第66話 時には犠牲にしなくてはならないものがある

「ミリアさんどこに行くの?」


 リリー姉はボクがパパの尾行を諦めたと思ったのか、酒場から離れることに納得していないようだった。


「大丈夫、ボクに任せて⋯⋯リリー姉も協力してくれるよね?」

「ええ⋯⋯私にできることなら何だってやるわ」


 よし! リリー姉の言質は取った⋯⋯後は行動に移るだけだね。


 ボクはリリー姉の手を取り近くにあった衣服店に入る⋯⋯そして15分後⋯⋯。


「ちょっとミリアさん! これはどういうこと!!」


 リリー姉が試着室のカーテンから顔を出し、何やらボクに文句を言っている。


「どういうことも何もパパを尾行するために必要なことだよ」

「で、でも⋯⋯こんなことするなんて⋯⋯絶対むりぃぃぃ!」

「そんなことないよ⋯⋯さあ、リリー姉の可愛い所を見せて」


 ボクは思いきって試着室のカーテンを捲る⋯⋯するとそこには踊り子の衣装を纏ったリリー姉の姿があった。全体を赤色に統一したビキニタイプのブラとパンツ、スケスケのレースのスカート、顔を覆うフェイスベール⋯⋯そして首には金色のチョーカーを用意した。元々の素材が良いリリー姉が着ることによって衣装の魅力を最大限に活かしており、この姿で落ちない男性はいないと思う。

 あっ? それと男性受けをするために髪型はツインテールにしてみた。


「いやぁ! やめてぇ!」


 しかし当の本人であるリリー姉は恥ずかしいのか両手で身体を隠し、身体をくねらせながら悲痛の叫び声を上げている。


「大丈夫だよリリー姉⋯⋯セクシーで似合っているよ」

「セ、セクシー⋯⋯だけどこんな布面積の少ない服で人前に出るなんて⋯⋯」

「うん⋯⋯ボクなら無理だね」

「ちょっとぉ!」

「ごめんごめん冗談だよ」


 つい本音が出ちゃった。けどリリー姉にはこの踊り子の衣装を来てもらわないといけないから言葉には気をつけなくちゃ。


「あのモヒカンの人はセクシーな女性に目がないからこの姿で行けばきっとラファルの酒場に入ることが出来るよ」

「で、でも⋯⋯」

「さっき私ができることなら何でもするって言ったよね? リリー姉は教職者なのに嘘つくの?」

「うっ⋯⋯」


 ボクの言葉でリリー姉は声を詰まらせる⋯⋯言質取っておいて良かったあ。


「け、けど私のこの格好本当におかしくない?」


 リリー姉はいつもは少し強気だけど今は弱気でしかも目を潤ませて顔を赤くしている⋯⋯これは普段のリリー姉を知っている人はギャップがすごくて惚れちゃう人がいそうだね。


「おかしくないよ、自信持って良いと思う」

「本当に本当? 変じゃない? ミリアさんの本音を教えて」


 リリー姉の不安を取り除けるのはボクしかいない。さっきまでは当たり障りなく褒めていたけどここからは正直に話そう。


「平均より大きい胸、引き締まったボディ、雪のように白く綺麗な肌⋯⋯ぶっちゃけエロいです」

「エ、エロい! 逆に恥ずかしくて人前にこの姿を晒す自信がなくなったわ」

「ほら、お会計はもうしておいたから行くよ」

「はやっ! お金ない言っててジュース代も渋ってたのに!?」

「パパが何をしているか調査するためならお金を惜しまないよ」


 それに可愛いリリー姉も見れるしね。


 こうしてボク達は再びモヒカンの人がいる酒場ラファルへと向かうのであった。

 そして今、ボク達は酒場の建物の陰にいるんだけど⋯⋯。


「ねえリリー姉、早く行こうよ」

「嫌だ嫌だ! だってすれ違う人にすごいジロジロ見られたのよ! きっとこんなおばさんの踊り子衣装なんておぞましいと思われているんだわ⋯⋯もしこんな姿を学校関係者に見られたら⋯⋯」


 リリー姉は怖じ気付いて建物の陰から出ていこうとしない。もう学校関係者のボクに見られているから⋯⋯なんてことを言ったら益々隠れてしまいそうだから口にはしない。


「大丈夫、フェイスベールで顔を隠しているから誰かわからないよ」

「ほ、本当に? けど顔は隠れてても首から下は隠れているところが少ないから⋯⋯」


 この押し問答をいつまで続けなくちゃいけないの? 早くしないとパパが酒場から出てきちゃうよ。もうこうなったら⋯⋯。


「えい!」


 ボクはリリー姉の背中をおもいっきり押す。


「きゃっ!」


 するとリリー姉は体勢を崩しながら声を上げ、前方に数歩歩く。


「ん? なんだ?」


 リリー姉の声を聞いてモヒカンの人がこちらの様子に気づき、2人は目が合う。それはまるで運命の出会いを果たした物語の主人公とヒロインのように⋯⋯。


「こ、こんばんは~」

「あっ? え~と⋯⋯どうも⋯⋯」


 顔をひきつらせながら挨拶したリリー姉に対してモヒカンの人はどこか上の空のように感じる。初めに見た時は粗暴な印象を受けたけど今の踊り子リリーの前では借りてきた猫のようだ。


「ボク⋯⋯じゃなくて私達は酒場で雇われた踊り子です⋯⋯通して頂けませんか?」

「あ、ああ⋯⋯けどあんた達見たことないな⋯⋯いや、どこかで⋯⋯」

「え~と⋯⋯」


 まずい⋯⋯ついさっき会った2人組だとバレたら怪しまれて酒場の中に入ることができなくなるかも。

 ボクはモヒカンの人をどうやって誤魔化そうか考えていたその時。


「私、まだ踊り子を始めたばかりの新人なんですぅ⋯⋯そろそろ公演の時間が始まってしまうから通してもらえませんかぁ」


 リリー姉は普段使わないような猫なで声でモヒカンの人を誘惑している。そして最後にとどめといわんばかりに前屈みになって胸の谷間の強調とウインクのダブルコンボを繰り出す。


「も、もちろん通ってもらって大丈夫だ⋯⋯そんなことより名前を教えてくれねえか。仕事終わったら奢るから飲みに行こうぜ」


 勝負あった⋯⋯もうこのモヒカンの人はリリー姉にメロメロのようだ。


「私の名前はララよ。デートするならもう少し仲良くなってからよ⋯⋯じゃあね、素敵な筋肉のお兄さん」


 リリー姉はそう言って投げキッスの追い討ちをかけるとモヒカンな人は目がハートになっており、私達は容易に酒場ラファルに入ることが出来た。


「さっすがリリー姉!」

「言わないで! 恥ずかしいから!」


 リリー姉は先程の悪女が嘘のように顔を真っ赤にしている。

 ともあれボク達はリリー姉の羞恥心を犠牲にして何とか酒場ラファルに入ることに成功するのであった。


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