第71話 誰にだって裏の顔がある
そして俺はラニとクラウの護衛を頼むためある2ヶ所の場所に向かい話をしていたら時間はいつのまにか夕方となっていたため、俺はズルドとの約束通り酒場ラファルへと移動した。
「へへ⋯⋯さすがユクトの旦那⋯⋯時間通りですね」
「時間を守るのはビジネスの基本だからな」
酒場に到着し、俺は真っ直ぐに奥の個室へと向かうと既にズルドは到着していたようで薄ら笑いを浮かべながら酒を飲んでいた。
「へへ⋯⋯相変わらずお堅いですねえ」
「そんなことより銀の竜について教えてくれないか」
「承知しました⋯⋯では銀貨10枚でどうでしょう」
銀貨10枚? 銀の竜という希少な竜の情報がか? 俺が想像していたより安い料金だ。これは大した情報ではない可能性が高くなったな。
「オッケーだ⋯⋯聞かせてくれ」
俺は異空間から銀貨10枚を出してズルドに支払う。
「へへ⋯⋯ありがとうございます」
「それで⋯⋯どの程度の情報なんだ」
「ユクトの旦那にはバレていますね⋯⋯申し訳ありませんが精度の高い情報を得ることを出来ませんでした」
「とりあえず話してくれないか」
「はい⋯⋯知り合いの仲間が昔銀の竜を見たと言う話がありまして⋯⋯」
「場所は?」
「14年前と5年前に帝国の北の領地であるグリードのブルーファウンテンという村です」
「グリード? 確か公爵家の領地だったな」
「ええ⋯⋯ただその目撃証言も曖昧で、森の奥で銀色の巨大なものを見たと言っているだけでハッキリと竜を見たとは⋯⋯」
目撃証言は不確実か⋯⋯だが巨大な銀の魔物なんて聞いたことがない。調べてみる価値はありそうだ。
「ズルドありがとう。引き続き他の依頼の調査も頼む」
「承知しました⋯⋯それでユクトの旦那はブルーファウンテンまで行くおつもりで?」
「ああ」
「でしたらブルーファウンテンにある泉の水を取ってきて下さいよ。もちろん料金はお支払いします」
ブルーファウンテンの泉か⋯⋯確か聞いたことがある。
「風邪など軽い症状に有効な水だったか?」
「ええ⋯⋯年のせいか最近体調を悪くすることがありまして」
「そのくらいだったお安いご用だ」
「ありがとうございます」
こうして俺はズルドからの情報を元に銀の竜がいるかもしれないブルーファウンテンの村まで行くことを決意し、酒場ラファルを後にするのであった。
「えーっ! パパはお出かけしちゃうの!!」
俺はラファルから自宅に戻りリビングでの夕食時、娘達に銀の竜を探すためブルーファウンテンに行くことを伝えるとミリアから大きな声が上がった。
「ああ⋯⋯眉唾物だが初めて銀の竜の情報が入ったんだ。明日⋯⋯いや明後日には出発して7日~10日ほどで帰ってくるつもりだ」
ブルーファウンテンまで徒歩で3日ほど。往復で6日、向こうで調査する時間も考えるとそのくらいの日数のはずだ。ラニ達のことは心配だがここは保険をかけたあの2人に任せるとしよう。
「ごちそうさま!」
そして俺の話が終わってすぐにミリアの声がリビングに響き渡った。
普段夕食を食べ終えるのが1番遅いミリアだが、何故か今日は既に皿は空になっており、急に部屋に散らばっている自分の荷物を異空間に入れ始めた。
「ミリアお姉ちゃん今日は食べるのが早いけどどうしたの?」
「良く噛んで食べないとダメですよ。それに食事を終えて急に何をしているのですか?」
セレナの指摘は最もなことで、俺はミリアが掻き込むように夕食を食べていたのを見ていた。
「何をしているかだって? それはもちろんボクとパパの新婚旅行のための準備だよ」
「ぶはっ! な、なんですって!」
