第33話 ユクトVSセレナ

回復魔法ヒール


 俺は膝を地面に着いているスミス先生に向かって回復魔法をかける。


「はは⋯⋯魔法も使えるのですか? これは完敗ですね」


 スミス先生は苦笑いを浮かべ俺に敗けたことを完全に受け入れているようだった。


「日頃から鍛練を欠かさず行っていますから」

「ユクト先生と戦って昔の自分を思い出しました。剣を覚え始め楽しかったあの頃を⋯⋯また私と手合わせをお願いできますか?」


 そう言ってスミス先生は俺に向かって右手を差し出してきたので俺は頷き、その手を握る。


「あの臨時講師の先生マジ凄い」

「さすがゴードン理事長が連れてきただけはありますね」


 周囲から俺の戦いを褒め称えてくれる声が聞こえる。

 どうやら学生達との戦いを終えて教師としての信頼を勝ち取ることができたようだ。


「あっという間に学生の心を掴むとは⋯⋯すごいですね」

「それは俺だけじゃありませんよ⋯⋯スミス先生」


 おそらくこの戦いを見て学生達が見直したのは俺だけではないはず。


「スミス先生も凄かったです!」

「何で今まで実力を隠していたんですか」

「今度岩を割る技を教えて下さい」


 学生達がスミス先生の元へと近寄る。


「えっ? あ⋯⋯ちょっと。まさかユクト先生はこれが狙いで私と手合わせを⋯⋯」


 もうこの学生達は大丈夫だろう。明日からスミス先生の指導でもっと強くなれると思う。


「み、皆さん落ち着いて下さい。まだ授業は終わっていませんよ」


 スミス先生は学生達に囲まれたじたじになっており、対応に困っているように見える。


 だかその輪の中に2人だけ入っていない学生がいた。


「けっ!」


 学生達とスミス先生をどこか面白くない様子で眺めるパルズ。


 そして⋯⋯俺との戦いを待ち望んでいるセレナだった。



「パパ⋯⋯剣を交えるのは2年ぶりですね」


 そう言ってセレナは木刀を取り出す。どうやら俺と対等の条件で戦うつもりのようだ。

 そしてセレナが木刀を構えると騒がしかった周囲が静寂に包まれる。


「どっちが勝つんだ」

「それは⋯⋯やっぱり剣聖の称号を持っているセレナさんじゃ」

「けどユクト先生の強さは半端なかったぞ」

「ユクト先生はセレナさんの師匠だから⋯⋯勝つのはユクト先生だろ」

「けどそれって2年前の話だろ? 今ならセレナさんが⋯⋯」


 学生達やスミス先生は固唾を飲んで俺達の戦いに注目している。


 確かに周りの声の言うとおり、セレナはこの2年間帝都で毎日鍛練をしてきたのだろう。俺も鍛練を欠かしたことはないが伸び盛りのセレナと比べると⋯⋯差は縮まっていると考えた方が良さそうだ。油断して挑むと敗北するのは必然だ。


