第74話 パルズVS盗賊

帝都を旅立ってから2日目の朝


俺とセレナとパルズの3人は朝食を終え、銀の竜を探すためブルーファウンテンへと向かっている。そして今日は運が良いことにグリード領方面に行く商人の馬車と出会い、道中護衛をする約束で俺達も馬車に乗せてもらえることとなった。


「ふあぁ~あ⋯⋯」


パルズは眠いのか、はたまた馬車のリズミカルな揺れが気持ちいいのか欠伸をしながら今に目を閉じそうだった。


「パパ、パルズさん⋯⋯昨日は1日中見張りをして頂きありがとうございました」

「それはさっきも聞いたぞ。パルズに野営について教えるちょうどいい機会だったから気にするな」


昨日は0時までパルズと野営について話、0時~4時までは俺が、4時~6時まではパルズが見張りを担当した。


「師匠に話を聞けたのは良かったけど⋯⋯さすがに眠いからちょっと寝るわ」


そう言ってパルズは馬車の荷台に寄りかかりそのまま眠りについてしまう。

パルズは慣れない中での野宿だったため疲れているのも無理はないか。そう考えると昨日は遅くまで話に付き合わせて申し訳なかったな。この馬車に乗っている時間くらいは寝かせてやろう。


そして馬車に揺られること7時間⋯⋯空はすでに太陽の光から夕陽の赤色に変わろうとしていた頃。

商人はグリード領には行かず、ここから西へ1時間程の街へと向かうため、俺達は馬車を降りることにする。


「ふあぁ~あ⋯⋯良く寝たぜ」


パルズは欠伸をしながら両手を空に伸ばし身体の状態を確かめている⋯⋯結局馬車に乗ってから1度も起きなかった。


「少し寝すぎじゃないのか? ひょっとして今日も夜中の見張りをやってくれるのか?」

「そ、それは勘弁してくれ。今日はここから少し歩いた所に村があるからそこに泊まろうぜ」


パルズは昨晩の野営で懲りたのか村に宿泊することを推奨してくる。


「ノボチ村だったか⋯⋯確かそこはもうグリード領に入っているはずだ」

「ああ⋯⋯村は寂れているが紫色のアマイモが特産品で人気なんだ。師匠も気になるよな? 今日はノボチ村に泊まろうぜ」


パルズはそう言って俺とセレナに同意を求めてくる。


「私はパパの指示に従います」


さすがに2日連続の野営は止めておくか⋯⋯明日にはブルーファウンテンに到着するから銀の竜の調査のために体力は温存しておきたいしな。


「わかった⋯⋯今日はノボチ村に泊まるとしよう」

「やったぜ!」


ノボチ村に宿泊することが決まるとパルズはスキップをしてしまいそうなくらい喜びを爆発させていた。パルズはそんなに野営をするのが嫌だったんだな。

そして俺達は1時間程北へ向かうと辺りは夕暮れ時となり、木で出来た家がポツポツと見え始めてきた。


「ショボい村だけど泊まれる所くらいあるだろう。それに俺が公爵家の者だとわかれば最高級のもてなしをするはずだ」

「パルズ待て、1つ言い忘れたことがある⋯⋯この旅の最中公爵家の者だと名乗ることは禁止だ」

「はあ!? 何でだよ! 俺が公爵家の者だってわかった方が楽に旅ができるじゃねえか」


パルズは何もわかってないな⋯⋯公爵家の者がここにいるとわかったら自分にどれだけの不利益があるということを。これはしっかりと説明した方がいいだろう。


「公爵様には政敵はいないのか?」

「誰かはわからないけどもちろんいると思うぜ」


わからないけどいるのか⋯⋯やはり貴族社会は殺伐としたものらしい。

それに今は皇位継承問題もあるから尚更だな。


「そんな中、公爵家の息子が護衛も付けず旅に出たなんてことになったらどうなるかわかるだろ?」

「ま、まさか俺を誘拐するつもりか⋯⋯」


パルズの言うとおり誘拐して自分達の言うことを聞かせるようにするのが一番あり得る話だ。しかしもし憎しみを抱くほどの政敵がいたらパルズを殺すことで公爵に精神的ダメージを与えることも考えられる。


