第85話 現れた魔の手
「私が囮になります」
「ダメだ!」
セレナがとんでもないことを言い出したので俺は透かさず反対の言葉を口にする。
セレナを囮にする⋯⋯だと⋯⋯本人が言い出したとしてもそんなことが許されるはずがない。
「パパ⋯⋯パパが私のことを心配してくれるのは嬉しいですけど今は拐われた方達が心配です」
「しかし⋯⋯」
セレナが言うことは正しい⋯⋯拐われた人達は捕まって暴行されたり下手をすると奴隷として売られてしまうかもしれない。
「今はスピード重視で解決していくことが大切ではないのですか?」
時間が経てば経つほど拐われた人達の身の安全は保障されなくなる。
だが自分が囮になるならいいが娘を囮にするなんて⋯⋯もし何かあったら⋯⋯。
「それにパパが必ず私を助けてくれると信じていますから」
そう言って全く不安を感じさせない笑顔を俺に向けてきた。
くっ! そんな言葉と顔を見せられたら何も言えないじゃないか。
「わかった⋯⋯だが少しでも危険だと感じたら囮作戦は中断してすぐに助けにいくからな」
「はい⋯⋯それで大丈夫です」
拐われた子達のことも心配だがもしもの時はセレナを優先して動くことを俺は決意する。
「私が言うのも何だが、本当に囮などして大丈夫だろうか?」
「ザジ様⋯⋯大丈夫ですよ。私、パパより強い人を見たことありませんから。拐われた人達を必ず助け出して見せます」
「申し訳ありません⋯⋯ブルーファウンテンの村長として、シルルの友人として感謝致します」
こうして拐われたシルルさん達を助けるため、セレナが囮になる作戦が決行されることになるのであった。
そして太陽が1番高く登った頃、セレナの囮作戦が決行された。
セレナは剣を俺に預け、村の人気のない場所や街道を歩き、若い女性達を拐った奴らが来ないかと待ち構えている。
ちなみに俺はセレナの30メートル程後ろから隠れて尾行していた。
正直俺は気が気じゃない⋯⋯セレナとすれ違う者全てが怪しく見える。
むっ!
1人の商人風の男がセレナの前で立ち止まった。
奴が若い女性を拐っている犯人か! しかも商人となると奴隷商人の可能性があるな。
まさかセレナを奴隷にするつもりなのか!
俺は商人風の男の一挙手一投足に注視する⋯⋯いざとなったらこの位置から無詠唱の魔法を放ってやる。
だが俺の思いとは裏腹にセレナはその商人と何か一言二言話すと、商人は離れていった。
ん? 今の商人は犯人とは関係ない人だったのか? それともセレナが後ろを向いた所を狙って⋯⋯。
しかし俺の思惑は外れ、商人はセレナの方など気にせずそのまま真っ直ぐと歩いていく。
ふう⋯⋯何事もなかったか。俺は商人がセレナを拐おうとしていないことがわかり安堵のため息をつく。
いや、俺は何をやっているんだ。セレナを心配するあまり冷静な判断が出来なくなっている。
こんなことで狼狽えているといざという時にセレナを護ることが出来なくなるぞ。
落ち着け、落ち着くんだ。大丈夫、セレナは素手だとしてもそう簡単にやられる程弱くはない。
今は冷静になってシルルさんや若い女性を拐った犯人を見極めるんだ。
俺は一度目を閉じ、深呼吸をして自分の中に渦巻く感情を落ち着かせる。
よし⋯⋯これで大丈夫だ。
そして俺は無理やり平静さを保ちながらセレナの尾行を続けるのだった。
囮作戦を始めて3時間⋯⋯未だに若い女性を拐った犯人からの接触はなく、セレナはブルーファウンテンの村の西側へと続く街道を歩いている。
セレナを拐いやすい状況を作っているが、何も起こらないということはシルルさんや若い女性達は拐われたわけじゃないのか?
明日また囮作戦を行って何もなければ、拐われた以外の要因を考えた方がいいかもしれないな。
そして辺りの景色が紅色に染まり始めた頃⋯⋯セレナの背後から1台の馬車が通りすぎようとしていた。
馬車か⋯⋯あれに乗せれば目立つことなく人を拐うことができるな⋯⋯俺はそんなことを考えていた。すると突如馬車はセレナの前で止まると中から三人の男が現れ、大きな布でセレナを包んでいった。そして馬車はそのままセレナを乗せあっという間にこの場から走り去って行くのであった。
きたか!
俺はセレナが拐われてしまったことで魔法を放とうしたが何とか堪え、馬車に乗っている奴らに見つからないよう木々に隠れながら尾行していく。
セレナは大丈夫だろうか?
常にセレナの気配を確認しながら尾行しているが、心配で仕方がない。
いや、セレナなら布くらい軽くぶち破ることができるはず。今は娘を信じて誘拐した奴らのアジトを突き止めるだけだ。
それにしても馬車はどこに行くつもりなんだ? 今馬車はブルーファウンテンの村から街道を使って西側に進んでいる。
どこまで行くのかわからないけど拐われた人達も無事だといいが⋯⋯。
そして尾行して数分経った頃、馬車は街道を剃れて森の方へと入っていく。
森へ入ってくれるのなら隠れる場所もたくさんあるため後をつけるのが楽になるな。
そして馬車がギリギリ通れる位の細い道を進んでいくと開けた場所に出たため、俺は茂みに隠れて様子をみる。
ん? あれは洞窟だな。
そこには5メートル程の大きさの空洞が見えた。
なるほど⋯⋯街道から外れた洞窟なら人を隠すにはもってこいの場所だな。
すると馬車は止まり、布に包まれたセレナが降ろされ洞窟へと運ばれていく。
これは決まりだ⋯⋯ここが奴らのアジトなのだろう。
洞窟の入口には見張りはいない⋯⋯セレナのことが心配だ、俺もこのまま中へと向かうぞ。
こうして俺はセレナを拐った馬車を追いかけ、その先にあった洞窟へと侵入するのであった。
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