第4話 不穏な空気
時は戻り昼食後のブルク村にて
「テニおばあさんお昼とパンケーキ美味しかったです」
「うん。美味しかったね」
「私おばあちゃんのパンケーキ好き~」
セレナとミリアとトアの3人は、昼食を作ってくれたテニばあさんに笑顔でお礼を言う。
「おやおや嬉しいねえ。またお父さんがいない時作って上げるからね」
テニばあさんも3人の笑顔を見て自然と笑みがこぼれてくる。
「食器のお片付けは私がやるから~」
トアが率先して昼食の片付けに手を上げる。
「では私はテニおばあさんの肩をもみましょう」
「じゃあボクはテラじいの肩を揉むね。テラじいも遊んでくれてありがと」
セレナとミリアの提案にテニばあさんは嬉しそうに、テラじいさんは迷惑そうな顔をする。
「それじゃあお願いしようかね」
「ふ、ふん! わしは肩を揉んでもらわなくていいが⋯⋯」
「だったらおじいさんにはやらなくて⋯⋯」
「う、嘘じゃ! やってくれ! ミリアちゃんにじいは肩を揉んでほしいぞ」
曖昧な態度を取るテラじいさんにテニばあさんが肩を揉まなくていいと言葉にすると、慌てて自分の意見を取り下げるテラじいさんであった。
そしてテラじいさんはミリアに肩を揉まれ、幸せそうな表情をしてそのまま眠りについてしまった。
「テラじいは寝ちゃったかな?」
「私も食器の片付けが終わったから今度は外で遊ぼうか」
「そうですね」
3人は今度は外で遊ぼうと話し合い意見が一致する。
「テニおばあさんはそのままゆっくりしていて下さい」
セレナに肩を揉まれていたテニばあさんは目を閉じたり開けたりしてどこか眠そうだった。
「ん⋯⋯だけど遠くに行くと魔物がいるから⋯⋯」
テニばあさんは眠い目をこすりながら、何とか子供達に危険があることを言葉にする。
「家の前で遊ぶから~」
「大丈夫だよ」
「私が見ていますから安心して下さい」
3人は眠そうなテニばあさんに負担をかけまいと大丈夫だと口にする。その言葉を聞いてテニばあさんは、しっかり者のセレナもいるし心配ないだろうと判断し、子供達だけで遊ぶことを許可して眠りにつくのであった。
午後の日が高くなった頃、三姉妹は自宅前で何をして遊ぶか考えている。
「今度は何をして遊ぼっか? セレナ姉はやりたいことある?」
「そうですね⋯⋯鬼ごっこなんてどうでしょうか」
「鬼ごっこか⋯⋯」
セレナの提案にミリアとトアは嫌そうな表情をする。
「私⋯⋯他のことがいいな。だってセレナお姉ちゃんが鬼だとすぐに捕まっちゃうし私が鬼だと一生捕まえる自信ないよ」
トアの言葉にミリアは頷く。
3人の中ではセレナの身体能力は格段に優れているのがわかっているので2人は鬼ごっこはやりたくないと思っていた。
「そ、そうですか⋯⋯それならミリアは何をして遊びたいの?」
「う~んそうだねえ⋯⋯しりとりとかどうかな?」
今度はミリアの提案にセレナとトアが嫌そうな表情をする。
「ミリアお姉ちゃんずっと同じ文字で攻めてくるからやりたくない」
トアの言葉にセレナは頷く。
ミリアは頭の回転が早く、今まで3人でしりとりを行って負けたことがないため2人は手でバツを作る。
「それにしりとりならお家の中でできる遊びじゃないですか」
「まあセレナ姉の言うとおりだけど⋯⋯それじゃあ何をして遊ぶの」
三姉妹は仲がいいがそれぞれ得意な分野はまったく別物で、セレナは身体能力、ミリアは頭脳、トアは直感力に長けていた。
そして三姉妹の意見が食い違う時の解決方法はだいたい決まっている。
「わかりました。鬼ごっこらあきらめます」
セレナが長女としていつも自分の意見を取り下げ、妹達の願いを優先する。
「トアちゃん⋯⋯さっきはトアちゃんがやりたかったおままごとをして遊んだから次はミリアのしたいことをしましょう」
「うん⋯⋯わかった」
トアはセレナの言葉を理解し、素直に言うことをきく。
「今日はミリアお姉ちゃんに負けないからね」
「ふっふっふ⋯⋯また返り討ちにしてあげるよ」
