第65話 尾行再び
ミリアside
ユクトが理事長室でルノリアと話していた頃
魔法養成学校の授業が終わった後、ボクは鬼ことリリー姉にしごかれて校庭を走っていた。
「ほらミリアちゃん歩いてないで走りなさい!」
クラス対抗戦でFクラスに負けた翌日からリリー姉は特別メニューを作成し、ボクの体力強化のために付き合ってくれているけど⋯⋯内容がハード過ぎて3日に2日は引きこもっていたボクにはついていけない。
「ひぃ⋯⋯はあ⋯⋯ふう⋯⋯」
「息が乱れてる! もっとリズミカルに呼吸して!」
「ひぃ⋯⋯ひぃ⋯⋯ふう⋯⋯」
「妊婦か!」
ボクはリリー姉のツッコミを聞いて力が抜けその場に座り込んでしまう。もうダメ⋯⋯足が筋肉痛で痛い。
「ミリアさん立つのよ! 努力すればあの夕陽の向こうにきっと明るい未來が待っているから!」
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯リリー姉キャラ違くない?」
この理事長は何でこんなにやる気になっているの? 何かよろしくない本でもみたんじゃ⋯⋯。
「立って! 立ち上がって昨日の自分を越えるのよ!」
「ダメだこれ⋯⋯」
どうやら今のリリー姉には熱血の神が憑依しているらしい。
結局ボクは休憩を諦めて立ち上がり、その後校庭を二週した所で今日の特訓は終了となった。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯これって毎日続くのかな⋯⋯」
「ミリアさんお疲れ様⋯⋯もちろん明日もやる予定だから覚悟してね」
まだ数日だけどボクはもうギブアップしたくなった。だけど次のパパの授業で「ミリア頑張ったな」って褒めてもらいたいから投げ出すことはしない。
「リリー姉ボク疲れたから帰りにミックスジュース飲みたい~」
「そうね⋯⋯私も声を出してのどが渇いたから一緒に行きましょ」
「やったあ~リリー姉の奢りだあ」
「奢らないわよ! 教師が生徒に奢ったりすると悪い噂が立つから⋯⋯ていうかお金ならミリアさんの方が持っているでしょ? 魔道具を作って売ってるじゃない」
「悲しいことにボクの財布はセレナ姉が握ってるから好きに使えなくて⋯⋯リリー姉はSランク冒険者で魔法養成学校の理事長だからいっぱいお金あるでしょ?」
「まあそれなりに持っているわよ⋯⋯けど忙しくお金を使う暇ないけど⋯⋯」
やっぱり理事長職は忙しいんだ⋯⋯学校にいないことも多いしね。
ん? それなら⋯⋯。
「リリー姉! ボク良いこと考えちゃった」
「えっ? 何が?」
「ボク達が手を結べば最強じゃない!」
「どういうこと? ちょっと意味がわからないけど」
「引きこもりで時間があるボクがリリー姉のお金を使えばいいんだよ⋯⋯これはWin-Winの関係だね」
どやっ!
「わあ⋯⋯それって名案ね⋯⋯とでも言うと思った? それって私が一方的に搾取されるだけじゃない! 却下よ却下!」
「ちぇっ! 良い案だと思ったのに⋯⋯」
「あなたって子は⋯⋯常識を学ばさせるために学校に通わせたけどミリアさんだけもう1年延長した方が良さそうね」
「えぇぇぇッ! 今のは冗談だよ冗談⋯⋯リリー姉も冗談だよね?」
ボクは学校を卒業したらパパと結婚して魔道具を作るんだ。その夢を邪魔される訳にはいかない。
「さあそれはどうかしら? これからのミリアさんの態度しだいです」
「わかった、わかったからぁぁ! ちゃんとするからぁぁぁ!」
ボクはリリー姉に許しを乞うため夕陽が照らす校庭で泣き叫ぶのであった。
そしてボクは制服に着替えてリリー姉と北区画にある果物のジュースが売っている露店へと向かう。
「そ、そういえば⋯⋯ミリアさんは卒業したら何かやりたいことでもあるの?」
ボク達はセレナ姉やトアのことを話をしながら北区画へ向かっているとリリー姉が周囲をキョロキョロしながら突然ボクの進路のことを聞いてきた。
何かリリー姉挙動不審なんですけど? ボクの進路ってそんなに聞きづらいことかなあ。
「ボクは魔道具を作りたいなあ」
「そうね⋯⋯帝都で魔道具の需要は大きいから良いと思うわ」
「う~ん⋯⋯帝都に残るかはわからないよ。パパがブルク村に帰るならボクも着いていくし」
「そう。ユクトは⋯⋯ってユクトがいる」
ボクはリリー姉の声に従い、前方に視線を向けると確かにパパの姿があった。
パパは今日神聖教会養成学校に行くと言ってた。もうその用事を終わったのかな?
