第44話 意識改革
「ユクトさんすみません⋯⋯私達のために⋯⋯」
勝利を確信したビルドが高らかな笑い声を出しながらこの場を去った後、涙で赤い目をしたメルルさんが謝罪をしてくる。
「いや! 何だよさっきのイケメン対応!? それに勝手にSクラスとの勝負を賭けて!? ていうかあんた誰だ!?」
ツンツン頭の男の子から激しい突っ込みが入る。
「失礼⋯⋯俺はユクト、先程の教師の対応があまりに見てられなかったから口を出させてもらった」
「余計なことをしやがって! 俺達が⋯⋯俺達がSクラスに勝てるわけねえだろ」
それはミリアがいるからか? Sクラスがエリートだから? この子達はこの学校に入った時からクラスという枠で格付けされてしまっているからな。正直な話イメージが大切な魔法使いに取って好ましくない環境だ。自分はFクラスの落ちこぼれだから魔法が使えないといつまでも限界を越えるイメージを持つことができなくなる。
「大丈夫だ。俺が見る限り相手に付け入る隙はある」
俺の言葉にFクラスの生徒達は騒然となる。
「俺達がSクラスに勝てる⋯⋯だと⋯⋯」
「バカ言ってんじゃねえよ」
「あの大魔導師の称号を持つミリアさんに勝つことなんて想像できません」
やはりこの子達は戦う前から気持ちで負けている。それだと勝てるものも勝てなくなる。
だがそんな中、1人の生徒の呟きが聞こえた。
「わ、私⋯⋯頑張ってみようかな」
その声を上げてくれたのはミリアの友人であるメルルさんだ。
「おいメルル! こんな訳のわからない奴の言うことを真に受けるな」
「ユクトさんはミリアちゃんのお父さんだよ」
「「「ええっ!」」」
Fクラスの子達の驚きの声が辺りに響きわたる。
俺がミリアの父親ということはそんなに驚くことなのか?
「それじゃあこの人も凄い人なの!?」
「ということはもしかして試合の時ミリアさんはわざと負けてくれるのか!」
「それなら少しは勝てる可能性があるかも⋯⋯」
Fクラスの子達はミリアが手を抜いてくれると思っているようだが⋯⋯。
「残念なからミリアには全力で戦ってもらう」
そうじゃなくては
「それじゃあ勝てる訳ねえよ」
さっきからこの子達は勝てない勝てないばかり言ってる。これは負け犬根性から叩き直さないとダメだな。
「で、でもユクトさんはミリアちゃんを育てた人だし⋯⋯」
メルルさんが1人前向きな言葉を言ってくれているが他の子達は疑心暗鬼だ。
これは1度勝てる要素を見せた方がいいな。
「メルルさんちょっといいかな」
「は、はい!」
「メルルさんの適正魔法って水魔法だよね?」
「そうですけど私は少し霧を出したりできるだけで他の魔法は使えなくて⋯⋯」
使える魔法が霧を出すだけって珍しいな。
「少し俺と同調してもらってもいいかな?」
「ど、ど、どど同調! そ、それって⋯⋯ひ、1つになることですかぁ!」
「そうだけど」
何かメルルさん凄く動揺しているように見えるが気のせいか?
「わ、私はその⋯⋯ユクトさんのこと素敵だなと思っていましたし⋯⋯嫌じゃないですけど⋯⋯ミリアちゃんに悪いなと」
「ミリアは関係ないよ。俺は今メルルさんに話をしているんだ」
何故ここでミリアの話題が出るのだろうか。
「わかりました。私も覚悟を決めます」
「じゃあさっそくやらせてもらうね」
「こ、ここで! まさかの初めては外ですか!」
「そうだよ⋯⋯時間がないからね」
「せ、せめて初めては室内で二人っきりの方が⋯⋯」
「恥ずかしがらないで。すぐに終わるから」
「あっ! いや⋯⋯」
この2人の様子を見ていたFクラスの面々は、こんな所でまさか同級生が大人になるのを見せられるのかと興味津々の者もいれば、顔を赤らめて背ける者、見ない振りをして指の隙間から覗いている者と様々であったが、誰もがこの後始まることの予想を外すのだった。
「
魔法を唱えると俺の左手首とメルルさんの右手首に光るリングが形成される。そしてそのリング同士は光る糸で結ばれていた。
(な、何ですかこれは⋯⋯気持ちいいです。これが大人になるということなんですね)
メルルはこの時これからすることが恥ずかしくて目を閉じていたため、今何が行われているか把握していなかった。
(この魔法はリングで結ばれた者同士の意識を同調させる魔法なんだ。注意点として相手の思考がダイレクトに入ってくるから気をつけて)
(えっ? 自分の考えが相手に⋯⋯)
しかし遅かった。俺の頭の中にはメルルさんが考えていたとても人には言えないアブノーマルな大人の妄想が飛び込んでくる。
(え~と⋯⋯ごめん)
(うそ⋯⋯私の考えていたことがユクトさんに⋯⋯イヤァァァッ!)
メルルさんは悲鳴を上げるがこれはあくまで2人の中での出来事なので外部に漏れることはない。
それにしてもおとなしい子ほどというがまさかメルルさんがこんな妄想をしているとは。
(ごめんなさいごめんなさい! 私のような社会のゴミがユクトさんを使って如何わしいことを考えて!)
しまった! つい俺も余計なことを考えてしまいその思考がメルルさんに筒抜けであった。
(もう死にたい⋯⋯いえ死のう)
(誰にも言わない⋯⋯絶対に誰にも言わないから考え直してくれ!)
こうして魔法の使い方を教える前にメルルさんが暴走し、死ぬことを思い止まらせるために30分の時間を費やすことになるのであった。
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