第30話 娘のクラスメート達と対人戦
今の学生達の動きを見たところ、どうやらあのパルズって奴がクラスのリーダー格のようだ。スミス先生は公爵家の血筋の者だから逆らえないのか? それにパルズはラニに忠誠を誓っているようだ。
俺は走りながら最後尾で横にいるセレナに視線を向けると⋯⋯。
「あれは⋯⋯」
「公爵家のパルズくんには皆逆らえないんですよ」
セレナに聞いたつもりだったが隣にいたレンとかいう女の子が答えてくれた。
「貴族の権力を使うことは成長の妨げになるから禁止じゃないのか?」
「それは⋯⋯」
「ああ見えてパルズくんは実技も強いですからね。セレナさんには遠く及びませんが」
またセレナを飛び越えてレンという女の子が話始めた。
確かに強い奴がクラスを牛耳るということはあるかもしれない。
「だが明らかに教師のやることに反発するのは成績にも響くんじゃないか?」
「ですから⋯⋯」
「卒業した後のことが怖いんですよ。卒業したらこっちはただの平民、向こうは貴族様ですからね」
それだと国の決まりなど意味ないようなものじゃないか。やはり貴族が力を持ちすぎるのは良くないな。対抗できるとしたらSランクの冒険者くらいか。Sランク冒険者はギルドだけではなく国からも認められた者なので、貴族といえども簡単には手出しができない。下手なことをして他国に行かれたら国家の損失になってしまうからだ。もしかしてパルズのような貴族を抑えるためにSランク冒険者のゴードンを理事長にしたのかもしれないな。
「なるほどな。教えてくれてありがとう⋯⋯え~とレンでいいのか?」
「わわぁ! もう名前を覚えているんですね!」
「わかるのは君だけだよ」
「ええー!? それってまさか可愛い私に一目惚れですか!? いやだなあ⋯⋯ユクトさんみたいなカッコいい方に言われると照れてしまいますよ」
そう言いつつレンは照れているというより笑っているな。本人も冗談で言っているのだろう。
「可愛いということは認めるが一目惚れではないな」
「えっ!」
レンは声を上げると先程まで笑顔だったのに突然顔を赤くして本当に照れた表情を見せてきた。
「自然に可愛いなんて言われると恥ずかしいです」
レンは客観的に見て容姿が優れているので、日頃から他の人に褒められていると思うのだが⋯⋯。まさかそんなに照れるとは。
「いいですね。パパはレンさんと仲が良くて!」
突然セレナが俺とレンの会話に割って入ってくる。
「うん! 私セレナのお父さんのこと気に入っちゃった」
そんなことはない、普通だと答えるつもりだったが、レンが先に答えてしまったので違うとは言いづらくなった。
「わ、私の方がパパと仲が良いのに⋯⋯」
セレナは何を張り合っているんだ? 俺達は親子何だから仲が良いのは当然だろう。
「パパ⋯⋯私は⋯⋯その⋯⋯どうですか? 可愛いですか?」
セレナが可愛いかだって? そんなの答えは決まっている。
「セレナは俺にとって世界一可愛いよ」
「え?」
父親に取って娘が一番可愛いに決まってる。そうじゃない親がいるなら見てみたいものだ。
「す、すごくうれしいです⋯⋯」
セレナは顔が真っ赤になり、恥ずかしいのかそっぽをむいてしまった。
そんなセレナを見てかレンはニヤリと笑みを浮かべる。
「セレナちゃんって学校では気高き騎士なんて呼ばれているけど本当はファザコンなんだね」
「そ、それがなにか? 娘がパパのことを大好きで悪いことありますか」
「ううん。仲が良くて羨ましいなあって思っていた所。私もセレナちゃんともっと仲良くしたいなあ」
「べ、別にそんなこと気にしなくてもいいでしょ⋯⋯私達は⋯⋯友達ですから」
セレナは頬を少し赤らめ、恥ずかしそうに答える。
「うん!」
そしてレンは満面の笑みを浮かべセレナの腕に抱きつく。
今のレンとセレナのやり取りを見て俺は安心する。セレナは友人との絆をちゃんと育んでいたんだな。俺はその光景を微笑ましく見守るのであった。
そして俺達は北門に到着するとパルズが余裕の表情で待っていた⋯⋯馬に乗って。
「おっせえな。やっと来たか」
パルズは馬上から俺やスミス先生を見下すように視線を向けてくる。
