第46話Fクラス対Sクラス(1)
「もう! パパは何で昨日帰っちゃったの!? せっかく放課後デートをしたかったのに!」
「悪い⋯⋯少し用事が出来てな」
「まあ代わりに今日また学校に行ってくれるから許すけど」
昨日ミリアは俺と帰るつもりだったようだ。だが俺は明日の対戦のためFクラスの子達を鍛えていたのでその願いを叶えて上げることができなかった。
ちなみにビルドとの賭けについてはミリアに伝えてはいない。Fクラスの子達のためにわざと負けることはしないと思うが、ビルドを学校から追い出すためにならわざと負ける可能性があるからだ。
それに
「今日はクラス対クラスのチーム戦があるんだろ?」
「うんそうみたい。どこと対戦するのかもよくわからないけど⋯⋯」
ミリアはクラス対抗のチーム戦について興味が無さそうだ。もしかしたらそれはミリアだけではなくSクラスの子達全員に言えるかもしれない。誰もFクラスに負けるとは思っていなそうだからな。
「たぶんそんなに面白いものじゃないけどもし時間があるならパパも見に来てよ」
「ああ、必ず行くよ」
そして俺達は魔法養成学校に到着したのでミリアはSクラスの教室へ、俺は今日戦いが行われる校舎裏にある森へと向かった。
少し時間が早いか。
俺は校舎裏の森に到着した時、まだ誰もいないと踏んでいたが既に何人かの教師がこの場にいた。
「リリー?」
その教師の中にはリリーがいて外套で顔を隠した
その際に周りの教師達が辺りを警戒していたことから外套で顔を隠した少女は地位の高い人物であることが予想される。
「またこんな所にいて大丈夫なのか?」
俺は近づいてきた少女に向かって話しかける。
「ユクト様は私だとすぐにわかるのですね?」
「ラニだったらどこにいてもすぐに見つけられるよ」
何か一般の人とは違うオーラみたいなものを感じるしな。
「ユ、ユクト様⋯⋯そのセリフは私が拐われて見つけた時にお願いします⋯⋯」
ラニは何故か顔を赤くしてそんな言葉を言い、俺の腕に抱きついてくる。
おいおい⋯⋯皇女様が気楽に男と腕を組んだらダメだろ。
俺はラニに注意をしようとした時、突如人を殺しかねない殺気が辺りに広まる。
そしてその殺気の中心となる方に視線を向けるとリリーが両手に魔力を溜めて今にも魔法を放とうとしていた。
わかっている。皇女様に失礼なことをしたらリリーの首が飛びかねないからな。俺は優しくラニを引き離す。
「今日はレイラさんはいないのか?」
「え、ええ⋯⋯レイラにもたまにはおやすみを上げないといけませんから」
大丈夫なのかそれは⋯⋯まさか黙ってここに来た訳じゃないよな。
「ユクト様大丈夫ですよ。ちゃんとレイラにはこの場所に来ることを伝えてあります」
ラニは考えを読んだのか、俺が気になっていることを伝えてきた。
「それにここには最高の護衛が3人もいますから」
そしてラニは視線を俺、リリーへと移した。おそらくもう1人は今ここにいないミリアのことを言っているのであろう。
そこまで期待されているなら答えるしかないな。何があってもラニを護って見せるさ。
「帰る時は言ってくれ。ちゃんと家まで送るから」
「はい⋯⋯よろしくお願いします」
ラニはそう言って満面の笑顔を向けてきた。
そうなると授業が終わったらミリアにもラニの護衛を付き合ってもらわないと。昨日のように俺1人でどこかへ行ってしまうとまた怒られてしまうからな。
俺はこの後、ラニと近況について話をしていると突如ビルドが語りかけてきた。
「おやおや⋯⋯今日のチーム戦でFクラスが勝つとほざいている愚か者がいますねえ」
「これはビルドさん⋯⋯辞表は用意してきましたか? 何なら俺がリリー理事長にあなたの退職の旨をお伝えしましょうか?」
俺とビルドの間に一触即発の空気が流れる。
事情を知らないラニも俺の敵意を感じ取ったのかビルドに対して少しムッとしているような気がする。
「Fクラスの子達もしっかりと指導すれば光るものがあるのになぜあなたは⋯⋯」
「光るものがある⋯⋯だと⋯⋯。笑わせるな! 底辺共を指導する時間などそれこそ無駄だ! この学校のレベルを下げないためにもFクラスのやつらは退学した方がいいんだ!」
学校のため⋯⋯のように言っているが俺にはどうしてもビルドがそんなことを考えているようには思えない。ただ単に貴族以外が気に入らないのと権力を使って弱者を痛ぶりたいように見える。
「あなたは教師なのに生徒を指導しないのですか?」
俺達の会話を聞いて気になったのか、ラニはビルドに質問するが⋯⋯。
「何だお前は! それがどうした! その前に目上の者に対して顔を隠すとは無礼だぞ!」
そう言ってビルドはラニの外套を剥ぎ取ろうとしたため、俺はその手を掴み静止させる。
「貴様!」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ? それよりSクラスが負けた時はFクラスへの謝罪と退職することを忘れずに」
そして俺は掴んだビルドの手を強く握る。
「いぎぃっ!」
ビルドは醜い悲鳴を上げ、後ろに一歩後退り尻餅をつく。
「くっ! 貴様こそFクラスが負けた時は俺に土下座する約束を忘れるなよ!」
そしてビルドは捨て台詞を吐きながらこの場から立ち去るのであった。
勝手に条件を付け足すんじゃないよ。どこまでも自分勝手な奴だな。だがFクラスが負けることはないのでその条件を飲んでやってもいい。
「ラニ、大丈夫か?」
「ええ⋯⋯ありがとうございます。それより何ですかあの方は!」
「一応魔法の実技の講師らしいが⋯⋯」
「私が在籍している時はあのような方はいなかったです。とても講師の方とは思えないセリフでしたね」
その言葉は同感だ。とてもじゃないがリリーがあのようの男を講師として採用するとは思えない。となるとウォルト家の貴族パワーを使いコネで入ったのだろうか。
「けれどお話からしますと今日の対戦でSクラスが負けるとあの方は講師を退職されるのですよね? 私、俄然Fクラスを応援したくなりましたわ」
「その気持ちは嬉しいけど声を出したり外套は取ったらダメだからな」
ラニが応援してFクラスが勝った時、ビルドは皇女の意向には逆らえないからSクラスはわざと負けた。だから賭けはなしだとか言いかねないからな。
「わかりました。心の中で応援します」
そしてラニはリリーの所へと戻り10分ほど経った頃、SクラスとFクラスの子達がこの場に現れ、その中にはミリアやメルルさん、ライルの姿が見えた。そしてSクラスは森の西側へFクラスは森の東側へと向かう。
もう俺から言うことはない。作戦もかけるべき言葉も全て昨日のうちに伝えてある。後はSクラス倒すだけだ。
間もなくFクラスとSクラスのチーム戦が始まる。
そしてリリーが右手を上げ、炎魔法を天高く飛ばすとそれが開始の合図となりチーム対抗戦が始まるのであった。
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