第6話 父親は遅れて登場する

 あまりに突然の出来事であったため、一瞬この場に静寂が訪れる。


「て、てめえ誰だ!」


 だがそんな中、多少の修羅場を潜ったことのある兄貴と呼ばれた人物が声を出し、突如現れた男に問いかける。


「この子達の父親だが」

「「「パパ!」」」


 三姉妹はその背中、その声を見て聞いて先ほどまで感じていた恐怖が吹き飛び歓喜の声を上げるのであった。



 俺は部屋に突入すると同時に部屋の中の状況を確認する。


 娘達に怪我は⋯⋯ない。だがテニばあさんやテラじいさんは男達にやられたのか気絶しているが命に別状はなさそうだ。それより床に倒れている少女の容態の方が深刻だ。


「三人共大丈夫か?」

「はい」

「パパが来てくれたから怖いのがどこかに飛んで行ったよ」

「パパァ⋯⋯怖かったよ⋯⋯」


 セレナは気丈に振る舞い、ミリアは笑顔をみせ、トアは安心したのか涙を流している。


「私達は大丈夫ですがテラおじいさんとテニおばあさんがこの人達にぶたれて⋯⋯」


 やはり2人を気絶させたのはこいつらか。それにここに来る途中森が一部燃えていたがそれもこいつらの仕業だろう。


「怪我をしているその少女も助ければいいのか?」

「はい! その方も助けて下さい」

「わかった。すぐに終わらせるからもう少しそこでじっとしててくれ」


 セレナから状況を聞き出し、改めて男達4人⋯⋯いや1人蹴り倒したから3人と対峙する。


「いきなり現れて俺の手下を蹴り飛ばすとは良い度胸じゃねえか。多少腕に覚えがあるようだが調子に乗りすぎたな。お前ら! やっちまえ!」

「「へい!」」


 リーダーらしき奴が命令すると2人の男が剣を片手に襲いかかってくる。


 バカな奴らだ。

 俺は向かってくる2人を見て思わず嘲笑してしまう。


「何笑ってやがる! 死ね!」

「食らえ!」


 1人の男は上段から、もう1人の男は中段から剣をなぎ払ってくる。


 だが。


「おわっ! 天井が邪魔で!」

「柱が邪魔で剣が振るえねえ!」


 さして広くない部屋で剣を使えば男達のように上手く扱うことができないに決まってる。

 暴漢共に言うことではないが戦いでは常に地形を把握し自分に有利に、相手に不利な状況を作ることが鉄則だ。もう少し頭の鍛練をし直してきた方が良いんじゃないか。

 そして俺は剣が使えず隙だらけになった2人の顎を目掛けて拳を振り抜く。すると2人は宙に浮かび上がり部屋の入口にあるドアの所まで吹き飛ぶのであった。


「てめえやりやがったな!」


 リーダー格の男が仲間達がやられる様を見て怒りの声を上げるがすぐに深呼吸をして冷静になる。


「お前ただ者ではないな」

「いや大したことはないぞ。ただの元Cランク冒険者だ」

「Cランク⋯⋯だと⋯⋯俺達はBランクだぞ!」


 なるほど⋯⋯もしかしたらこいつらは盗賊か何かと思っていたがどうやら違うらしい。冒険者ということは誰かに雇われたということか。

 だがこの辺境にあるブルク村を襲ってどうする? 金目の物はないしメリットが少なすぎる。強いて言うなら憲兵がいる街まで距離があるため、強奪を働いても捕まりにくいだけだ。

 もしくは⋯⋯この倒れている少女の命が目的の場合だ。しかし考えても結論が出るわけではないので後回しにする。今はそんな些細なことより娘達を襲おうとした不届き者の処分が先だ。


「Cランクごときに負けてたまるか!」


 リーダー格の男は腰に差した短剣を左手に持ち、刃先をこちらに向けてきた。

 確かにこの男が言うように冒険者ランクでは俺が負けている。だが俺はいつか娘達の村を滅ぼした銀の竜を倒すためこの9年今まで以上に鍛練をしてきた。

 それがこのような暴漢ごときに負けていては話にならない。


「食らいやがれ!」


 リーダー格の男は短剣を持った左手を振り上げる。しかし俺とリーダー格の男までの距離は4メートルほどあるが⋯⋯まさか!

 俺は急ぎ窓際にいる娘達の前へと移動すると予想通り短剣が飛んできたので右手の人差し指と中指で受け止める。


 こいつ俺ではなく娘達を狙うとは⋯⋯許せん!


 そしてリーダー格の男は俺が娘達を守っている間にドアを開けて家の外へと駆け出していく。


「外には6人の手下がいるんだ! 今まともに1対1で戦う必要はねえ」


 リーダー格の男は正論の言葉を吐きこの場から逃げだした。


「「「パパ!」」」


 敵がいなくなったことで娘達が一斉に抱きついて来たので俺は優しく受け止める。


「パパァ⋯⋯」


 気丈に振る舞っていたセレナだが、安心したのか目元に光ものが見えた。


「ボ、ボクはきっとパパが助けてくれるって信じてたよ」


 言葉の内容とは裏腹にミリアの声は少し震えていた。


「怖かった⋯⋯怖かったよぉ⋯⋯」


 トアは泣きじゃくりながら俺の胸に顔を埋めている。


「三人共無事で良かった⋯⋯だけどもう少しだけ我慢できるかい?」


 三人は不安な表情をしているが俺の言葉にしっかりと頷いてくれる。


「良い娘だ⋯⋯パパはこれから悪い奴ら懲らしめてくるからここで待っててくれ」


 娘達に恐怖を与えたを逃がすわけにはいかない!