こいつはとんだ問題児だな。これでは上手く授業を行うなど不可能に近いだろう。
「パルズ! あなたはなぜそのような物に乗っているのですか!」
「へっ! うっせえな! 俺様がそんな泥臭いことやってられるか!」
「あなたはラフィおね⋯⋯ラフィーニ様の騎士を目指しているのでしょ!? 真面目にやりなさい!」
「走ればラフィーニ様の騎士になれるのか? そんなことしなくてもここにいる者達は俺より弱い。セレナ⋯⋯お前が俺に勝てるのは称号のお陰だということを忘れるな」
パルズはセレナの注意も聞く耳をもたず我が道を往く。
「それより今は授業中だろ? 静かにしろ」
「なんですって!」
こういう時ミリアがいれぱパルズを口で負かすことができるが、セレナは正義感が強く正論で攻めるため、相手によっては心に響かせることができない。
「で? スミス先生⋯⋯この後何をするんだ?」
「え~と⋯⋯素振りを500回行い、その後対人戦をやります。そして最後に魔物を討伐して終わりにしましょう」
なるほど⋯⋯スミス先生の本日の授業の意図がわかった。ランニングや素振り、対人戦を行って疲労した所で魔物と戦わせるのが狙いだ。
実戦ではこちらが万全な状態で戦えることなどほぼないからな。
「素振りや対人戦はいらないだろ? とっと魔物討伐をやるぞ? 皆もその方がいいだろ?」
「「「は、はい!」」」
だいたい三分の二の生徒が賛同する。パルズが怖いのか、それともただ基礎の訓練をするのが嫌なのかわからないが。
「確かスミス先生は元Bランクの冒険者だろ? 俺は自宅でAランクの冒険者に教わっているんだ。お前ごときの授業を受ける価値はない」
パルズは完全にスミス先生のことを教師として見ていないな。
俺はさすがにもうパルズの暴挙を許すことができなかった。
「スミス先生⋯⋯ここは俺に任せてもらえませんか?」
「えっ? はい⋯⋯」
スミス先生は俺の行動に驚いたのか、思わず返事をしてしまったようだ。
そして俺は生徒達に向かって言葉を発する。
「パルズくんや皆の意見はわかった。今日は素振りはやめて対人戦の実戦訓練から行おう」
「まあそれでもいいか。人を痛めつけて泣き叫ぶ声を聞くの悪くねえ」
やはりパルズは公爵家の血筋ということで甘やかされて育ってきたから相当ネジ曲がった性格をしているな。正直口を出すつもりはなかったがセレナの邪魔になるであろう人物をそのまま放っておくわけにはいかない。
「誰か俺様と殺りたいやつはいるか?」
生徒達はパルズと戦ったらひどい目に合わされることがわかっているので目を反らす。
そんな中セレナが手を上げようとしたが、俺はその手を掴み静止させる。
「パパ?」
これをセレナにやらせるわけにはいかない。
「俺が相手をしよう」
「な、なんだ? 俺様と戦いたいのか? だが俺様はこいつとやるから諦めな」
一応Sランクのゴードンが連れてきた俺のことを警戒しているようだ。あれだけでかい口を叩いておいて負けたら面目が丸潰れだからな。どうやらただのバカではないらしい。
「いや、俺と戦ってもらう」
「ふざけるな! そんなことに従えるか!」
「何か勘違いしてるようだな? 俺は
「なっ!」
俺の提案にパルズは驚きの声を上げ、他の生徒達もどよめきはじめている。
「お、俺様達50人を勝ち抜き戦で倒すというのか!?」
「それも違うな」
「どういうことだ!?」
「察しが悪いな⋯⋯全員でかかってこいと言っている」
俺の言葉にここにいる学生達は、恐れるものや怒りをあらわにするもの、それとパパなら余裕ですという様々の意見が飛び交う。
「この野郎舐めやがって!」
案の定パルズは激昂し、腰に差した真剣を抜く。
「これは実戦訓練なんだろ? もちろん異論はないよな?」
「ああ⋯⋯だが俺はハンデでこの木刀を使わせてもらうがな」
さすがに学生達を真剣で斬るつもりはない。少し痛い目にあってもらうが。
「いいだろう⋯⋯ここにいる奴ら全員でお前をボコボコにしてやるよ!」
こうして帝都の北門を出た草原で俺1人対
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます