第67話 帝都1の情報屋

 ユクトside


 俺はゾックの許可を得て酒場ラファルのドアを開けるとそこには地下へと続く階段があった。

 辺りは薄暗く壁についているランプのおかげで視界を確保することが出来ている。

 俺は一段一段と階段を降りていくとしだいに人の会話する声が聞こえてきた。

 そして階下にたどり着くと酒場のホールが見え、中央には踊り子が踊るための段上があり、店員が出迎えてくる。


「いらっしゃいませ⋯⋯お好きな席にお座り下さい」


 俺は店員に言われた通り、ホールの1番右奥にある個室へと向かう。この個室の周囲は席がなく他の客に話を聞かれることがないので、ズルドが良く愛用していた場所だ。

 そして俺はその個室を覗き込むとそこには中年で浅黒い肌を持つドレッドヘアの男がいた。


「これはこれは⋯⋯懐かしい人が来ましたねえ」

「久しぶりだなズルド」


 ズルドはニヤニヤと薄ら笑いをしてこちらに視線を向けてきた。

 ちなみにズルドはどんな時でもニヤニヤと薄ら笑いを浮かべているらしい。けしてこちらをバカにしているという意図はなく、初対面の者は勘違いすることが多いらしい。この席を愛用しているということは未だに情報屋を続けているのだろう⋯⋯だが1つだけ懸念していることがある。15年も時が経てば人も環境も変わるため情報屋としての腕が落ちていないかが心配だ。俺が帝都にいた時は凄腕の情報屋として名を馳せていたが⋯⋯。


「ユクトの旦那は帝都に戻って来て日が浅いのに色々と大変ですねえ」


 この言い方⋯⋯もしかしてズルドは俺のことを調べていたのか? それならどの程度まで知っているのか聞かせてもらおう。


「何のことだ?」

「へへ⋯⋯お惚けなさんな。もしかしてこれは試されてるってことですかい? そうですねえ⋯⋯私が知っていることと言えばワイバーンを2匹倒したこと、神聖教会養成学校の生徒達と正体不明の者に襲われ返り討ちにしたこと⋯⋯」


 この2つの出来事はそれぞれの学校の生徒達が見ていたので仮にも情報屋を営んでいるズルドが知っていてもおかしくない内容だ。


「それと⋯⋯魔法養成学校の結界を壊したことですかねえ。いや~さすがユクトの旦那のやることはスケールが違う」


 驚いた⋯⋯魔法養成学校の結界を破壊したことは極一部しかしらないはず。そんな情報も持っているとは⋯⋯どうやらズルドの情報屋としての腕は落ちていないようだ。


「さすがだなズルド。かつて帝都一の情報屋と呼ばれたことはある」

「へへ⋯⋯ありがとうございます。ですが1つだけ訂正を⋯⋯私は今でも帝都一の情報屋だと自負していますよ」

「それは悪かったな」


 俺は謝罪しつつ席に座る⋯⋯ズルドに依頼するために。


「それで今日はどんな要件ですか? 昔話をするためにここへ?」

「まさか⋯⋯俺がここに来る理由は1つしかないだろ?」


 ズルドは金を払えばこちらの知りたい情報を教えてくれるが仕事柄怪しい人物との交流もあるようだからプライベートで仲良くしたいとは思わない。ビジネスとして付き合うのがちょうど良い距離だ。


「へへ⋯⋯そうでした。ではお話を伺いましょう」

「依頼したい内容は4つ⋯⋯1つ目は神聖教会養成学校の生徒と共に襲われた男、クロウについて。2つ目は現在の帝国の情勢について、特に皇族を中心に。3つ目は銀の竜の居場所について⋯⋯14年前にタルホ村で目撃したがそれからは行方がわからない」


