第5話 突然の襲撃

「おい! ここに金髪の少女が来てないか!」


 男の内の1人が乱暴な言いぐさでこの部屋にいる全員に問いかけてくる。


 この時テニばあさんは咄嗟にベットで横になっている少女に布団を被せ、テラじいさんは三姉妹を守ろうと前に立つ。


「見ての通り、この部屋にいるのはわしらだけじゃ。お前さん方が言う年齢の少女などこの村におらんぞ。なんせここは辺境の村じゃから若い者が少なくてのう」


 テラじいさんは年の功か突然の出来事でも平静を保ち、男達に答える。


「本当だろうなあ? もし嘘をついているようなら⋯⋯」


 そう言って話しかけてきた男が腰に差した剣を抜き、近くにあった木の椅子を斬り裂く。


「セ、セレナお姉ちゃん⋯⋯ミリアお姉ちゃん怖いよぅ」

「ト、トア⋯⋯怖かったらお姉ちゃんの手を掴んで」

「大丈夫⋯⋯テラおじいさん達もいるし、私もついてますから」


 セレナは泣きそうなトアと不安そうなミリアを守るように抱きしめる。

 本当はセレナも突然現れた男達に恐怖を感じていたが、長女としての矜持で勇気を持つことができた。


「本当に来てないんだな!」

「うむ⋯⋯この家にはおらんぞ」

「ちっ! 別の所を探すぞ!」


 男の問いにテラじいさんが答えると3人は苛立ちながら家の外へと向かっていく。

 その様子を見て三姉妹やテラじいさん達はほっとするが⋯⋯。


「兄貴! この家の前に血の痕がありましたぜ!」


 さらに別の男が家に乱入して来て、少女が腹部から流した血のことを指摘される。


「ほう⋯⋯おいじじい! さっきは少女のことを知らないって言ったよな?」


 兄貴と呼ばれた人物が鋭い目付きでテラじいさんのことを睨み少女のことを問い詰めてくる。


「そ、それはじゃの⋯⋯」


 血のことが見つかってしまい、テラじいさんは何て答えればいいのか戸惑う。


「なら仕方ない⋯⋯そっちのガキ共に聞いてみるか。お前らそいつらを捕まえな」

「「「へい」」」


 兄貴と呼ばれた奴の命令で男達の魔の手が三姉妹に迫る。


「くっ!」

「セレナ姉⋯⋯」

「パパぁ⋯⋯助けて⋯⋯」


 三姉妹は密閉された部屋にいるため逃げることができず⋯⋯いや逃げることができる場所にいても男達に対する恐怖で足が動かない。

 だがそんな三姉妹を庇うように前に立つ者がいた。


 それはテラじいさんだ。


「子供達には指一本触れさせんぞ!」


 テラじいさんの子供達を守りたいと思う威圧は凄まじく、普通の人であったら後退るほどであった。


「うるせえじじい! どきやがれ!」


 しかし男達もそれなりの修羅場を潜っているのかテラじいさんの威圧は通じず、テラじいさんは鞘に入った剣で顔を殴られてしまう。


「ぐあっ!」


 男に鞘で殴られたテラじいさんは部屋の壁まで吹き飛び、意識を失って倒れる。


「おじいさん!」

「テラおじいさん!」


 そのテラじいさんの様子を見てテニばあさんとセレナから悲痛の声が放たれた。

 こうしてテラじいさんを排除された後、今度はテニばあさんが三姉妹の前に立つが⋯⋯だがこのままではテニばあさんもテラじいさんと同じ様に殴られるのは誰の目にも明白であった。


