第86話 シルル

セレナside


ブルーファウンテンの西側へと続く街道を歩いていたら突然馬車が目の前に止まった。そして私は馬車の中から現れた三人の男に布を被せられ馬車へと連れ込まれた。

この人達がシルルさん達を拐った犯人ですか⋯⋯今日はもう囮作戦は失敗かと思っていたので犯人と思わしき人達が現れて安堵する。

拐われて安堵するっていうのもおかしいけど私を拘束した布は少し力を入れれば破ることが出来そうだし何よりパパが私を護るために馬車の後ろから追って来ているので怖いことなど1つもない。


そして馬車が進むと私を拐った人達の会話が聞こえてきたので耳をすまして声に集中する。


「へっへっへ⋯⋯今回の娘はかなり上玉だぞ」

「おまえら手をつけるなよ。生娘の方が高く売れるからな」


男達の下衆な会話から察すると私は誰かに売られるみたいですね。拐われた方達は無事だといいのですが⋯⋯。

けれど私の思いとは裏腹にこの人達は驚くことを口にしてきた。


「昨日かしらが愉しみ過ぎて1人壊れちまったからな」

「ほんと勘弁してほしいぜ。俺達には我慢しろと言ってるくせにさ」


この人達はまさか快楽の為に1人殺したというの!

私は怒りで思わず拘束している布を破ってこの人達を襲いかこかろうと考えましたが拐われた方達の居場所を突き止めるために何とか堪える。


そして暫くすると馬車は止まり、私は抱きかかえられどこかに連れていかれた。


ここはどこなのだろう? 先程より少し肌がひんやりする気がする⋯⋯湖とか水に近いところでしょうか?


そして1~2分ほど抱きかかえられた後、私は地面に降ろされ布を剥がされるとそこは薄暗い部屋だった。


壁が石でゴツゴツしている? ここは⋯⋯洞窟? だからひんやりすると感じたのね。


そしてこの部屋には私の他に5人程の男性と4人の女性がいた。


「この嬢ちゃん、今日拐った奴と同じで全然騒がねえな」


1人の男が私を見ておかしいと思ったのか声を上げる。


はっ! これでは私が囮でここにいることが見破られてしまう!


「キャア⋯⋯ココハドコナノ、タスケテー」


私は拐われた女性らしく声を上げる。そして誘拐した男達の顔を見ると全員驚いた表情をしていた。

ふふ⋯⋯どうですかこの演技力。将来演劇で食べていける程でしょう。


「な、何だこの棒読みの言葉は⋯⋯」

「突然こんな所に連れてこられて頭がおかしくなってるんじゃねえか」


なっ! 何て失礼な方ですか! 私の演技を棒読ですって!


本当はこの人達をすぐにでも倒したかったけど拐われた方達もいますしここはパパがくるのを待ちましょう。


「とにかくお前もここでおとなしく待ってろ。逃げようなんて考えるなよ? もし逃げたら俺達何をするかわからねえぞ。ふっへっへ⋯⋯」


そして盗賊達は下衆な笑みを浮かべながら部屋から出ていく。

この人達には嫌悪感しか感じない。一刻も早く排除したいけどもう少しのの辛抱です。今は拐われた方達を安心させないと⋯⋯。

私は部屋の中に視線を向けると女性三人が身を寄せるように固まり、もう1人の女性は落ち着いた様子で地面に座っていた。

私はまず三人の元へと向かい小声で話しかける。


「皆さん安心して下さい。すぐに助けが来ますから」

「ほ、本当ですか⋯⋯」

「もう私達怖くて怖くて⋯⋯」


三人は私の声に少し安心したのか笑顔を見せてくれる⋯⋯早くここを出て本当の意味で安心させてあげたいけど⋯⋯。

そして私はもう1人の女性にも声をかけようと視線を向けた時⋯⋯こんな状況で不謹慎ながら目を奪われてしまった。

銀髪の髪と瞳、雪のように白い肌、まったくズレのない左右対称の顔、表情は乏しいけどそこがまたミステリアスに見え美しさを際立たせている。


驚きました⋯⋯こんな風に人の容姿で衝撃を受けることなんて始めてです。ミリアやトアちゃんラニお姉さんも可愛いですけどどこか三人とは美しさの系統が違うように感じます。


銀髪の女性は私の視線に気づいたのか真っ直ぐとこちらを見てくる。


うっ! 女性をジロジロ見るなんて失礼でしたね。

私は一度深呼吸をして改めて銀髪の女性に話しかける。


「大丈夫ですか?」


しかし銀髪の女性は立ち上がり視線こそ向けてくれるが言葉が返ってこない。もしかして男の人達に拐われた恐怖で言葉が出ないのかもしれません。


「あの⋯⋯その人言葉が話せないみたいですよ」

「昨日ここに来てから一言も喋ってないですから」


拐われた女性達がそう教えてくれましたが、当の本人は首を横に振っている。

そして何度か「あ~、あ~」と声を出す仕草をして私の方に向き合うと⋯⋯。


「暫く喋ってなかったから⋯⋯声の出し方忘れてた」


銀髪の女性はボソボソと小さな声で話し始めた。

透き通るような綺麗な声ですね。容姿といい天はこの方に二物を与えていたようです。


「そうですか⋯⋯あなたはひょっとしてシルルさんですか?」


ザジ様がシルルさんは森の奥で1人で暮らしていたと言っていました。それなら暫く声を出していなくても不思議じゃないです。


「うん⋯⋯私はシルル。よく名前がわかったね? 君は何か特別な力があるんだね」


勝手に特殊能力を持っていると勘違いされてしまいました。何かこの方少しずれていますね。


「いえ、ザジ様にお話を聞いていましたので」

「そう⋯⋯なんだ」

「とにかく助けが来ますからもう少しの辛抱です」


そしてシルルさんは頷くとまた初め会った時と同じ様に地面に座り込んでしまった。


度胸があるというか何というか森の奥で1人で暮らしていることもあり、やはりシルルさんは少し変わっていますね。


そしてシルルさんとの話が終わった後、何やら部屋の外が騒がしくなり誘拐犯達の声が私達にも聞こえてきた。


「それにしてもかしら達昨日から戻ってきませんね」

「どうせ略奪した村で愉しんでいるんだろ?」

「マジか! こっちにもおこぼれくれねえかなあ」


どうやらこの人達以外にも仲間がいるようです。それにしても側でこのような話を聞かされていたら恐怖でしかありませんね。実際拐われた三人の女性は誘拐犯の言葉を聞いてガタガタと震えています。

しかしその三人の女性と比べてシルルさんは⋯⋯全く狼狽えていない。私が言うのもなんですけどシルルさんは自分が助かるという確信があるのかしら。

下手に騒がれるよりはいいですが⋯⋯。


そして私はパパが助けに来るのを待っていると突然身の毛がよだつほどの殺気を感じ、恐怖で立つことが出来なくなるのであった。


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