こうして三姉妹のしりとりが始まろうとしていたが⋯⋯。
「あれ⋯⋯お姉ちゃん。森の方から誰か来るよ」
セレナとミリアはユクトが帰って来たと思い、トアが指差す100メートルほど先にある北の森に視線を向けるが誰かがいる気配がない。
だが2人はトアの言葉を信じ森の方を見ている。
なぜならセレナとミリアは目に見えなくても妹のトアは直感力がとても優れていることを知っていたからだ。
「パパ? じゃないよね」
もしパパならトアは誰か何て言わない。そうなると別の人の可能性があるとミリアは判断する。
3人は森の方をじっと見る。
10秒、20秒と時間が立つが一向に誰かが来るような気配はない。
「誰もいないわね」
セレナがそう呟いた時、トアが森へと近づいていく。
「トアちゃん危ないわよ!」
しかしトアはセレナの声が聞こえてないのか、森の方へと小走りで向かい、その様子を見てセレナとミリアも後に続く。
「危ないから森には近づかないようパパに言われているでしょ」
平原と比べて森は魔物達が隠れる所も多く、日頃からユクトに近寄らないように言われていた。
トアちゃんも今までパパの言うことを聞いていたはずなのに。
「セレナ姉待って! トアが向かっている先に何か⋯⋯」
ミリアが視線を向ける先には茂みがあり、そこには一本の腕が見えている。
「セレナお姉ちゃん! ミリアお姉ちゃん! 人が倒れているよ!」
三人は急ぎ茂みに近づくとそこにはうつ伏せに倒れ、右手を伸ばして前に進もうとしている少女の姿があった。
「うぅ⋯⋯うぁ⋯⋯」
少女は長い金髪の髪をしており三人より年上に見え、うめき声を上げながら伸ばした右手は、今にも地面に落ちそうになっている。なぜなら女の子の腹部からは赤いものが⋯⋯大量の血が流れていたからだ。
「お、お姉ちゃん!?」
トアは女の子のお腹から流れている血の多さに思わず、恐怖を覚え尻餅をついてしまう。
「ち、血がこんなにたくさん⋯⋯」
セレナもトアと同じ様に大量の血を見て青ざめるが、頭を左右に振って怖い気持ちを打ち消す。
わ、私は2人のお姉ちゃんなんだからしっかりしないと。このままだとこの人が死んでしまうかもしれない。だが思いとは裏腹に足は震え立っていることも難しく転びそうになってしまう。
怖い時は安心できることを⋯⋯パパのことを思い浮かべよう。
すると早くなった心臓の鼓動が段々と落ち着き、頭の中が僅かだがクリアになっていく。
「ミリア! 急いでテニおばあさんとテラおじいさんを呼んで来て! 私とトアでこの人を見ているから!」
「う、うん! わかったよ!」
いつも何事にも動じることがないミリアが焦燥感に駆られながら自宅へと走っていく。
セレナは妹達がいることによって平常心を取り戻し、的確な指示を出すことができた。
「セレナお姉ちゃん! うつ伏せだとこの人のお腹が地面に押しつけられていっぱい血が出ちゃうから仰向けにしよ」
「え、ええ」
セレナは上半身をトアは下半身を持ち仰向けになるようゆっくりと動かすと2人は少女の顔をハッキリと確認することができた。
端正で整った容姿は少女特有の可愛さと気品に満ちた美しさがあり、思わず2人は見とれてしまう。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
だがセレナとトアは少女の呼吸が段々と弱くなっていくことで我に返る。
「だめだよ! しっかりして! もう少しでテニおばあさん達がくるから!」
トアは少女の意識を保つために必死に呼び掛けた。
「トア⋯⋯」
普段どちらかと言うと大人しいトアが血を流している少女に対してテキパキと動く姿にセレナは驚きを隠せない。
「そういえばトアはお父様がケガをしたら私が治すのって言ってたわね」
トアは本を読むことが好きだから、ケガに対する治療法を家の書庫で見たことがあるのかもしれない。
何にしてもセレナにとってトアは頼もしい限りであった。
「はぁ⋯⋯⋯⋯はぁ⋯⋯⋯⋯」