「そうなるかもな⋯⋯それに俺はセレナに普通の旅を経験してほしいと思っている。だから余計なことは言わないようにしてくれ」

「わ、わかった⋯⋯」


どうやらパルズは自分が狙われているかもしれないと気づき俺の言うことに従ってくれるようだ。だが正直な所パルズが襲われることになってもそれはそれでいいと俺は考えている。

暗殺、誘拐するような奴らなら十中八九ドミニク陣営の者達だろう。こちらに目を向けてくれればその分ラニ達へ向けられる目も減り、危険は少なくなるはず。ただそのようないざこざにセレナを巻き込むことだけは望んでいないが⋯⋯。


「とりあえず公爵家の名前は出さねえから泊まれるとこ探してもいいか?」

「俺達からあまり離れるなよ」

「わかってるよ⋯⋯俺だってまだ死にたくねえし」


そう言ってパルズは宿を探しに村の中へと歩いて行くのであった。


パルズside


あ~あ⋯⋯今日はこんなチンケな村に泊まるのかよ。正直な所かなり不服ではあるが野宿するよりはマシだ。

それにしても昨日の師匠はマジ怖かったな⋯⋯思わず小便がチビるところだったぜ。いきなり頭まで数ミリの所に剣を振るか普通? 下手すれば俺はあの世行きだったぞ。とりあえず今後セレナが関わることについては慎重に動いた方がいいな。まあ命が惜しいなら師匠に関わらないことが一番だが⋯⋯。


「けど師匠はやっぱすげえよな」


昨日俺に向かって放った剣速はまったく見えなかったし、野営についての話も解りやすかった。

セレナは剣聖の称号を持っているけどそんなこととは関係なく強いのも頷ける⋯⋯師匠に何年も教えてもらっているからな。俺も数年経てばあんな風に強くなれるのだろうか?

称号に関しては剣聖には劣るが、俺も守護騎士というレアなものを貰っている。ガキの頃に会ったラフィーニ様の気高い姿に一目惚れして将来この人の役に立ちたいと思っていて、称号が守護騎士とわかってからは益々その気持ちは強くなった。


師匠はこええけどこの人についていくのがラフィーニ様の親衛隊になる一番の近道だと思う。


「待ってろよ⋯⋯今にセレナよりつええ騎士になってやるから」


俺は将来の目標を言葉にし、今日の宿を探すため村の中を駆けずり回るのであった。



「この村にはあんたらが休める場所などないよ」


俺は村の連中に泊まれる場所がないか聞いて回ったが返ってくる答えはいつもこれ⋯⋯こいつらは余所者を泊めたくないのか? もし師匠がいなかったらぶちギレる案件だぞ。

それにしてもこの村には年寄りとガキしかいねえのか。せめて若い女でもいれば話しかける気にもなるんだが⋯⋯。


「と、盗賊じゃぁぁっ!」


俺は泊まれる場所を聞くため村人を探していると突然どこからか声が聞こえてきた。


「な、なんだ⋯⋯盗賊?」


耳を済ませてみると「助けて」、「逃げろ」などの声が東の方から聞こえてくる。


「ど、どうする?」


声を聞く限り盗賊がこの村を襲っていることは確かだ。助けに行くべきか? しかし敵が何人いるかわかってねえのに飛び込んで殺されるのはゴメンだ。さっき師匠も俺が公爵家の者だとわかれば誘拐されるかもしれねえって言ってたし⋯⋯ここは隠れるのが先決だな。


