第43話 Fクラス

 俺は校内を一通り見た後にミリアのことが心配になりSクラスへと向かうと教室には誰もいなかった。

 今は他の場所で授業なのか?

 俺はちょうど清掃をしていたおばさんがいたのでSクラスのことを聞いてみることにする。


「今は訓練所で実技の授業ですよ」

「ありがとうございます」


 どうやら清掃のおばさんが言うには、この学校で魔法を使う時は訓練所で授業をすると決まっているらしい。

 俺は清掃のおばさんに礼を言い、教えてもらった訓練所の建物へと移動する。


 本館と思われる校舎を出て東に歩くとすぐにコロシアムのような建物が見えてきた。

 さすがと言うべきか建物の広さは3000平方メートルくらいはありそうだな。


 俺は建物の中に足を踏み入れるとすぐに違和感を感じた。まるで何かに護られているような感覚だ。


 何だこれは⋯⋯。


 俺は何か変に思いながらも観覧席へと向かう。そして学生達の授業を見てその違和感の正体がハッキリした。


 今学生達は実戦的な模擬戦を行っており、魔法がそこら中で放たれている。

 中には一撃受けたら重傷を負いそうな魔法を食らっている子もいるが、ダメージを受けてもすぐに立ち上がっていた。


「なるほど⋯⋯このコロシアム全体に魔道具が設置されているのか」


 学生が食らったダメージを代わりに魔道具が吸収しているのだろうか?

 おそらく特級の魔石をいくつも使った魔道具が使われていると思う。もの凄い金額になりそうだが、これなら学生達も安心して魔法を使うことが出来るだろう。


「いいぞ! 今の魔法はすばらしい! よく魔力が練られている! 明日はこの私が指導したSクラスの力でカスクラスの奴らをぶちのめせ!」


 何だかコロシアムの中央でやたら騒いでいる中年の男がいるな。

 さっきから学生を褒めているように見えるが、的外れにも程がある。魔力は練られていないし、魔法を発動する時に力が分散してしまい半分の威力も出ていない。正直な話魔法学校のSクラスと言われるくらいだから期待していたがこの程度なのか⋯⋯。


 俺は失望している中、ミリアに視線を向けると学生達の攻撃を退屈そうに最小限の魔力で迎撃していた。


 見たところ学生達とミリアのレベルの違いは明らかだ。これはミリアが授業を真面目に受けなくなったのは本人だけのせいじゃないな。


 騎士養成学校でもセレナの力は突出していたがゴードンが指導してくれていた。それにこれからはスミス先生もいる。

 だが魔法養成学校ではリリーがいるけどゴードンと違って真面目に理事長として働いているためミリアの様子を見る暇はほとんどないだろう。ミリアをしっかり指導してくれる教師はいるのだろうか? だが今Sクラスを担当しているあの教師を見る限り期待は出来そうにない。


 どうしたものか⋯⋯。


 そしてミリアの教育について考えていたらいつの間にかSクラスの授業は終わっていた。


 これ以上ここにいてもしょうがないな。


 俺は1人だけとなったコロシアムを後にし別の場所へと向かう。


 魔法養成学校の授業も後1時間で終わる。どうせならこのままここで待ってミリアと一緒に帰宅することにしよう。


 しかし次はどこに行くか⋯⋯。


 ん? 学校内の西側で魔法が使われている。清掃のおばさんの話だと魔法は訓練所であるコロシアムで使用すると言っていたが、学校の東側にあるコロシアムとは違う場所だぞ。

 俺は少し気になったのでその場所へと向かうことにする。


「ここは校舎裏の森か⋯⋯」


 学校内に森があるなんて凄い敷地の広さだな。おそらく実戦的な訓練をするためにあるのだろうか?