だがそんなトアの働きも虚しく少女の呼吸は段々と弱くなり、終には瞼も閉じようとしていた。
「目を瞑っちゃダメだよ!」
「しっかりして下さい!」
2人は叫ぶような声で呼び掛けるが、少女の目は閉じられてしまう。
「そんな⋯⋯」
トアとセレナは少女の身体から力が抜けていく所を見ていたその時。
「セレナ姉ぇぇ! トアぁぁ!」
2人は声が聞こえて来る方に視線を向けるとミリアを先頭にテニおばあさんとテラおじいさんがこちらに走って向かってくる姿が見えた。
「ミリアお姉ちゃん!」
「ミリア!」
ミリアの手には透明な瓶が握られており、2人の元にたどり着くと急ぎ瓶の蓋を空け、無理やり少女の口を開けて飲ませる。
「回復薬だよ! 飲んで!」
ミリアが意識を失いかけた少女に手に持った薬を飲ませる。
すると腹部から出てくる血の量は減ったが傷が完全に治るまでにはいたらなかった。
「うぅ⋯⋯あぁ⋯⋯」
少女は回復薬のおかげで意識を保つことができたが、代わりに腹部の傷の痛みが再び襲ってくることになり弱々しい声を上げる。
「回復薬じゃ治らないの⋯⋯うぅ⋯⋯」
トアは少女が痛みで苦しむ様を見て思わず泣き出してしまう。
「ヒィ⋯⋯ヒィ⋯⋯年寄りにはちとミリアちゃんのスピードに着いていくのはきついぞい」
「そ、そうですね⋯⋯でも⋯⋯ケガをしている⋯⋯人が⋯⋯いるって⋯⋯えっ!?」
ミリアの後に着いてきたテラおじいさんとテニおばあさんが肩で息をしながらここまでたどり着いたが少女のケガを見て大声を上げる。
「テニばあ、テラじい。このお姉ちゃん大丈夫だよね!?」
ミリアは祈るような気持ちで2人に問いかけ、言葉とは裏腹に瀕死の少女に死が近づいていることを感じて手が震えてしまう。
「大丈夫⋯⋯ばあばに任せなさい。おじいさん急いで自宅に運びますよ」
「わ、わかった」
テニおばあさんは少女の足をテラおじいさんは少女の肩を持ち、衝撃を与えないようにテラおじいさんの家へと運ぶ。
テラおじいさんとテラおばあさんは少女を自宅のベットに降ろす。
「ばあさんこれは⋯⋯」
テラじいさんは自宅に向かっている最中に少女のことを観察していた。手触りの良い質の高い服装を着ていることから少女は貴族の可能性が高いこと。だがその服も土や埃でボロボロに汚れたり焼け焦げたりしていて、腹部は何かに刺されたような傷で回復薬を使って何とか持ち直したが、到底助かる見込みはないと思った。
「高位の司祭様に治療の魔法をかけてもらわねば⋯⋯」
テラじいさんの言葉にテニばあさんは答えることができない。答えてしまえば少女や三姉妹に助からないということを悟られてしまうからだ。
ここは辺境のブルク村⋯⋯そのような回復魔法を使える者などいるわけがなかった。
「くぁ⋯⋯くっ⋯⋯に⋯⋯げ⋯⋯」
少女は息苦しそうに目を開けて何かを呟いている。
「この方何か申しております」
セレナは少女の様子を皆に伝えるとテニおばあさんが少女の顔に近づき、耳を澄ませて言葉を聞き取ろうとする。
「に⋯⋯げ⋯⋯て⋯⋯」
逃げて?
テニおばあさんは少女の言葉を聞き嫌な予感が頭の中を過る。
薄汚れた衣服⋯⋯腹部の傷⋯⋯この少女は殺されそうになったんだ。そうすると今この村の近くに少女を殺害しようとした人物が⋯⋯。
「三人とも隣の部屋に隠れてなさい」
三姉妹は普段とは違ういつもより少し強い口調で話すテニおばあさんの言葉に驚く。
「奥の部屋にですか?」
「そのお姉さんは何て言ったの?」
「お、お姉ちゃんを助けて⋯⋯」
早く! 時間がない!
テニおばあさんは内心では焦りながらも三姉妹には悟られないよう冷静に話す。
「この子を治療するために集中したいの」
戸惑いを見せている三姉妹はテニおばあさんの言葉を信じ、奥の部屋へと移動するが、時はすでに遅かった。
ガチャッ!
突然ドアが乱暴に開けられ、3人の男達が家の中に侵入してくるのであった。
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