第29話 娘の授業を担当する

「冒険者時代に俺とパーティーを組んでいたユクトだ。本日臨時で講師を勤めるので皆よろしくしてやってくれ」


 ゴードンに校庭で実技の講義があるクラスに連れて行かれ、突然生徒に紹介される。


 生徒達も突如現れた俺に対して懐疑的な視線を向けている。


「いきなり臨時講師?」

「貴族の人とか?」

「理事長先生がお連れした方ならまさかSランク冒険者!?」

「けど見た目落ち着いた感じでなんか⋯⋯」

「いいよね」


 何かとんでもない情報が飛び交っているな。そんな中1人だけ笑顔でこちらに手を振る人物がいた。


 それは娘のセレナだ。


 今日はSクラスとAクラスの合同授業ということでこの場には50人ほどの生徒がいる。もちろんセレナは1番成績が優秀なSクラスだ。


「えっ? セレナちゃんの知り合い?」


 茶色の髪をポニーテールで結んだ女の子がこちらに手を振っているセレナを見て話しかけている。


「はい」

「モテモテで男の子達に素っ気ない態度を取るセレナちゃんが満面の笑みで対応する男の人⋯⋯まさかあの人がセレナちゃんの好きな人!」

「えっ! あの⋯⋯その⋯⋯」

「だっていつも告白を断る時に好きな人がいるからって言うもんね」


 セレナはポニーテールの少女の言葉に対して頬を赤らめ明らかに動揺しているように見られる。それよりセレナはそんなにモテるのか? いや正義感が溢れ、剣の腕もあり見た目も可愛いと来たらモテるのは当然か。


「はっ? セレナさんの好きな人⋯⋯だと⋯⋯」

「セレナさんはあんな優男がいいのか」

「今日の授業は臨時講師との手合わせにしてくれないかなあ。俺の必殺技であいつを亡き者に⋯⋯」


 何やら男達が物騒なことを口走っているぞ。俺は何を思われても気にしないがセレナの学生生活を乱さないためにも誤解を解いておいた方が良いだろう。


「みんな⋯⋯俺とセレナの関係を気にしているようだが⋯⋯セレナは俺の娘だ」


 俺が真相を伝えると男達はまるで先程の発言はなかったかのように態度を豹変してくる。


「ええーっ! すごく若くない!?」

「よく見るととてもカッコいい人だな」

「理事長先生と同じパーティーを組んでいたから強そうですね」

「僕! セレナさんと仲良くさせて頂いているキーンです。これからよろしくお願いしますお父さん」


 誰がお父さんだ! セレナの親だとわかるとこれか⋯⋯。だが生徒達のペースに乗せられてしまうと授業がいつまで経っても進まないので俺は反論をしない。


「けど確かセレナちゃんは以前お父さんと血は繋がってないって言ってたような⋯⋯だったら結婚はできるね」

「な、な、何を言ってるのですがレンは! わ、私とパパが結婚なんて⋯⋯」


 セレナは両手で頬を抑え、先程より顔を赤くする。

 その様子を見て男子生徒達がまたヒートアップして俺の方を睨んでくる。


「その調子乗っている顔をボコボコにしてやる!」

「例えどんなに強大な力を持っていようと俺とセレナさんの愛があれば」

「ついにあの命を削る技を出すときがきたか」


 何なんだここの生徒は⋯⋯ゴードンが指導してほしいと言っていたのはこの色恋沙汰に夢中になっている生徒達の精神を叩き直してくれということなのか? それなら望む所だ。


 そんな中、授業が始まらない苛立ちからなのか金髪の生徒が手を上げ意見を述べる。


「おいおい、たかが臨時講師1人に浮かれすぎなんじゃねえ? それより臨時講師の手本となる授業を初めて下さいよ。スミスせんせ」


 少しきつい言い方だが確かにこの生徒の言うとおりだ。時間は有限⋯⋯早く授業を始めた方がいいだろう。


 それにしても担当の講師の方はどこにいるんだ? あの金髪の生徒が言うにはスミス先生という方らしいが⋯⋯。


「は、はい⋯⋯それではまずはウォーミングアップをするので帝都の北門まで走って下さい」


 存在感を消していたのか生徒の中にメガネをかけた人物が紛れ混んでいる。


 この方がスミス先生か。立ち位置の場所が後ろの方だったので生徒かと思ったぞ。


「ちっ! またお得意の基礎練習か。臨時講師が来ているんだから少しは良いとこ見せようと思わないわけ?」

「パルズくん⋯⋯」

「パルズくんだあ? パルズ様だろうが! 俺は公爵家の者だぞ!」

「す、すみませんパルズ様。で、ですが基礎練習は大切です。そ、それにしっかりと準備体操をしなければケガを⋯⋯」

「うっせえ黙れ! 俺に命令していいのは皇族の⋯⋯ラフィーニ様だけだ。とりあえず北門まで行ってやるから説教すんじゃねえ」


 そう言ってパルズが学校の外へと走るとそれに次いで生徒達も続いていくのであった。

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