第36話 歓喜の後
ワイバーンを倒した後、学生達のざわめきはいつまでも止まらなかった。
「スミス先生すげえ」
「けどユクト先生⋯⋯空を翔んだ⋯⋯いえ
「あれはパパの技で
レンの質問に対して俺の代わりにセレナがなぜかドヤ顔で答える。
「移動するのって⋯⋯セレナちゃん⋯⋯普通は無理だよ」
「いえ⋯⋯出来ますよ」
「えっ? セレナちゃん出来るって⋯⋯」
するとセレナ軽く飛び上がり、空中でまるでダンスを踊っているかのようにステップを踏みそして優雅に着地する。
「「「えーっ!」」」
「何でセレナちゃん出来るの!?」
「そんなに驚くことか?」
確かに他の人が天翔を使っているのを見たことないけどおやっさんは普通に使ってたぞ。
「驚きますよ!? けどセレナちゃんはユクト先生の弟子だし、剣聖の称号を持っているから出来てもおかしくないですね」
セレナは剣聖の称号で能力が補正されているけどもし称号がなくても出来ると思うけどな。
「俺はあの翔ぶ衝撃波が使いたいぜ」
「確かにあれはかっこよかったよな」
「男だったら憧れる技だ」
「けど俺達にはあんなのできねえよ⋯⋯特別な称号もないしな」
学生達は何か称号を勘違いしているな。
称号は13歳以降につくこともある。だが才能がなかったり、努力をしない者に称号がつくことはないし、称号だけで烈風牙や天翔ができるわけじゃない。
口で言ってもわかってもらえるか⋯⋯それならいっそのことやってもらうか。
「レン⋯⋯ちょっと来てくれ」
「えっ? 何ですか? デートのお誘いですか?」
「違う。それに今は授業中だぞ」
「じゃあ授業が終われば⋯⋯ヒィッ!」
ふざけているレンに対してセレナがジロリと睨みを効かせるとレンは悲鳴を上げた。
「レンさん? ワイバーンの咆哮で耳が悪くなったんですか? おかしなこと言わないで下さいね」
「は、はいぃっ!」
2人は何をやっているんだ。だがとりあえずレンはおとなしくなったのでやってほしいことをお願いしよう。
「レン⋯⋯剣を構えて」
「は、はい。けど何をするんですか?」
「集中しろ」
「わ、わかりました」
「そして身体の中にある力を剣に移動させろ」
「えっ? そんなこと出来ませんよ。私は普通の人間ですから」
その言い方だと俺とセレナが普通じゃないみたいだな。
「自分を信じられないなら出来ると思っている俺を信じてくれ」
「わ、わかりました⋯⋯ユクト先生はセレナちゃんのお父さんだしさっきワイバーンから助けてもらったから信じています」
するとレンは目を閉じ、周囲の音を排除して集中する。
「何をやってるんだ? まさかレンごときにさっきの技ができると思っているのか? ハッハッハ! こいつはおかしいぜ」
パルズがまた余計なことを言葉にして喚いている。
「けど確かにパルズ様の言うとおり無理だよな」
「凡人の俺達とセレナさんは違うんだよ」
だか学生達もパルズの意見に賛成のようだ。
魔法は想いの力⋯⋯だがそれは他のことにも言える。出来ないと思ってやればどんなことも出来ない。新しいことに挑戦するにはもちろん技術や魔力などが必要だ。だが最も大切なのは信じる力。レンにこの雑音が入ると負の感情に犯されて俺が教えようとしていることも失敗するかもしれない。
「やめろやめろ! 時間の無駄だ!」
パルズの非難の言葉は止まらない。だがレンの小さな気に乱れはなかった。
大した集中だ。
無意識だったかもしれないが、レンは対人戦をした時に僅かだ気を操っていた。もしかしたらと思っていたが⋯⋯。
「剣も自分の身体の一部だと思え。そして少しずつ身体の中の力を剣へ⋯⋯」
雑音は耳に入らないがどうやら俺の声は届いているようだ。気の力が徐々に剣へと移動している。
これなら!
「さっき俺がワイバーンに撃ったように剣の力を前方に解き放つイメージで振れ」
「はい!」
レンが剣を横一閃に振ると小さなつむじ風が起き、茂みにある無数の葉っぱが空を舞う。
「「「「エェェェェッ!」」」」
本日1番の声が平原に響き渡る。
なんか学生達は今日驚いてばかりだな。ていうか今烈風牙を放ったレンも驚いてなかったか。
「うそっ! うそっ! 私出来ちゃったよ!」
「レンちゃん凄いよ!」
「信じられない!」
レンや学生達は抱き合いなから喜んでいる。
「コホン⋯⋯というように別に称号が何であれ出来ないことはないということだ。ただどんな技を使うにしろ必要なのは基礎鍛練だから皆精進するように」
「「「はい!」」」
う~ん言い返事だ。
「君達には自分の限界など決めてほしくない。限界を決めるのは年を取ってからで十分だからな」
こうして臨時講師としての俺の授業は終わりとなるはずだったが⋯⋯。
「お前は何者だ!」
パルズは突然声を上げ、何が不満なのかすごい形相で俺に詰め寄ってきた。
「さっきもいったように元C級冒険者だ」
「嘘をつくな! お前のようなC級冒険者などいるか!」
そうは言われても紛れもない事実なんだが。
「まさか他国のスパイか!? スミス! 衛兵を連れてこい!」
「えっ? それは⋯⋯」
パルズの暴走にスミス先生も戸惑いを見せている。俺をスパイ扱いをして何をしたいんだ? いやパルズは対人戦で負け、醜態を晒された原因である俺のことが気にくわないだけなのかもしれない。
「パルズさん! あなたは何を言っているのですか! 返答次第では許しませんよ」
「くっ!」
セレナが殺気を放つとパルズはそのプレッシャーに負けたのか思わず怯んだ。
さてどうしたものか。ここはやはりゴードンに仲裁に入ってもらうのが1番いいか。だがパルズは粘着質な性格をしていそうだからそれで済むとは思えない。俺だけの問題で済めばいいがもしセレナにも手を出して来るというのなら⋯⋯。
そしてそんな一触即発な状態な雰囲気が漂う中、突如1人の少女がこの場に乱入してくるのであった。
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