第68話 新たなる真実
「表向きとはどういうことだ!」
俺はおやっさんが死んだ火事について公式の発表とは違うと聞き、思わず声を荒げてしまう。
「ユクトの旦那落ち着いて下さい⋯⋯そんなに大きな声を出したらこの個室にいる意味がありませんよ」
「そ、そうだな⋯⋯すまない」
確かにズルドの言う通り⋯⋯ここで騒いでも何かが変わる訳じゃない。
俺は心を落ち着かせるため一度深呼吸をして改めてズルドと向き合う。
「公式の発表ではバルドさんは監獄で火の不始末があり、火事に遭って瓦礫の山に埋もれて亡くなったとなっています。その時のバルドさんの死体ですが原形を留めていなかったようです」
「原形を留めていなかった? それでなぜおやっさんだとわかったんだ?」
「火事の後見当たらなかった囚人がバルドさんだけだったことと瓦礫に埋もれた死体の側に左手だけが見つかったんですよ。そしてその左手には囚人番号が書いてある腕輪がついていてバルドさんと判断されたようです」
「それでどこが裏の話なんだ?」
おやっさんが亡くなっていない⋯⋯俺は無意識にズルドからそんな言葉が出てくることを期待していた。
「それが⋯⋯火事の原因は火の不始末ではありませんでした」
火の不始末⋯⋯じゃない?
俺は願っていた答えではなかったため言葉を失うが、そもそもズルドに話を聞くまではおやっさんは死んだと思っていたんだ。ズルドの言動で簡単に気持ちが揺れてしまった自分が情けない。
「ユクトの旦那どうしました? 表情が優れないようですが⋯⋯」
ズルドから俺を気遣う声が聞こえてくるが、相変わらず顔がニヤニヤと薄ら笑いを浮かべているので心配してくれているようには思えない。
「大丈夫だ。続けてくれ」
「わかりました⋯⋯それで火事の原因ですが⋯⋯襲撃を受けたんですよ」
「襲撃⋯⋯だと⋯⋯」
「ええ⋯⋯闇夜に紛れて突然数十人の集団が襲ってきたようです」
なぜその集団は監獄を襲ってきたのか。
客観的に考えると監獄にいる誰かを逃がすために襲撃したと考えるのが普通だろう。だが火事の後姿が消えた囚人はいないとのことだった。そうなるとおやっさんを逃がすために監獄を襲撃したが逃走中に不運が重なって瓦礫の下敷きになった? いやそんなことは絶対にない⋯⋯だっておやっさんは⋯⋯。
「バルドさんはその集団に殺された可能性がありますね。公式の発表では亡くなったのはバルドさんだけになっていますが、十数人の兵士や看守も殺されています」
「確かに監獄が襲撃されたのはまずいがなぜそれを隠すようなことをする」
しかもおやっさんだけではなく多くの人が亡くなったとなれば情報を隠蔽するにはかなりの労力ご必要だろう。
「それがただの監獄だったら良かったんですけど⋯⋯その監獄がタルタロスだったため帝国は公に公表できなくなりました」
「タルタロス⋯⋯確か難攻不落、脱獄不可能と言われた監獄か⋯⋯」
「ええ⋯⋯そのような二つ名が付いているのに襲撃されて囚人が死んだとなっては他国のいい笑い者でしょう。真実より自国の面子が勝ったという所ですね」
下らないな⋯⋯そんなものでおやっさんの死の真相がねじ曲げられていたなんて。
「その監獄を襲撃した奴の正体はわかっているのか?」
「いえ⋯⋯凄腕の集団としか⋯⋯こちらも調査しますか?」
今さらだがおやっさんを殺した奴らはそのまま生かしておくわけにはいかない。このままだと何も知らないコトが不憫すぎる。プライドを傷つけられた帝国側もタルタロスを襲撃してきた集団を調査していると思うが、自分の手で決着をつけたい。
「頼む」
「承知しました」
俺はズルドにおやっさんを殺害した可能性のある集団について新たな依頼をする。
「ただ1つだけおかしいことがあるんですよ」
「それは⋯⋯おやっさんがタルタロスにいたことか」
「さすがユクトの旦那ですね」
そう⋯⋯通常ならタルタロスに運ばれる囚人は死刑が確定している人間だ。他国の密偵をしていたおやっさんの刑期は15年⋯⋯本来ならタルタロスに行くはずがない。他に罪状が見つかって死刑になったかもしれないが。
「バルドさんが何故タルタロスにいたのか⋯⋯その件も調べておきます」
おやっさんの死については謎が多いが、ズルドなら必ず有益な情報を持ってきてくれるだろう⋯⋯俺はその時を待ちをその情報を活かしておやっさんの仇を取るだけ。それがどんな理由があるにしろ施設から俺を拾ってくれたおやっさんを監獄に送り込んだ俺の矜持だ。
「それとユクトの旦那⋯⋯明日同じ時間に来ることはできませんか?」
「大丈夫だが⋯⋯まさか」
「ええ⋯⋯依頼された銀の竜については宛てがあるので何かしらの情報を伝えることができると思います」
「早いな、さすが帝都一の情報屋だ」
「へへ⋯⋯ありがとうございます」
まさか依頼して1日で銀の竜の居所がわかるとは⋯⋯俺はズルドの有能さに感嘆していたその時、個室の外で何やら騒ぎがあったようなので視線を向けるとそこにはミリアとあられもない姿のリリーがいた。
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