 そして少し拓けた所に到着すると20人くらいの学生の姿が見え、その中には先程会ったメルルの姿があった。


 どうやらチーム戦を行っているようで、炎や水、霧や雷の魔法が飛び交っているがさっき見たSクラスの学生と比べると明らかに魔力が低いように感じた。

 けれどそんなメルル達の訓練を邪魔する者が突如現れる。


「貴様らこんな所で自習していたのか!」


 あいつは⋯⋯Sクラスの実技訓練を見ていた教師じゃないか。

 何やらメルル達に対して威圧的な態度を取っているが⋯⋯。


「訓練所を使わせてくれねえなら俺達が何処で自習をしようと関係ねえだろ!」

「それが教師に対する口の聞き方か! この私がお前らのようなFクラスの底辺共のため、ここまで来てやっただけでもありがたく思え!」


 何だかあの教師はSクラスに対する時の態度と随分違うな。意見したツンツン頭の生徒は教師の迫力に負けてか悔しそうな顔をしている。


「どうせお前らは明日の10対10の模擬戦でSクラスにボロカスにやられるだけだろ? 私が育てたSクラスのエリート達に取っては時間の無駄でしかない!」

「そ、そんなことやってみなきゃわからねえだろ!」

「なんだ? 貴様らはSクラスに⋯⋯大魔導師の称号を持つミリアに勝てると思っているのか?」

「くっ!」


 確かに魔力面で見ればそこにいるFクラスがSクラスに勝つことは不可能だろう。


「なあ⋯⋯お前らはいい加減に学校を辞めてくれないか? お前らのような底辺共が魔法養成学校を卒業しましたって言われるとみんなが迷惑するんだ」

「ど、どういうことだ!?」

「バカが! その程度もわからないのか!? 魔法養成学校は貴様らのような底辺でも卒業できる学校だと思われるからに決まっているだろうが!」

「お、俺達だってちゃんと授業を受けさせてくれれば⋯⋯」

「そんな時間は一切無駄! 魔力測定で水色しかない雑魚共が何を言う!そんな言い訳しかできない貴様らなど明日の試合で惨めにやられてしまえ!」


 見ていて気持ちいい物じゃないな。

 それにしてもあの教師はしっかりとした指導もできないのに何を威張り散らしているのか⋯⋯学校内のことだから口出しをするのを堪えていたがさすがに我慢の限界だ。

 なぜならメルルさんが涙を流しているから。

 ミリアの大切な友人を泣かす奴は許さん。それにメルルさんにはミリアがお世話になっているからな。


「それはあなたの指導方法が悪いからじゃないですか?」

「だ、誰だ!」


 俺はゆっくりとこの無能教師の前に立ち至極真っ当な意見を述べる。


「貴様何者だ! ウォルト伯爵家次男のビルド様に向かって無礼だぞ!」


 やはりこいつは貴族か。

 だが伯爵家の次男なら爵位が継承されるのは長男。こいつには何も引き継がれるものはないはず。だがだからと言ってウォルト伯爵家の者に頼んで権力を使ってこないとは限らないが。


「これは失礼。私はリリー理事長の親しい友人であるユクトと申します」


 そして俺は先程リリーにもらったプレートをビルドに見せる。

 ちなみに今俺が「失礼」と言ったのは名前を名乗らなかったことで、ビルドの指導方法を侮辱したことに関しては一切悪いと思っていない。


「リリー理事長の友人⋯⋯だと⋯⋯」


 ビルドはプレートを見ると俺がリリーの紹介だとわかったのか舌打ちをする。


 さすがSランク冒険者の権力は偉大だな。


「リリー理事長の紹介だということはわかった。だがいきなり現れて私の指導方法に異を唱えるなと失礼じゃないか?」

「だいじょうかメルル⋯⋯」


 俺はビルドより泣いているメルルの涙をハンカチで拭う。


「あ、ありがとうございます」

「貴様! 無視するな!」


 ビルドは俺が現れて一瞬平静を取り戻したようだがすぐにまた本性を見せた。

 このくらいの挑発で冷静さを保てないとは程度が知れるぞ。


「男だったらまずは泣いている女性を気遣うのは当然でしょう。もしかしたら貴族のくせにその程度の教育もされて来なかったのですか?」


 俺の言葉を聞いて生徒達はクスクスと笑い始める。おそらくビルドは日頃から自分は貴族の者だと威張り散らしているくせに礼儀がなっていないから生徒達は笑っているのだろう。


「貴様先程の無礼といいもう許せん!」

「許せないのはこちらの方だ!」

「何だと!」

「ビルドさんとそちらの生徒の話を聞いていたがなぜFクラスは訓練所を使えない? リリーだったらクラスによって差別などしないはずだ。これはビルドさんの独断専行ということでよろしいか?」

「私はそんなこと言ってない。こいつらが自ら自分の立場をわきまえて使ってないだけだろ」


 予想どおりというかビルドはしらを切ってきた。


「ふざけるな! あんたがもし逆らうならウォルト伯爵家の力を使って俺達を潰すと言ってきたんだろ!」

「さあな? 平民共とは言葉が違いすぎて私には理解できん」


 ツンツン頭の男の子の言葉を聞いてもビルドは自分の罪を認めることはしない。


「ビルドさん⋯⋯条件次第ではこのことを黙ってやってもいい」

「別に私に非はないが一応その条件を聞いてやろう」

「あんたこの学校を辞めてくれ」

「何だと!」


 ビルドは俺の問いに怒りを示す。

 こいつはわかりやすいくらい感情のコントロールが出来ていないな。交渉ごととか絶対に向いてなさそうだ。


「まあ話は最後まで聞け。明日FクラスとSクラスとのチーム戦があるんだろ? そこでFクラスが勝ったらの話だ」

「「「えっ!」」」


 俺の言葉にFクラスの面々が驚きの声を上げる。


「ふっはっはっはっ! バカめが! この底辺共がSクラスに勝てると思っているのか!」

「ああ⋯⋯あなた程度が育てたクラスになら勝てるぞ」

「いいだろう⋯⋯別に私は悪いことはしてないがその提案受けてやろう」

「それはどうも⋯⋯あっ! 後負けた時はこの子達に向かって自分の指導方法が無能で今まで申し訳ありませんと謝罪もしてくれ」

「どんな条件でも飲んでやるから安心しろ。どうせSクラスが負けることなど絶対にないからな」


 ビルドはSクラスが必ず勝つと思っているのかどうやら油断しているようだ。だがこっちとしては都合がいい。明日を楽しみにしてろ。


 こうして明日のFクラス対Sクラスのチーム戦はビルドの進退をかけた戦いとなり絶対に負けられないものとなるのであった。

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