第40話 所構わず壊すと痛い目を見る

「今のは何だ!?」


 俺は手足の麻痺より敵に襲撃されたと考え、直ぐ様ミリアとメルルさんに視線を向ける。幸いなことに2人は何ともないようだ。

 これは結界の一種か? どうやら俺だけが学校に入れないようになっているらしい。


「そうと分かれば!」


 俺は右手に魔力を込めて結界に触れるが、開く様子はない。


「だったら両手で!」


 左手にも魔力を込めて両手でこじ開けるように力を入れるとピシッピシッと結界にヒビが入る。


「ユ、ユクトさんこれは⋯⋯ムグムグ⋯⋯」

「面白そうだから黙っていよ」


 メルルさんが何かを言いかけたがミリアに口を塞がれて喋ることが出来ずにいる。

 気にはなるが今はこの結界をぶち壊すことが先だ!


「魔力フィールド全開!」


 俺は再度魔力を両手に込めて結界をこじ開けるとパリンッという音と共に何かが消失した。

 これで俺の動きを封じるものはない。


 俺は2人の前に立ち新手の攻撃に備えるが⋯⋯遅刻しそうな時間だったこともあるのか近くに誰かがいる気配はなかった。


「はわわわっ! 学校を護る結界が⋯⋯」

「くくくっ⋯⋯お腹が痛い。やっぱりパパは凄いなあ」


 メルルさんは焦り、ミリアはお腹を抱えて笑っている。

 俺は何かをやってしまったのだろうか? メルルさんから不穏な単語が聞こえてきたけど⋯⋯。


 そして俺はメルルさんの言葉の真意を確かめようとしたが、懐かしい気配が1つこちらに近づいてきたので学校の校舎に視線を向けると⋯⋯。


「結界が破られたわ! ただの魔物にそんなことができるとは思えない! おそらく古の⋯⋯伝説級の魔物よ!」

「わたくしは学生の避難誘導と援軍を呼びに騎士や冒険者に連絡を取ります」

「お願い! 何とか足止めをしてみるけど⋯⋯」

「S級冒険者が尻込みをするほどですか⋯⋯どうやらここがわたくしの死地になりそうですな」

「まさか出張から帰ってきた日にこんなことになるなんて⋯⋯」


 リリーと初老の男性が何やら緊迫した雰囲気でこちらへと向かってくる。


「あっ! ユクト! 神は私達を見捨てなかったわ! 魔物が攻めてきたのあなたも討伐を手伝って!」


 そしてリリーと初老の男性は辺りをキョロキョロと見回す。


「いないわね⋯⋯ユクトは魔物を見なかった? どこかに逃げてしまったのかしら」

「え~と⋯⋯」


 その魔物ってたぶん俺のことだよな。


「ボクその伝説の魔物ってやつ知っているよ。ほらここに⋯⋯」


 そう言ってミリアは俺のことを指差してくる。


「えっ?」

「パパが結界をパリンッて割っちゃたんだ」

「誰かの攻撃かと思って割ってしまった⋯⋯すまない」


 ここは素直に罪を認めて謝るのが正解だろう。


「バ、バカな! 学校に張られた結界は並の物では破られるはずはない⋯⋯それこそかつて数千年前に存在し、この大陸を壊滅まで追い込んだ銀の竜種でないと⋯⋯」


 銀の竜種⋯⋯だと⋯⋯まさかそれはセレナ達の故郷を滅ぼした⋯⋯。


「と、とにかくみんな今すぐ理事長室に来て!」

「わ、私これから授業が⋯⋯」

「何言ってるのメルルン。理事長命令で授業さぼれるんだよ」

「不本意だけどこれは最優先事項なので拒否権はないわ」

「は、はい」


 銀の竜種のことを初老の方に聞いてみたいがそれは後にするか。俺たちはリリーの後に続き理事長室へと向かう。


「さあ入って」


 理事長室の部屋の作りは騎士養成学校と変わらないな。


 まさかこんな形で理事長室に来ることになるとは⋯⋯。

 結界を展開していたのが魔道具だったら壊れてしまったのだろうか? そうなった時は弁償しなくてはならない。


 そしてリリーは理事長室の机の下を弄ると突然壁際にあった本棚の間が開き、地下への階段が現れる。


「リリー理事長⋯⋯まさか結界の魔道具の所まで案内する気ですか?」

「ええ⋯⋯別にいいじゃない。どうせ今は私とゼーリエ校長しか使えないし」