俺は辺りを見渡し、どこか身を隠す場所がないか探す⋯⋯すると東側から気配を感じたので視線を向けると走っているガキが目に入ってしまった。


「た、助けてぇぇっ!」


ガキは泣き叫びながら俺がいることに気づいたのかこちらに向かってくる⋯⋯そしてそのガキの背後には剣を持った男がいた。


「うるせえ糞ガキだな! 逃げるんじゃねえ!」


盗賊と思われる男は片手に持った剣を振り回しながらガキに近づいていく。

ガキと大人⋯⋯足の速さは歴然だ。追いつかれるのは時間の問題だろう。

どうせ今から助けに行っても間に合わない。無理に正義感を振り回して公爵家の俺が殺される? そんな未来はありえない。平民のガキ一人のために命をかけられるか。


「助けてお兄ちゃん!」


しかし俺の決意とは裏腹にガキが涙や鼻水を垂らしながらすがるような顔で俺に助けを求めている。

そんな顔で俺を見るんじゃねえ。お前のせいで俺も盗賊から逃げられなくなるだろ。

俺は急ぎこの場から離れるため足をと動かす。


「あっ!」


ガキは俺が向かっている姿を見て一瞬嬉しそうな表情をする。


「くそっ! 何だって俺は!」


逃げようとした時何故か思い浮かんだのが師匠やセレナ⋯⋯そしてラフィーニ様だった。

この三人なら迷わずガキを助けに行くだろう⋯⋯そんな考えが浮かんだら自然と足が前に進んでいた。


「ちくしょう! 厄介な人達と知りあっちまったぜ!」


だが今さら嘆えても仕方ねえ。もう動いちまったんだ⋯⋯何としてもガキを助けるぞ。それに幸いなことに他の仲間が見当たらねえからこいつを倒してすぐに隠れればその後は乗り切れるはずだ。

しかしガキまで約30メートル⋯⋯その背後にいる盗賊はすぐガキの後ろに迫っている⋯⋯このまま走っていくだけじゃ間に合わねえ。俺は走りながら腹に力を込める。


「師匠! 後ろから盗賊を弓矢で狙ってくれ!!」


俺は師匠に向かって大声を上げると案の定盗賊は後ろをチラチラと振り返りながら警戒し走るスピードが遅くなるが、盗賊はまだガキを追いかけているから急がねえと。


「ちくしょう誰もいねえじゃねか!」


そして盗賊は俺の嘘に気づき、激昂しながらガキに向かって剣を上段から振り下ろす。


「くっ!」


俺は何とか2人の間に割って入り盗賊の剣を受け止めることに成功するとガキはそのまま走って木の陰に隠れたようだ。


「間に合ったか!」


し、しかしすげえ力だ⋯⋯何とか切り払いたいが相手の力が強すぎて動かすこともできねえ。


「俺の剣を止めるとはやるじゃねえか⋯⋯だが腹ががら空きだぞ!」


盗賊は俺が動けないことを良いことに腹に向かって蹴りを放つ。


「ぐはっ!」


俺はその攻撃を成す術もなくまともに食らい後方へ吹き飛ばされる。


いてえ⋯⋯こいつなんてパワーをしてやがる。このまま待ってれば師匠達が来るとはおもうがやられっぱなしは性に合わねえ。


「死ね!」


俺は立ち上がり盗賊に向かって右に左にと剣を繰り出す。


悔しいがこいつと力比べをしても負けるだけ⋯⋯それなら手数の多さで勝負だ!

だが盗賊は俺の剣を軽々と受け止めかすり傷1つ作ることができない。


「くっくっく⋯⋯この程度か? 息巻いて現れたにしちゃあ大したことねえな」

「バカヤロー! 本気を見せるのはこれからだ!」


くそっ! 口では強がって見せたが全然剣が当たらねえ。何なんだこいつは? それとも俺が雑魚すぎるのか?


盗賊に攻撃を受け止められることによって俺の中に焦りが生まれてくる。

ダメだ⋯⋯このままだと攻撃を当てることが出来ねえ。盗賊は俺の剣を完全に読んでいる⋯⋯何か、何か手はないのか?

だが迷っている隙に俺は盗賊の上段からの攻撃を受け止めると剣が後方に弾かれ地面に膝をついてしまう。


「ち、ちきしょう⋯⋯」


攻撃は当たらない、剣もない、俺はこのまま殺られるだけなのか!

そして盗賊は俺の前に立ち勝ち誇った顔をして剣を振り上げる。


「無駄な正義感を振りかざした自分を恨むんだな」


くそう! セレナだったらこんな奴簡単に倒すことが出来るだろう。それに比べて俺は⋯⋯。

この時俺は騎士養成学校で無駄に過ごして来た日々が走馬灯のようにかけ巡り、後悔の念が浮かんでくる。


「パルズ!」


だが俺の走馬灯は師匠の声によって現実に引き戻された。


「ちっ! 本当に仲間がいやがったのか⋯⋯まあいいそろそろ暗闇で視界が悪くなる⋯⋯撤退するぞ!」


盗賊はそう言葉にすると仲間と思われる奴らが現れ、合流しその場を立ち去るのであった。


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