「2,867連敗してますが今日こそパパに勝たせてもらいます!」


 どうやらセレナは全力で向かってくるようだ。それなら相応の力で対応させてもらうぞ。


「あ、あの親子2,867回も戦っているのか!?」

「どんだけだよ!」


 俺は木刀を構えてセレナに集中し、周囲の雑音を排除する。


 そしてヒラヒラと一枚の葉っぱが2人の中央に舞い降りてきた時⋯⋯それが開始の合図だったのか俺もセレナも相手へとダッシュをかけ一撃を放つ。

 すると舞い降りた葉っぱは木刀がぶつかり合った時に出来た風圧で破れ粉々に砕ける。


「えっ? 何今の? 剣圧で風が私達の所まで⋯⋯」

「嘘だろ!?」


 学生達は驚きの声を上げているが俺もセレナも気にしている暇はない。

 セレナは初めの一撃こそパワー勝負できたが、その後は手数で攻めてきており、その鋭い攻撃が俺を襲う。


「速い! さっき私達と戦ったユクト先生より!」


 学生の1人が現状を解説し、スミスに視線を向ける。


「そうですね。ですがユクト先生はさらに速いですよ」


 俺はセレナの高速の剣技に対して同じ箇所に攻撃を放ち跳ね返す。


「くっ! さすがパパです」

「セレナもな」


 2年前に比べて格段に剣のスピードは速くなっている。帝都での鍛練の成果は出ているようだが⋯⋯。


「スミス先生⋯⋯何が起きているのですか」


 木刀がぶつかり合う音は聞こえるが質問したレンを含め学生達にはユクトとセレナ剣が全く見えていなかった。


「私もかろうじて見える程度ですが、どうやらセレナくんの攻撃をユクト先生が同じ場所に撃ち込み迎撃しているようです」

「嘘でしょ? そんなこと人間に可能なんですか?」

「不可能です⋯⋯と言いたい所ですが現実に目の前で起きている出来事ですから。ユクト先生は余程反射神経が優れているのか、それともセレナくんの攻撃を先読みしているのか⋯⋯」


 一見拮抗しているかのように見えるが実際にはユクトの方がかなり優勢にことを運んでいた。


「しかも一撃一撃はユクト先生の方が上ですから徐々に⋯⋯」


 スミスの言うとおり、セレナは少しづつユクトの攻撃に押し込まれいたため、たまらず後方へと逃れることを選択する。


「剣速は速くなっているが力がついていってないな」

「これでも騎士養成学校で1番筋力があるのですが⋯⋯やっぱりパパには学校内の常識など通用しませんね」


 これは俺が男だからという部分もあるだろう。筋肉はどうしても男性の方がつきやすいからな。


「セレナさんレベルでも力が足りないっていうの?」

「俺⋯⋯もう少し筋トレや基礎訓練をしっかりやろうかな」

「私も⋯⋯」


 学生達はこれまでのユクトの戦いを見て自分達がどれだけ基礎トレーニングが足りていないかを痛感していた。


「パパは指導者に向いてますね」

「そうか? だけど学生達がやる気になってくれたことは嬉しい」


 それでこそ臨時講師になったかいがあったというわけだ。


「パパと語り合うこの時間がいつまでも続いてほしいですけどそろそろ決着をつけさせて頂きます」

「ああ⋯⋯セレナの全てを見せてみろ」


 次は今までより強力な攻撃が来ると考えられる。

 だが俺はこれまでどうりセレナの全力を見極めて攻撃を返すだけだ。

 セレナは自分の中にある闘気を木刀に込め、最後の一撃を繰り出そうと上段に構えた。

 それならと俺も闘気を木刀に込め、下段に構えをとる。


 学生達が俺とセレナの勝敗を見守っている。この戦いから何かを学んでくれれば臨時講師として嬉しい限りだ。


 そしてセレナは土を蹴り、今までにないほどの速さでこちらへと向かってくる。

 先程の攻防で力では俺にまだ敵わないことがわかっているのだろう。おそらくその不足している力をスピードと闘気で補うつもりだ。

 だが俺のやることは変わらない、セレナと同じ様に土を蹴り渾身の一撃を放つ。


 そして俺とセレナの攻撃が重なるとその衝撃で爆風が起き、互いの木刀はその衝撃に堪えきれず砕けた。しかしセレナはそのことを予測していたのか直ぐ様右の拳を繰り出してくる。


「今日こそ勝たせて頂きます!」


 セレナの拳が俺の顔面に迫ってくる⋯⋯だが木刀が砕けるのもその後すぐにセレナが攻撃を仕掛けてくることを予測していたのはこちらも同じ!

 俺は鋭く向かってくる右手を掴み、その勢いを利用してセレナを一本背負いで地面に叩きつけた。



「どっちが勝ったんだ?」

「木刀と木刀が衝突した時の爆風で土煙が舞って何も見えませんね」


 学生達やスミスはユクトとセレナの決着がどうなったか息を押し殺して注視している。


「くそっ! 何なんだよこいつらは! 俺はこの高みに昇ることなんて⋯⋯」


 パルズはユクトとセレナの戦いを見て悔しそうな表情を浮かべ、近くにある木を蹴り飛ばし、自分が想像している限界以上の力を見せつけられて絶望に打ちのめされる。


「おい! 視界が良くなってきたぞ!」


 風で徐々に土煙が晴れ、2つの影が写し出されている。

 1人が地面に倒れ、その上に1人がマウントポジションを取っているようだ。


 そして視界が完全に良好となった時⋯⋯ここにいる者達は勝者の姿を認識するのであった。


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