第31話 ユクトVS49人の生徒

「おら! お前ら臨時講師を囲め! いくら強かろうが四方八方から攻めれば対処できねえだろ!」

「「「は、はい!」」」


 パルズの命令でセレナとレン以外の学生48人が俺を取り囲もうと動く。


 戦術としては悪くないが考えが単調すぎるな。

 俺は右側から取り囲もうとしている一団に向かって突撃をかけるとそこに一陣の風が吹く⋯⋯。


 バタバタッ


 俺が駆け抜けた場所にいた学生達が次々と倒れていく。

 すれ違い様に木刀で首の後ろを攻撃し気絶させたからだ。


「な、なんだあの速さは!」


 パルズは⋯⋯いやセレナともう1人の人物以外はユクトの姿を捉えることができず、次々と地面の土を舐めることとなる。


「さすがパパです」

「いやいや⋯⋯何なのあの速さは! 私は離れているからかろうじて目で追うことができるけど近くにいる人達は何が起きているのかわかってないんじゃないのかなあ」


 レンの言葉通り50人いた学生達は既に半分ほどに減っており、このまま倒されるのは時間の問題だ。


「セレナちゃんは行かないの?」

「私は対等な立場でパパを倒したいです。


 セレナは左手で胸を抑え、何か決意をした表情をしている。


「そっか⋯⋯私はあの規格外のセレナパパとは一対一で戦いたくないから行くね」


 そう言ってレンは剣を片手にユクトがいる場所へと向かう。


 セレナとレンが話をしていた頃、パルズはこのままでは全員倒されると考え、作戦を代えることにする。


「お、お前ら離れるな! バラバラだと各個撃破されるぞ!」


 パルズの命令で学生達は固まり始めるが⋯⋯。


「それだと2、3人しか俺を攻撃することができないぞ」


 そもそも学生達は俺の動きを捉えていないから、攻撃することが出来ていないけどな。

 俺は1人、2人とさらに学生達の首の後ろを攻撃し、気絶させていると突如背後から剣が迫ってきたため身をひねり回避行動に移る。


「あれ? 完全に隙をついたと思ったのに」


 俺を攻撃してきたのはレンだった。皆から離れた位置にいたから他の学生に比べてまだ俺の動きが見えていたのかもしれない。俺が学生達を一気に片付けようと集中していた隙をついてきたのだろう。だから行動を予測して攻撃をしてきたのか。


「中々やるじゃないか。他の学生と比べて少しはやるようだな」

「いえいえ⋯⋯ここまでですよ。あの一撃でセレナパパを倒せなかった時点で私の負けですから」


 俺との力量差がわかっているのかレンは既に諦めモードだった。


「ふっ!」


 俺はレンに突進し身をかがめてそのまま腹部に拳を繰り出す。

 するとレンはまともに食らい、その場に倒れそうになったので支えるついでに回復魔法ヒールをかけ、その場に横たわらせると俺は次の獲物を狩るため、また学生達の固まりへと突撃する。


「バ、バカなバカなバカな! 50人もいたんだぞ! そ、それがもう⋯⋯」


 学生達は俺の攻撃で意識を失い、既にこの場に立っているのは4人だけだった。


「ゴ、ゴードン理事長の戦いも見たことあるがここまで圧倒的じゃなかったぞ! お前もSランク冒険者なのか!?」


 パルズは仲間が倒され、正気を失っているためか見当違いのことを言い始める。


「俺は元Cランク冒険者だ」

「なに!? Cランク冒険者⋯⋯だと⋯⋯そんな糞野郎に俺は!」

「肩書きで相手を判断するのは感心しないな」

「ふざけるな! お前だって学生相手なら勝てると踏んで仕掛けて来たんだろうが!」

「確かに勝てると判断してこの戦いを提案したことは間違いではないな」

「そらみろ! お前だって肩書きで人を判断してるじゃねえか!」


 俺はパルズの言葉に呆れ溜め息をつく。


「何か勘違いをしているな。俺はランニングでここに来るまでの足の運び、呼吸の乱れ、姿勢、気の大きさ、セレナやレンからの情報を総合的に見て勝てると思ったんだ」

「う、嘘をつくな! この短時間で50人の情報を観察していたというのか!」

「正確にはだ。そしてこの中で2人だけ油断はできないと感じたがな」

「それは⋯⋯今残っているセレナと⋯⋯俺の実力は見抜いたというわけか」


 俺はパルズの言葉に何も答えない。授業の時間は有限だ。これからは剣で語るとしよう。


 俺は木刀を構えるとパルズは剣の切っ先をこちらに向けてくる。

 そして先程の学生達と同じ様にパルズの背後に回り首の部分を木刀で攻撃し、その場を離れる。


「てめえ何のつもりだ!」


 パルズには体のダメージがなく、こちらを睨みながら激昂している。

 それもそのはず、今の俺の攻撃は寸止めだったからだ。


「そろそろ臨時講師らしいことをしようかと思ってな⋯⋯かかってこい」

「くそっ! 舐めやがって!」


 パルズはこちらへと接近し、剣を右に左にと振り回してくる。


「ほら、どうした? でかいのは口だけか?」


 俺はパルズの剣を見切り、その攻撃をことごとくかわしていく。


「ち、ちくしょう! 何で当たらねえ! はあはあ⋯⋯」


 パルズは30秒ほどしか剣振っていないが既に肩で息をしている。


 全力で攻撃したときに剣をかわされると身体の負担が大きい。だがこの程度で疲れるのはただの鍛練不足だ。


「今度はこちらの番だ」


 俺はパルズに接近し頭部を狙って木刀を繰り出す。


「くっ!」


 パルズはすんでの所でバックステップでかわす。そして俺は続けて右肩を狙って斜めに斬り落とすがパルズは身をひねり木刀を避けた。


「どうした!? 当たらねえぜ!」


 俺の連続攻撃を避けたことによってパルズは気を良くしたのか口が回るようになった。

 そして俺は続けて木刀で攻撃をする。


「つ、疲れたのか!? 50人を相手にするとでかい口を叩くからだ!」


 そう言いつつパルズの足はガクガクと震え、立っているのがやっとのようだ。


「俺のことより自分のことを心配したらどうだ? 先程の攻撃で剣を持つのもやっと⋯⋯足を動かすのも辛いだろ?」

「うるせえ!」


 フラフラとこちらに近づきながら子供でも避けれるような剣を繰り出す。

 もちろん当たるわけがない。俺はパルズの手の甲に手刀を当て剣を落下させると共に足払いを食らわせ地面に這いつくばらせる。


「く、くそっ!」

「素振りが足りない、足腰も弱い」


 ただそれはこの場にいるほとんどの学生にいえることだ。


「敵がいたら速攻で倒せばいいだけだろうが!」

「だが君は今俺に負けて這いつくばっている」

「そ、それは⋯⋯ただてめえが強かっただけだ!」

「やれやれ⋯⋯実戦はパルズくんが言うように常に準備万端な状態で戦えると思っているのか? 敵は食事を取っているとき、行軍をして疲労が溜まっているとき、寝ているときに攻めてくるかもしれない。その時君は正々堂々と戦えなかったから敗北したんだと言うつもりか?」

「くっ!」


 パルズは俺に正論を突かれたせいか悔しそうな表情を浮かべる。


「意識は狩り取らないでおくからこれから始まる戦いを見てろ」

「娘のセレナと戦うつもりか!?」

「いやその前にもう1人戦いたい者がいる」

「なんだと!? もうここに立っている生徒はセレナしか⋯⋯」


 俺は木刀の剣先をその人物に向けるのであった。

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