第28話 旧友

 理事長室に入った瞬間、上段から振り下ろされた剣を何とか自分の剣で受け止める。


「くっ!」


 警戒していなければまともに食らっていたぞ。誰がこんなことを⋯⋯。


「よくもパーティーをめちゃくちゃにしておきながらここに顔を出せたな!」


 パーティーをめちゃくちゃ? 俺の知っている奴か!


 俺は突然襲ってきた暴漢者の剣を受け止めながら顔に視線を向ける。

 するとそこにはその言葉を吐く権利がある人物がいた。


「ゴードン!」


 かつて同じパーティーを組んでいたタンク役のゴードンだ。タルホ村が破壊され、娘達を引き取るためにパーティーを抜けた俺に対してゴードンはそのセリフを言う資格はある。


 だが娘達の成長を見守るためにもこのまま死んでやるつもりはない!


 俺は受け止めた剣を力技で払いのけ追撃の一撃を放とうとするが⋯⋯。


「パパに何をするの!」


 後方へと下がったゴードンに対して追撃を行ったのはセレナだった。


「げふっ!」


 セレナの蹴りを胸にまともに食らったゴードンは部屋の角にある本棚まで吹き飛び激突する。

 するとその衝撃で床に倒れたゴードンの上に本棚の本が落ちてきた。


「な、中々やるじゃないか⋯⋯ガクッ⋯⋯」


 そしてゴードンは本の中に埋もれ、最後の言葉を残して気絶する。


「じゃない! 久しぶりだなユクト!」


 意識を失ったかのように思われたゴードンは立ち上がり、右手で俺に握手を求めてきた。


「あ、ああ⋯⋯14年ぶりか」


 俺はゴードンの手を握るが、さっき言われた言葉を思い出したためしっかりと握手をすることができない。

 よくもパーティーをめちゃくちゃにしておきながらここに顔を出せたな! か。俺自身はあの時の決断は間違っていたと全く思っていないが、リリーやゴードンにとっては違う。突然パーティーを解散して俺を恨んでいないわけがない。俺はこの握手もどんな意味が込められているか計り知ることができなかった。