「一層のこと殺っちまうか⋯⋯そうすれば口も軽くなるだろう」


 兄貴と呼ばれた人物が鞘から剣を抜き、テニばあさんへと向ける。


「や⋯⋯やめ⋯⋯」


 セレナはやめさせようと喋ろうとするが剣が視界に入り、恐ろしくて声を出すことができない。

 そしてミリアとトアも恐怖で、互いに身を寄せあい震えていた。


 兄貴と呼ばれた人物がテニばあさんの前に立ち剣を振り上げる。

 三姉妹はテニばあさんが殺されると思い目を閉じるがその剣は振り下ろされる前に止まった。なぜなら男達の目に1人の人物が視界に入ったからだ。


「そ⋯⋯そこまで⋯⋯よ。あな⋯⋯た達の⋯⋯狙いは⋯⋯私の⋯⋯はず」


 ベットの布団の中に隠れていた少女が、右手で腹部を抑えながらゆっくりと立ち上がる。


「やはりここにいたのか⋯⋯魔法で土手っ腹を刺されたまま死んでりゃあこの村の奴らも地獄に落ちずに済んだのによぉ」


 兄貴と呼ばれた人物は狂気の目でテニばあさんや三姉妹を見渡し、右手に持っている剣を舌で舐めまわす。


「ほか⋯⋯のひとたちは⋯⋯かんけ⋯⋯いない⋯⋯わ⋯⋯」


 少女は悲痛の表情で三姉妹やテニばあさん達に手を出さないよう男達に訴える。


「しょうがねえな。そっちのガキ共の命は助けてやろう。だがそのじじいとばばあはお前がここにはいねえと嘘をついたから始末する」


 兄貴と呼ばれた人物の言葉を聞いてテニばあさんは悲観するが、すぐに立ち直る。なぜなら三姉妹は助かるとわかったからだ。だがその安堵も一瞬で絶望へと変わる。


「このガキ共は容姿は悪くねえから奴隷として高く売れそうだ。殺すなんてもったいねえことできるか」

「あ⋯⋯あなた⋯⋯たちは⋯⋯」


 男達の最悪な考えを聞いて少女は絶望感を味わいその場に倒れてしまう。

 そして少女が倒れたことで男達が目を奪われている隙に、テニばあさんは床に落ちていた箒を取り、兄貴と呼ばれた人物の頭に目掛けて打ち降ろす。テニばあさんは三姉妹達が助かるならここで殺されてもいいと思った。しかしこのままでは奴隷にされてしまうと知り、自分が犠牲になってでも三姉妹を逃がす決意をする。


「あめえんだよばばあ!」


 しかしテニばあさんの命をかけた一撃は兄貴と呼ばれた人物の左手で受け止められ、逆に右手の拳がテニばあさんを襲う。


「がっ!」


 テニばあさんは兄貴と呼ばれた人物の拳をまともに顔面に受け、テラじいさんがいる場所まで吹き飛ばされる。


「テニおばあさん!」

「テニばあ!」

「テニおばあちゃん!」


 三姉妹は悲痛の叫びを上げるが、テラばあさんは気を失っているため、その声が届くことはなかった。


 テラじいさんが倒れ、助けた少女も地面に横たわり、テラばあさんも今の一撃で意識を失ったため、ここにはもう三姉妹を守る者はいない。


「おい! お前ら! このガキ共を縄に縛りつけろ!」


 三人の男達は兄貴と呼ばれた人物に命令され、三姉妹の元へ近づく。


「ち、近寄らないで!」

「セレナ姉⋯⋯トア⋯⋯」

「いやだ⋯⋯嫌だよう⋯⋯」


 セレナは大声を出すことで恐怖を打ち払おうと虚勢を張り、ミリアはセレナとトア抱きしめ、トアは涙を流して震えている。


「へへ⋯⋯兄貴の言うとおりこいつらは年を重ねれば綺麗な女に育ちそうだな」

「奴隷商人に買われる前に少し味見をするか」

「おいおい。お前幼女もいける口かよ。まあそれだけこいつらの容姿が整っているのはわかるけどよぉ」


 男達はゲスな笑みを浮かべながら三姉妹に迫る。三姉妹は恐怖で立つことが出来ず、這いずり周りながら逃げていくが、とうとう部屋の壁まで追いつめられてしまい絶体絶命に陥る。


 そして1人の男が三姉妹を捕まえようと手を伸ばした時、三姉妹は同じ言葉を叫ぶのであった。


「「「パパァ! 助けて!」」」


 三姉妹が1番信じている者⋯⋯どんなにピンチでもどんなに絶望にうちひしがれている時でも変わらない。それは三姉妹にとって強くて優しくて最高に大好きな父親であるユクトだ。


 その三姉妹の叫ぶ姿を見て男は肩を震わせている。


「パパ? 村人の1人や2人来た所で俺達を倒せると思ってるのか⋯⋯笑わせるんじゃねえ!」


 男の魔の手が三姉妹に迫る。

 1メートル⋯⋯50センチ⋯⋯10センチ。男の手が三姉妹に届きそうになったその時。


「ガシャンッ!」


 突如1人の男が三姉妹の背後にあった窓ガラスを蹴り破り、そのまま手を伸ばしていた悪漢を蹴り飛ばすのであった。


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