「た、確かにその通りですが⋯⋯」


 どうやらこの初老の男性は校長先生で名はゼーリエと言うらしい。


「着いてきて」


 俺達はリリーの言葉に従って暗闇の階段を降りる。


「それにミリアさんには何度か来てもらってるし⋯⋯私だけで魔力の補充をするの大変なのよ」

「ここに生徒を連れてくるとは! しかしミリア殿は大魔導師の称号を持つ者⋯⋯」

「どうせお願いするなら早い方がいいじゃない」


 2人は何を話しているのだろうか?

 それにしても情報が少なすぎる。

 まずはミリアとメルルさんに結界のことについて聞いてみよう。


「ミリア⋯⋯さっき俺が壊した結界ってなんなんだ?」

「え~とねえ⋯⋯悪い人から学校を護ってくれたやつだよ」


 おいおい⋯⋯ミリアの言葉が本当なら俺はとんでもないことをしてしまったんじゃ。


「わ、私も詳しくは知りませんが、理事長先生と校長先生が許可してくれた人だけが入れるとか⋯⋯」


 メルルさんは視界が暗くて無意識なのか俺の左手の服の袖を掴んでいる。ちなみミリアは初めから俺の右手に自分の左手を絡めて抱きつくような体勢を取っていた。


「私達生徒は結界を素通りできるのですが⋯⋯」

「部外者の俺は引っ掛かったというわけか」


 これはかなり優秀なセキュリティーシステムということか。実際結界を破った時すぐにリリー達が現れたしな。


「着いたわ」


 最下層に辿り着くと部屋の中心に魔方陣が張ってあり、その上に台座のようなものがあった。


 そして俺達はリリーの後に従って台座に近づくと⋯⋯。


「やっぱり白金の宝玉の魔力がゼロになってるわ。けど幸いなことに壊れていないから魔力を注入すれば結界は元どおりになりそう。けど結界が壊れたなんて父兄には言えないわよ」


 とりあえず壊れていないというリリーの言葉に俺は安堵する。


「リリー⋯⋯魔力を注入とはどういうことだ?」

「結界を維持するために定期的に魔力をこの白金の宝玉に入れなきゃいけないのよ。でもその魔力の量が膨大でゼロからだったら私とミリアさんでも数日かかるわ」


 なるほど⋯⋯ミリアは大魔導師の称号を持ち、体内にある魔力が多いから手伝っていたというわけか。


「それでしたらミリア殿だけお連れすればよろしいのでは?」

「いえ、ユクトも巨大な魔力を持っているわ。だから責任を取ってこの宝玉に魔力を込めてくれない?」


 俺としては結界を壊してしまった手前リリーの言葉に従わざるをえない。


 俺は台座の所へと行き、右手で白金の宝玉を手に取る。

 これは⋯⋯持っているだけでも魔力が吸い取られている感覚があるな。魔力が少ない者が持つとあっという間に魔力欠乏症になりそうだ。


「先程の結界消失は魔道具の不具合だったのでは? 結界が壊れるなんて普通考えられません」

「ゼーリエ校長は黙っていて」


 俺は右手に魔力を込めるとその分だけ宝玉に吸い込まれていることがわかる。そして⋯⋯。


「終わりましたよ」

「早いですな。やはり魔力の量が少ないからすぐに魔力が欠乏したというわけですか」

「いえ、たぶんこれ以上魔力が吸われないので満タンになったと思いますが」

「な、なん⋯⋯だと⋯⋯バカな! そんなことあるわけなかろう!」

「けどパパだと有り得ちゃうんだなあ」


 ゼーリエ校長は台座にある白金の宝玉を手に取るとワナワナと震えていた。


「し、信じられん! 本当に宝玉に魔力が詰まっておる! 先程までは確かに空だったはずだ」

「ほら、私の言ったとおりでしょ⋯⋯と言いたい所だけどまさか1回で宝玉の魔力を満タンにしちゃうとはね」

「ミ、ミリアちゃんのお父さんって⋯⋯な、何者ですか⋯⋯」

「元Cランク冒険者だ」


 俺はメルルさんの問いに対していつも答えている言葉を返すのであった。


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