「ユクト⋯⋯確かにパーティーを解散した時はお前を恨んださ」


 ゴードンは戸惑っている俺に対して語り始める。


 そうだよな⋯⋯これからって時にパーティーを抜けたんだ。俺は何を言われてもゴードンの言葉を受け止める決意をする。


「だがな⋯⋯騎士養成学校の理事長をやったり30前になると子供の大切さに気づくんだ」

「えっ?」


 俺は攻める言葉ではなかったことに驚き、声を上げてしまう。


「子供は国の宝だ。凝り固まった大人達と違って自由な発想で時代を作っていく。かつて俺とリリーが冒険者ギルドの体制をぶち壊したようにな」


 そう言ってゴードンはニカッと笑顔を向けてくる。


「それにユクトはセレナくんという立派な子を育てたんだ。俺もリリーも文句は言えないさ」

「ゴードン⋯⋯」


 俺はゴードンの言葉に救われ改めて握手を組み合わす。


「昔パーティーを組んだ仲間なんだ。これからもよろしくなユクト」

「ああ⋯⋯こちらこそよろしく頼む」


 この14年間胸の中につっかえていた案件の1つを取り除くことができた。これもゴードンやリリーが広い心で俺を受け入れてくれたお陰だ。


「それはそうと今日の夜は空いているか?」

「特に用事はないが⋯⋯」

「再会を祝して飲みに行かないか? 帝都は良い店がいっぱいあるからな。げへへ⋯⋯」


 ゴードンは先程までの真面目な顔とは打って変わって、下衆な笑みを浮かべてくる。


「リリーから聞いたがお前はまだ結婚してないんだろ? だったら今のうち遊びに行こうぜ」


 俺はゴードンの言葉と笑みで大人の店であることを理解した。こいつは学校の理事長室の中でしかも学生であるセレナがいる前で何を話しているんだ。


 俺は断りの言葉を口にしようとしたその時。


「理事長先生? パパに変なことを言わないで下さい。それに先程は急に斬りつけてきて⋯⋯次は蹴りではなくこの剣が理事長先生に向かいますから」


 殺気を全く隠さないセレナが剣をゴードンの首に当てお願いを⋯⋯いや脅迫をしていた。


「い、嫌だな⋯⋯冗談に決まってるじゃないか。この俺が神聖な学舎で下世話な話をすると思うか?」

「思うな」

「思います」


 ゴードンの問いかけに俺とセレナは即答する。


「2人ともひどくないか? 仮にも俺は騎士養成学校の理事長だぞ」

「ゴードンだからな」

「理事長先生ですから」


 俺はまたもやセレナと息ぴったりに言葉を返す。


「お、お前ら⋯⋯そういう所は似ているな」


 立場は人を作るという言葉があるがどうやらゴードンにはそれが当てはまらないらしい。


「それにしてもゴードンとセレナは親しい感じがするな」


 とても学校のトップと一学生の間がらには見えない。


「そうなんだよ。実は俺達付き合っていて⋯⋯お父さん! 娘さんを僕に下さい!」

「誰がお父さんだ!」

「誰が付き合っているのですか!」


 血迷ったことは口走るゴードンの顔面に俺とセレナの拳が放たれる。


「ぐはっ!」


 ゴードンは再度部屋の端にある本棚まで吹き飛ばされ、地面にひれ伏す。


「次はありませんって私言いましたよね?」

「セレナの手を汚すまでもない。俺が始末するから安心しろ」


 例え冗談であっても許されないことがあるということを思いしれ。


「か、軽いジョークじゃないか⋯⋯本気にするなよ」

「笑えないんだよゴードンのジョークは」


 以前から女性好きであったが14年経っても全く変わってないな。だがセレナと付き合っていると言われた時は腹が立ったが、俺の知っているゴードンのままで何だか嬉しい気持ちにもなった。


「理事長先生は私の剣の相手をしてくれているのです」

「恥ずかしながらこの学校でセレナくんと対等に戦えるのは俺しかいないからな。空いている時間だけで申し訳ないが⋯⋯」


 今の言葉から考えるとセレナはS級冒険者のゴードンと同じくらいの実力があるというわけか。


「いえ、お忙しい中指導して頂きこちらこそ申し訳ないです」


 パーティーでタンク役だったゴードンの防御は硬い。セレナもその硬い護りを打ち破ることは勉強になるだろう。


「そうだ! ユクトこの後時間あるか?」

「何ですか? また如何わしい店ですか? 次は本当に剣を抜きますからね」


 ゴードンが先程と同じようなセリフを言葉にして剣を抜いたセレナに脅されている。


「違う違う! もしユクトに時間があったらうちの学生達を指導して貰おうかと思ってだなあ」

「それはとても素敵なことだと思います!」


 ゴードンは突拍子もないことを言ってきてセレナが間髪いれず賛成をする。


「いやいや、俺は元Cランクの冒険者だぞ? 学生の指導なんて無理だ」

「さっき俺の剣を受け止めただろ? ユクトなら十分行けると思うぞ。それとあの時の冒険者ランクは年功序列の制度だったからユクトはC級だったんだ。気にしなくてもいいぞ」

「俺は気にする。だから今回の話は⋯⋯」


 断る。それ以外俺の中に選択肢はなかった。


 だが⋯⋯。


「パパ⋯⋯私はパパが⋯⋯その⋯⋯指導してくれたら嬉しいです」


 あまりわがままを言わないセレナがお願いをしてきた。

 娘達とは2年も離れていたんだ。娘達だけで大変なこともあっただろう。それなら少しくらいお願いを聞いて上げるのが父親というものだ。


「わかった。セレナのお願いなら断ることはできないな」

「やったあ!」


 セレナは俺が学生達の指導を受けたことが嬉しかったのかその場に跳び跳ねる。


「それじゃあ頼むぞ」


 こうして俺はかつてのパーティーであるゴードンと再会し、ひょんなことから騎士養成学校の学生達の指導を引き受けることになった。


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