第42話 期待すると裏切られることはよくある

 そしてゼーリエ校長は早速銀の竜種について調査してくれるということで理事長室から退室し、この部屋には俺とリリーだけとなる。


「さてリリー⋯⋯ようやく二人っきりになれたな」


 俺が今日ここにきた理由はミリアのことを聞きたかったからだ。さすがにメルルさんがいる前では聞けないからな。


「な、なによ⋯⋯久しぶりにあった一言がそれ?」

「俺はこの時を待ち焦がれていたんだ」


 ミリアの学校での生活態度⋯⋯帝都に来てから察するにおそらく良いものではだろう。だが今後どうするか指針を立てるためにも聞かずにはいられない。


「まあ、私はユクトが思っている以上に待っていたけどね」


 俺はミリアの生活態度を良くするためには学校側と家庭側の両方ががんばらなくてならないと思っている。俺が帝都にいなかったばっかりに⋯⋯待たせたなリリー。


「リリーに聞きたいことがある」

「な、何? 安心して⋯⋯私はまだ結婚してないから」


 結婚? 何の話だ? それとも俺の聞き間違いか?


「将来のことだ⋯⋯このままだとろくな未来にならないと思う」

「ええ⋯⋯確かに長い間離れていたからこのままだったら良い結果にはならないわね」


 やはり俺が2年間もミリアの側にいなかったから⋯⋯。


「ただあなたの一言が今後の未来を変えるってこともあるのよ」

「本当か? まだ間に合うのか?」

「うん⋯⋯だから勇気を出して言って⋯⋯」


 この時リリーはかつてない程、胸の高鳴りを感じていた。今までの想いが報われるかもしれない。だがその想いは実ることはなかった。


「ミリアは⋯⋯」

「ミ、ミリア?」

「学校での生活態度は大丈夫だろうか⋯⋯」

「へっ? 何? ユクトの聞きたいことってミリアちゃんのことなの?」


 あれ? 何故かリリーが驚いているように見えるけど気のせいか?


「このままだとミリアの将来が心配で⋯⋯リリーも俺がミリアと長い間一緒に暮らしていなかったから良くないと思っていたんじゃないのか?」

「えっ? も、もちろんよ。私は理事長になってから常に生徒のことを考えて行動しているから」


 やはりリリーは頼もしいな。相談して良かった。


 しかしこの時リリーはユクトとは全く別なことを考えていた。

(もう! ユクトの奴何なのよ! 期待させるようなこと言って! 久しぶりに会ったのに一番話したいことが娘のことなんてどんだけ親バカなのよ! 少しは「リリー、綺麗になったな」の一言くらいくれてもいいんじゃない! もうユクトには気を許さないから! 絶対だからね!)


「え~とミリアさんね⋯⋯実技は満点、筆記試験も満点。数々の魔道具作製により帝都の生活水準の向上。ハッキリ言って歴代で最も優秀な生徒であることは間違いないわ」


 魔法養成学校の理事長であるリリーにそこまで褒められると親として嬉しくなるが⋯⋯。


「けど出席日数はギリギリ、遅刻は当たり前、授業に来ても寝てることが多く学校始まって以来の問題児でもあるわ」


 リリーの言葉を聞いて頭が痛い。

 ミリアだけならまだしもそのような生徒がいると周りの生徒にも影響を及ぼさないか心配だ。


「授業さえしっかり出てればとっくに飛び級で卒業してもおかしくないけどね。けどユクトが言えばあの子は言うこと聞くんじゃない?」

「確かにそうかもしれないがやはり自発的に学校へ行くようになってほしい」

「ミリアさんかなり気分屋でしょ? 無理じゃない?」


 俺とリリーはミリアの生活態度を改めさせるため案を出しあったが結局良い考えが思い浮かぶことはなかった。


 ミリアに対する教育については後日話し合うということで、俺は一度理事長室を退出する。


「あっ! ちょっと待って!」


 理事長室を出た途端に背後からリリーに引き留められる。


「はいこれ」


 そう言ってリリーから手渡されたのは一枚のプレートのような物だった。


「これは?」

「魔法養成学校の立ち入り許可証。私の名前で作っておいたから学校内なら大抵の所には入ることができるわよ」

「それはありがたい」

「本当は私が案内してあげたいけど出張で2ヶ月ぶりに帰って来たからやることが多くて。じゃあまた今度ね」


 理事長というのも大変だな。


「あっ! リリー。俺からもいいか?」

「何?」

「久しぶりに会ったから今度一緒に食事でもしないか?」

「えっ!? ほんと!?」

「ああ⋯⋯俺は行ったことないけど知り合いからワインと料理が旨い店を教えてもらったからリリーと行きたいなと思って」

「行く! 絶対行くから!」

「それじゃあ今週末でいいか?」

「うん! やっぱりユクトは私のことを考えて――」

「セレナとトアもリリーと話したいって言っていたから娘達と迎えに行くよ」

「えっ? む、娘⋯⋯達⋯⋯」

「あ、ああ⋯⋯娘達が帝都に来てからリリーに面倒を見てもらったからお礼をしたいと⋯⋯もちろんその気持ちは俺も同じだ」

「そ、そう⋯⋯楽しみにして⋯⋯る⋯⋯ね⋯⋯」


 あれ? 初めに店の話をした時には凄い喜んでいたのに段々テンションが下がっているように見えたぞ⋯⋯あっ! そうか! リリーは出張から帰って来たばかりだから疲れているんだ。ここは邪魔にならないようにすぐに立ち去った方がいいな。


 見当違いのことを考えるユクトであった。


「じゃあな」

「⋯⋯バイバイ」


 俺はこの場から立ち去るとリリーも理事長室へと戻っていく。

 するとすぐに理事長室から大きな声が聞こえてきた。


「どうせこんなことだと思ったわよ! もうこの気持ちを仕事にぶつけるしかないわ!」


 やっぱりリリーはかなりストレスが溜まっているようだ。食事に誘って正解だった。


 こうして俺はリリーの叫び声を聞きながら学校の中を見学しに行くのであった。

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