ミリアの正気とは思えない発言にセレナは口の中に入っていた水を盛大に吐き出す。
「ミリアお姉ちゃんずるい! トアも一緒に行きたい!」
トアよ⋯⋯新婚旅行は2人で行くものだと指摘したかったが今はミリアの暴走を止める方が先決だ。
「ミリアもトアも学校があるだろ?」
俺の記憶している限りだとこの時期に長期の休みはなかったはず。
「休むから大丈夫だよ」
「ミリアは単位がギリギリだから休むと留年することになるぞ」
「そ、そんなあ⋯⋯」
ミリアは俺の言葉で床に膝をつき、崩れるように倒れてしまう。
これは自業自得だな。日頃から真面目に授業に出ていれば連れていくことも可能だったが⋯⋯。
「ううぅ⋯⋯トアも5日後に教会で実習があるから無理だよ」
トアもどうしても学校で落とせない実習があるようなので項垂れている。
「そ、それでしたら私がパパと一緒に行きますね⋯⋯単位も取れていますし、特別な実習もありませんから」
セレナは何故か頬を赤くし恥じらいながら俺に着いていくと言葉を発した。
「セレナ姉ずるい!」
「セレナお姉ちゃんずるいよ~」
姉のセリフに妹達は反発するがセレナは構わず言葉を続ける。
「べ、別に私は2人だけじゃなくてもいいですけど周りから見れば新婚旅行ととらえられてもおかしくないと思います。フフ⋯⋯けどパパとの旅行⋯⋯2人だけの時間⋯⋯親密になる私達⋯⋯そして⋯⋯フフ⋯⋯くふふ⋯⋯」
俺は何か見てはいけないものを見てしまったのだろうか。普段凛とした表情をしているセレナが今は締まりのない顔で怪しい笑みを浮かべている。
「なんかセレナ姉怖いよぉ」
「こんなセレナお姉ちゃん見たことない」
セレナの様子を見てミリアとトアは肩を寄せあって震えている。
「ねえ2人とも⋯⋯私がパパとブルーファウンテンに行くけどいいですかあ?」
「「は、はい~」」
ミリアとトアは今の正気ではないセレナの問いかけに頷くことしかできない。
こうしてセレナの説得? があり誰がブルーファウンテンに行くか揉めることなく姉妹の中で決着がついたのであった。
2日後早朝
俺は旅に必要な荷物をまとめ、セレナと共に自宅の玄関へと向かうとそこにはミリアとトアが待っていた。
「パパ、今日は晴れて良かったですね。雨の中の旅は少し憂鬱ですから」
「ああ、そうだな」
一昨日の夜から雲が怪しかったため俺は昨日の旅の出発を見送ることにしていた。
「お土産楽しみにしてるね。それと⋯⋯」
ミリアは途中で話を切ると俺に近づいてきて耳元で囁いてきた。
「セレナ姉には気をつけてね」
「あ、ああ⋯⋯」
どうやらミリアは一昨日の夜に怪しい笑みを浮かべていたセレナに恐れをなしているようだ。確かにいつものセレナとは様子が違ったがそれは俺達を家族として心を許しているから見せてくれた一面ではないか。そう考えれば先日のセレナの行動はおかしいと思わない⋯⋯はずだ。
「パパ、セレナお姉ちゃん⋯⋯いってらっしゃい。後これお昼に食べてね」
トアは俺達の前にお弁当を差し出してきたので受け取る。
「トアありがとう」
「トアちゃんのご飯は美味しいから楽しみです⋯⋯私の作るご飯はとは違って⋯⋯」
何かセレナが呟いていたが、不穏な空気を出していたので俺は気にしないことにする。
「それじゃあ2人とも行ってくる⋯⋯留守は頼んだぞ」
「いってきます」
こうして俺達はミリアとトアに見送られながらグリード領を目指すため帝都の北門へと向かう。そして俺達は北門に到着すると思わぬ人物が待っていたのであった。
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