「わかりました」

「パパが言うならボクはもう少しだけ我慢するよ」

「怖いけどお姉ちゃん達がいるから頑張る」


 名残惜しいが抱きついている娘達引き離し、、外に逃げたリーダー格の男を追うのであった。



 外に出るとリーダー格の男はすぐに見つかった。

 何故ならリーダー格の男は家の前に呆然と立ち尽くしていたからだ。


「な、何でこんなことになっている⋯⋯」


 リーダー格の男は地面に視線を向け、嘆きの言葉を呟いていた。


 なぜなら地面には⋯⋯リーダー格の男の手下と思われる奴らが6人転がっているからだ。


「まさかお前の仲間が他に!?」


 リーダー格の男は見当違いの言葉を吐き、辺りを見渡しているがこの場には俺の他には誰もおらず、こちらを恐れながら後ろへ後退去っている。


「へっ⋯⋯へへ⋯⋯ど、どこだ!? どこにお前の仲間がいやがる!?」


 リーダー格の男は仲間がいないことをどうしても認めたくないのか、声をあげ妄想の敵を探し始める。


「仲間などいない。安心しろ⋯⋯気絶しているだけだ」


 そう⋯⋯俺は黒い煙を見て自宅に戻ってきた時、突然地面に寝ている6人が襲いかかってきたから意識を狩り取らせてもらった。


「バカな! こいつらもBランク冒険者だぞ! 1人で倒すなどAランク以上の実力がなければ⋯⋯」


 こいつらがB級? 俺が冒険者をしていた時ならEランクくらいの実力だぞ。

 だが今はそんなことはどうでもいい。娘達に危害を加えようとしたこいつを俺は許すわけにはいかない。

 俺はリーダー格の男に向かって接近すると奴は思わぬ行動に出る。


「すまなかった!」


 リーダー格の男は膝を地面に着き、地面に頭を擦り付けて謝罪をしてきた。

 頼みの手下がやられたことによって俺には勝てないと判断したのか。


「貴様⋯⋯いやあなたの娘達に手を出すつもりはなかったんだ」


 娘達やテニおばあさん達があくまで偶然居合わせたから危害を加えようとしただけだというつもりなのか?


「もうこの村には手は出さない! だから許してくれ」


 本来なら娘達を恐怖に陥れたこいつらを斬り捨ててやりたい。だが娘達に死体を見せるわけにもいかないのが実情だ。


 俺は握った右手に魔力を込めリーダー格の男に近づく。


「なあ頼むよ!」


 懇願しているように見えるが、顔はニヤニヤと笑っているしとても許してもらおうと思っている顔ではないな。やはりこいつは何かをするつもりだな。


 そして俺がリーダー格の男まで後2メートルほどの距離になると。


「死ねえ! 炎槍魔法フレイムランス!」


 リーダー格の男は初級の魔法を唱えると右手に炎の槍が現れ、俺の心臓目掛けて突き刺してくる。


氷盾魔法アイスシールド


 だが俺は予め右手に込めていた魔力を解き放ち氷の盾を形成することで炎の槍を受け止める。


「なっ!」


 リーダー格の男は不意打ちが防がれると思っていなかったのか、驚きの声を上げた。


「て、てめえ! 何故防ぐことができた!?」

「盗賊や山賊がよく使う手だからな。降参する振りをして攻撃するのは。けど今後はBランク冒険者も使うと頭に記憶しておこう」

「く、くそぅ!」


 そしてリーダー格の男は今度こそ諦めたのか両手を上に上げて降参のポーズをする。


「わかった⋯⋯今度こそ何もしねえ。謝罪の証として金貨100枚支払う」


 金貨100枚だと?

 金貨1枚あれば4人家族の一般家庭が1年間は余裕に暮らしていけるお金だ。


「お前にそんな額が払えるようには見えないが」

「これから金が入るんだよ。小娘はあの傷だ⋯⋯時期に死ぬだろ。そうすれば金貨200枚手に入ることになっているんだ」


 なるほど。このBランク冒険者達は誰かにあの女の子を殺す依頼を受けてブルク村に来たのか。

 不謹慎だが娘達が狙いじゃないことに少し安堵した。


「あんたに取っても悪い話じゃないはずだ」

「金貨100枚は魅力的だ」

「だろ?」


 俺の言葉にリーダー格の男はニヤリと笑う。


「だが! そのような条件を飲むわけにはいかない!」

「わ、わかった! 金貨150枚やろう! それでどうだ?」


 金額の問題じゃない。娘達に危害を加えようとしたこともそうだが、あの女の子を殺そうとするこいつらはどうか考えても悪人だろう。


 それに⋯⋯。


 この時俺の背後に1つの気配を感じるのであった。

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