第35話 ワイバーン

「スミス先生⋯⋯今からワイバーンを攻撃するので援護をお願いします」

「残念ながら私の攻撃はあそこまで⋯⋯」

「大丈夫⋯⋯叩き落としますから」

「えっ?」


 スミス先生は俺の言葉に驚きの表情を浮かべているが、いざとなったら何とかしてくれるだろう。


「セレナ」

「はい! 私は残りの1匹を⋯⋯」

「頼む」


 どうやらセレナは詳細を話さなくても理解してくれたようだ。


「おい、ユクト先生が何かやるつもりだぞ」

「無理だよ、あんな遠くにいたんじゃ攻撃も届かない」

「ワイバーンが鉤爪で攻撃をするために降りてきた所を狙うんじゃ⋯⋯」

「魔法じゃないかな?」

「えーっ! ユクト先生あんなに剣を使えるのに魔法もできるの?」

「いや普通に無理だろ⋯⋯ラフィーニ様のように素質や称号がなきゃ」

「でも⋯⋯」


 学生達は皆、この授業で常識はずれの戦いをしていたユクトなら何とかしてくれる⋯⋯そんな思いを持っていた。


 さて⋯⋯まずは1匹落とすか。ぐずぐずしているとワイバーンは街の方に行ってしまうかもしれない。そうなったら被害は甚大だ。


 俺は剣を鞘に収め、先程セレナと戦った時と同じ様に居合いの構えを取る。


「あれってさっきの⋯⋯」

「けど上空にいるワイバーンまで届かないよね? まさかジャンプするとか?」

「20メートルも?」


 学生達は俺の構えに疑問を持っている。騎士は上空の敵を倒せないと思っているがそんなことはない。


 それを今見せてやる。


 俺は闘気を高め、剣の柄から刃まで刃から切っ先まで淀みなく闘気が行き渡るように集中する。


 距離は約22メートルほど⋯⋯2匹のワイバーンは自分達のいる場所まで攻撃が届かないと思っているのか、上空に停止して獲物を物色しているようだ。


「チャンスだな⋯⋯烈風牙れっぷうが


 俺は居合い斬りの要領で剣に宿した闘気を解放すると暴風の衝撃波が一直線にワイバーンまで翔んでいく。


「ギアァァァッ!」


 油断していたのかワイバーンは暴風の衝撃波をもろにくらい、上空に吹き飛ばされる。そして気絶したのかそのまま落下してきた。


「セレナ!」

「はい!」


 セレナは落ちてきたワイバーンに対して剣を一閃するとスローモーションのように首と胴体が解れた。


「セ、セレナちゃんすごい⋯⋯ワイバーンって鱗が固いのに一撃で⋯⋯」

「そ、それよりすげえのはあの臨時講師だろ。何だ今のは? 風魔法か?」

「たぶん違うよ。剣を振って衝撃波を生み出したんだよ」

「そんなこと普通はできねえだろ」


 レンとパルズ、そして学生達は驚きの声を上げ俺やセレナに視線を向けてくる。


 とりあえず1匹は倒した⋯⋯もう1匹は⋯⋯仲間が殺られたことで逃げてくれれば良かったがもの凄いスピードで俺達の上空を旋回している。

 これでは烈風牙を当てるのは至難の技だ。


「ギアァァァアッ! ギアァァァアッ!」


 もう1匹のワイバーンは自分が圧倒的優位であると思っていたが覆されたことで怒り、咆哮を何度も繰り返す。


 こう五月蝿くては鬱陶しくてかなわない。

 学生達もワイバーンを1匹倒したことで絶望から復帰したかのように見えたがまたこれでは逆戻りだ。


 俺はワイバーンを始末するためにもう一度剣を鞘に戻し闘気を溜める。


「臨時講師は高速で動くワイバーンにさっきの技を当てられるのか? とりあえずこの咆哮でこっちの身が持たねえ。速く倒しやがれ」


 パルズが自分勝手なことを言っているがとりあえず無視して俺は猛スピードで空を舞うワイバーンに向かって居合い斬りを放つ。


「烈風牙!」


 暴風の衝撃波がワイバーンを襲うが、仲間が殺られたことで警戒しているのか先程より距離を取られているため俺の攻撃はあっさりとかわされてされてしまう。


「ギャアッ! ギャアッ!」


 ワイバーンはこちらの攻撃を避けたことで気をよくしたのか、バカにしたような声を上げる。


「何やってるんだ! さっき当てたからって調子に乗ってるのか? もっと慎重に戦え!」


 パルズは戦うわけでもないのに好き勝手言ってくれる。今の烈風牙が当たらないことは想定済みだ。


 俺はワイバーンに向かって飛び上がるとまたしてもパルズから非難の声が上がる。


「バカが! ジャンプした所で届くわけないだろ。炎の的になりたいのか!」


 だからそんなことはわかっている。何もしないなら黙っていてくれ。


 俺は最高到達点に辿り着くと右足で空気を蹴りさらに飛び上がる。


「うそっ!」

「ユクト先生が翔んでる!」

「あ、ありえない! 人が空を翔ぶ⋯⋯だと⋯⋯」


 学生達から驚きの声が上がる。特にパルズはこの光景に腰を抜かし地面に尻餅ついていた。


 俺は次々と空気を蹴りワイバーンの頭上へと辿り着く。


「ギャワァッ!」


 ワイバーンも学生達と同様に俺が自分と同じ高さまでくるとは思っていなかったのか驚いているように見えた。


 そして俺は空中で逆さになりワイバーンの頭部を地面に叩きつけるように蹴り飛ばす。

 するとワイバーンは俺の攻撃をもろにくらい、大地へと落下していく。


「スミス先生!」

「承知しました」


 スミス先生は俺の叩き落とすという言葉を信じてくれたのか、溜めていた闘気の剣で見事にワイバーンの首を斬り落とし俺達はこの戦いに勝利するのであった。

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