 正直な話ラファルに来るまでズルドに依頼する内容は3つにするつもりだったが、俺の中でどうしても納得できないことがあるので1つ追加する。


「そして4つ目はおやっさん⋯⋯バルドの死について⋯⋯」


 娘達がいてくれたおかげでおやっさんの死について受け入れることができた。だからこそおやっさんがどんな死に様だったのか正確に知っておきたい。


「へへ⋯⋯バルドさんが死んだことを今更聞いて⋯⋯おっとこれは余計な詮索ですね」

「15年の時が経っておしゃべりになったな」

「すみません⋯⋯どうも年を取ると若者と話したくなるようで」


 俺とズルドはビジネスパートナー⋯⋯余計な会話など不要だ。


「え~⋯⋯まず帝国の情勢について、それとバルドさんの死について⋯⋯こちらはすぐにお伝えできます。金貨5枚でどうでしょう」


 俺は異空間から金貨5枚を出し、ズルドに手渡す。

 金貨1枚あれば4人家族の一般家庭が1年生活できる額だ。ちなみに通貨は銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となっている。ズルドの情報料は他の情報屋と比べて割高だが信頼性の高い内容なので金は惜しくない。


「教えてくれ」

「承知しました⋯⋯ではまず帝国の皇族について。今は平和に見えますが私は近いうちに何か動きがあると睨んでます。もちろん小さい争いは何度かありましたが⋯⋯例えばラフィーニ皇女の暗殺など⋯⋯この件に関してはユクトの旦那の方が詳しいですよね」


 ズルドは帝都一の情報屋というだけであってやはり俺とラニと娘達の関係に気づいているようだ。

 それにしてもラニの暗殺が小さい争いか⋯⋯これ以上危険なことは起きてほしくないが。


「帝国は30年ほど前から皇位継承についてゴタゴタしています⋯⋯始まりは前皇帝には2人の息子がいたんですが長男のヒルゼンが失踪して次男のノアが皇位を継承しました。当時城の中ではヒルゼン派とノア派で割れていたため、ヒルゼンの失踪についてもノア派の陰謀じゃないかと憶測を呼び込み大変だったようです。次男のノアが皇帝になりその後小さいいざこざはあったものの帝国の皇位継承問題は一旦落ち着きました。ちなみにこのヒルゼンの失踪については何もわかっていません。調査した方がいいよろしいですか?」

「いや、結構だ」


ヒルゼンの失踪については


「わかりました。それでこのノア皇帝の能力は可もなく不可もない人間で帝国は問題なく統治されていたのですが、その子供は別でした。第一夫人の子である長男のドミニクは権力思考が強く素行も悪いため度々ノア皇帝を困らせているようです。自分が気に入った女性貴族への暴行や不敬だと言って平民達への惨殺は数知れず、今従っている者達もただドミニク皇子を恐れているからですね」


 ズルドの話を聞いているだけでも反吐が出る。この自分より権力がないものに対しての仕打ち⋯⋯ドミニク皇子という男は俺とは相容れない存在のようだ。


「そんなドミニクに不満を持つ中現れたのが姉のラフィーニ皇女と弟のクラウ皇子です。2人は平民である第二夫人の子であり、誰にも平等で優しく、そして時には厳しく接しているその姿勢にドミニク皇子以上の人気を誇っています」


 ラニは俺が知っている横暴な貴族とは違うから民から人気があるのも頷ける。


「そしてその弟妹の人気が面白くないのはもちろんドミニク皇子です。現在ノア皇帝の体調が優れないこともあり、自分が皇位を継承を磐石にするため近々ラフィーニ皇女とクラウ皇子亡きものにするのではと私は考えています」


 もしドミニクが皇帝になったら益々貴族優先意識⋯⋯いや皇帝優先意識がこの国で蔓延してしまいそうだ。


「ですがラニ皇女はともかくクラウ皇子の命は時間の問題かもしれません」

「それはどういうことだ?」

「元々生まれつき病気を持っているため身体が弱いんですよ⋯⋯原因はわかりませんがもって後数年と言われています」


 クラウ皇子がもって数年の命⋯⋯だと⋯⋯ラニは弟を大切に思っていた。この事実はラニにとって相当ショックだったに違いない。


「今わかっていることはこのくらいですぜ⋯⋯また何かわかりしだいお伝えします。次にバルドさんの死についてですが⋯⋯」


 コトの話では監獄が火事になり亡くなったとのことだったが⋯⋯。


「監獄が火事になり瓦礫の下で発見されました⋯⋯表向きは⋯⋯」


 表向き⋯⋯だと⋯⋯。

 俺はこの後ズルドが話す火事の真相に驚きを隠せなかった。



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