルさんうちの妹がおバカで申し訳ありません」
「バカってなんだよぉ⋯⋯酷いよセレナ姉⋯⋯」
本当は天才なのだが今の行動はおバカと言われても仕方がないな。
「ミリア⋯⋯トア⋯⋯」
俺は涙目になっているミリアとあたふたしているトアの名前を呼び抱き寄せる。離れていたのは10日余りだが娘達が愛おしくてたまらない。
「「パパ⋯⋯」」
それはミリアとトアも同じなのか俺の名前を口にすると2人が抱きしめる手に力が入った。
「ただいま」
「「おかえりなさいパパ」」
こうして俺は娘達がいる家へと久しぶりに帰宅することができ、安らぎを覚えるのであった。
「初めまして! ボクは天才美少女で次女のミリアだよ。魔道具作製が趣味で好きなものはパパです」
今は娘達とシルルで夕食を囲みながらお互いの自己紹介をしている所だ。
「え~と三女のトアです⋯⋯趣味は料理で好きなものはミリアお姉ちゃんと同じでパパです」
「はい、次はセレナ姉の番」
「わ、私は今更やる必要ないですよね」
「何を言ってるの? こういうのはその場の流れっていうやつがあるんだよ。セレナ姉も自己紹介やってほしいなあ」
ミリアが猫なでな声でセレナにお願いをする。
「わかりました、やればいいのね。長女のセレナです⋯⋯趣味は鍛練をすることです。これでいいですか?」
「えっ? まだ好きなものを言ってないよね?」
「す、好きなものですか⋯⋯好きなものは⋯⋯パ⋯⋯」
「「「パ?」」」
俺以外の者がセレナに聞き返す。
「パ⋯⋯パンケーキです!」
そして叫ぶように好きなものを口にした。別に恥ずかしがることではないと思うのだが。
「パンケーキが好きだなんてセレナ姉女の子っぽくて可愛いね」
「セレナお姉ちゃん可愛い~」
「べ、別に普通ですよ! それより次はシルルさんの番です」
セレナはこれ以上追及されるのが嫌だったのかシルルに自己紹介を促す。
「シルル⋯⋯趣味は寝ること⋯⋯好きなことはユクトの隣で寝ること」
「「えっ?」」
シルルの言葉にミリアとトアが驚きの声を上げる。ちなみに俺とセレナはこの旅でそのことを知っているため驚くことはない。
「えっ? 今のは場を盛り上げるためのギャグ?」
「トアの聞き間違いかな?」
2人ともシルルの言葉が信じられないのか頭にハテナを浮かべている。
わざわざここで本当のことだなんて言わなくてもいいだろう。
「それより今日シルルからもらった薬で――」
俺は薬を飲んでクラウくんの体調が良くなったこと、シルルがここに住みたいと言っていることを話した。
「シルルさんの行動には目に余る所がありますがラニお姉さんの弟であるクラウ皇子の命を救ってくれたのです。私は良いと思います」
「ボクも異論はないよ」
「わあ⋯⋯楽しくなるね。シルルさんの好きな食べ物と嫌いな食べ物教えてほしいな」
娘達から賛同を得ることができたことに俺は安堵する。これで少しは薬をもらった恩を返せたかもしれない。
それに娘達とも上手くやれそうな感じだな。
こうして夕食は和やかなムードの中で終わったが⋯⋯。
夜が更ける前
俺は旅の疲れと久々のベットということで早々と就寝に着く。
だがそんな俺の部屋に忍び寄る魔の手? が迫っていることにこの時の俺は気づいていなかった。
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【読者の皆様へ】
毎日更新して来ましたが、少し構想を練るため今後は週終わりにまとめてか2、3日に一回投稿となります。なるべく皆様に読んで頂ける物語を提供して行きたいと思っていますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。
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