「どこにいくつもりなのかしら?」
「ボク達と同じフルーツジュースが売ってる露店だったりして」
けどパパが1人でジュースを買いに行っている姿なんて想像出来ない。
それにパパが進んでいる方向は⋯⋯スラム街だ。まさかまた前に住んでいたコトさんの家に? でもまたどうして⋯⋯。
「せっかくだからユクトも誘いましょうか」
「リリー姉ちょっと待って! パパがどこに行くか気になるから尾行しよ」
前は自宅からついていっている所を見られて結局最後にはバレちゃったけど今回は大丈夫⋯⋯だと思いたい。パパだって四六時中気を張っているとは思えないからね。
「尾行! そんなこと⋯⋯やりましょう」
「さっすがリリー姉! 話がわかる」
パパのことでリリー姉はライバルだけどこういうノリが良いところは嫌いじゃない⋯⋯むしろ好意的に思ってる。
「バレたらバレたで謝ればいいし行くわよミリアさん」
こうしてボクとリリー姉は露店に行くことを諦め、帝都の北区画を歩くパパを尾行することになった。
ボクとリリー姉は建物や人に隠れながらパパを追跡する。
周囲の人は混雑するほどではないけど多く、隠れて尾行するにはもってこいだ。それにこの辺りは区画整理がされていないため建物が乱立して立っていることもあり、ボク達の尾行のプラス要因になっている。
「ミリアさんなら大丈夫だと思うけど一応気をつけてね⋯⋯ここは治安が良くないから」
「もし変なことしてくるような人がいたらボクの魔法でやっつけちゃうよ」
「⋯⋯やりすぎないようにね」
リリー姉はどこか諦めた表情でボクの方を見てきた。そんな顔しなくても大丈夫だよ⋯⋯ちゃんと手加減するから。
けどもし誰かに何かされたらそこでパパの尾行が終わってしまう。悪漢なんて怖くないけど今だけはボク達をそっとしていてほしい。
そして隠れながら5分ほどパパを追跡していると⋯⋯。
「あっ! ユクトがお店の前で誰かと話しているわ」
ボクとリリー姉はパパが止まったの見て後退り、衣服のお店の陰に隠れる。
「何を話しているのかしら⋯⋯」
「ここからじゃ聞こえないね」
ボク達とパパまでの距離は20メートルほどあり、ここから先に隠れる所もないため近づくことができないため、ボクとリリー姉は店の物陰から顔を出し、パパの様子を伺う。
「パパ⋯⋯楽しそうに話してるね」
「ええ⋯⋯けど見た目がちょっと怖いわ」
リリー姉が言っていることにボクは激しく同意する。なぜならパパと話している人はモヒカンで筋肉がムキムキだから⋯⋯もし奴隷商人関係の人と言われても納得すると思う。
「このお店に用事があるのかな? お店の名前は⋯⋯ラファル?」
「ここは酒場ね。ユクトは飲みに来たのかしら?」
「でも飲みに来たならなんでここに⋯⋯酒場なんて家から近い所にもあるよ? はっ! まさか逢い引き!」
「あ、逢い引きですって!」
「そう⋯⋯パパには忘れられない女がいて⋯⋯久しぶりに会い失ったはずの愛の炎が盛り上がり⋯⋯」
「う、嘘よ! パーティーを組んでいた時ユクトに女性の陰はなかったわ」
「という冗談は置いといて⋯⋯パパがお店に入っていったよ」
「えっ? 冗談なの?」
ノリの良いリリー姉はさておきパパはラファルに入っていったようだ。
「リリー姉⋯⋯ボク達も行くよ」
「わ、わかったわ」
ボク達はパパを追跡するため、酒場ラファルの前に移動する。
ボク酒場なんて来たことないよ⋯⋯未成年だから止められちゃうかな? けどリリー姉が一緒なら大丈夫だよね。
しかしボクの甘い考えはすぐに打ち砕かれることになる。
「おい、嬢ちゃん達、ここは一見さんはお断りだ」
パパが話していたモヒカンの人が酒場に入ろうとしたボク達を静止してくる。
ひぃ! やっぱり近くで見るとちょっと⋯⋯いや、かなり怖いかも。
しかもこの人さっきからボク達の身体をじろじろと見てきて視線が気持ち悪い。
「え~と⋯⋯私達ここに知り合いがいて⋯⋯それでも入ったらダメですか?」
「ダメだ。この店に入れる客は全て俺が判断する。嬢ちゃん達が来る場所じゃねえ」
「そんなあ⋯⋯」
まさか酒場に入ることができないなんて⋯⋯これじゃあパパを尾行することができない⋯⋯。もう今日は帰るしかないの? ボクは酒場に入ることを諦めかけたその時。
「こんばんは~」
派手やかでセクシーな衣装を着た人達が挨拶だけして酒場へと素通りで入っていく。
「おう! 今日も情熱的なダンスを頼むぜ」
モヒカン女性達に挨拶をする。この時のモヒカンの顔と言ったら⋯⋯鼻の下を伸ばしてだらしなくて生理的に受け付けられない表情をしていた。
けど今のやり取り⋯⋯酒場に入る攻略の鍵になるんじゃ⋯⋯。
これはボクじゃ成功しない⋯⋯頼りになるのは⋯⋯。
「リリー姉帰ろ」
「えっ? ちょっと?」
ボクは驚くリリー姉の手を取り、すぐ近くにあった衣装のお店へと向かうのであった。
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