墓守少女は探したい

第12話

「はぁ………」


紅葉によって山々が赤く燃えるようになってきた秋の昼頃。不死身の墓守少女である永墓瑠璃は、いつものように読書をしている神秘の申し子である御園真由美の姿を見ながら、軽いため息をついた。


「………さっきから私を見てため息つくのやめてくれない?」


「いや………真由美ちゃんが可愛過ぎて、ね」


真由美はそんな事を言う瑠璃があまりにも可愛過ぎて飲もうとしていた紅茶を吹きかけた。しかし真由美は吹く前に耐えた。『身体能力』の異能による肉体操作力と『支配』の魔術による吹き出しそうになった紅茶を支配するという妙技によって、ギリギリ耐えた。真由美の内心は今日も平常運転である。


「っ、そう」


「ね、真由美ちゃん。新しい依頼とか来てたりしない?」


「いえ………いつも通り来てないわね。そもそも、来てたら私が直ぐに伝えるでしょう?」


「それはそうなんだけどさー!でももしかしたら何か来てるかもしれないじゃーん!」


「皆無だから安心して」


「むー!安心できる要素が無ーい!」


瑠璃はいつものように依頼が来ないと嘆く。そんな状態でも瑠璃を一瞥もせずに読書を続ける真由美は瑠璃の扱いに慣れていると言っても過言ではなかった。こういう時の瑠璃に対して無駄に反応すると絡み方が大変なのである。


真由美的には別にそれでも一向に構わないどころかむしろその方が良かったりするのだが、逆に自分の理性という名のキャパシティを簡単に粉砕してくるので自制しているらしい。真由美は存外ヘタレでむっつりな少女であった。


「あ。そういや、真由美ちゃんはさっきから何してるの?新手の修行?」


「見てわからない?読書よ」


右手そっちじゃなくて左手こっち!」


──真由美は先程から右手に文庫本、左手にノートパソコンをセッティングしていた。即ち、読者をしながらパソコンを扱っていたのである。どれもこれも真由美の『身体能力』の異能による並列思考力によるものである。


「あぁ、左手?今やってるのはちょっとしたバイトね。片手間に出来るからやってるのよ」


「片手間でやる事じゃない………でもあぁ、そっかぁ………給料あんまり払えてなくてごめんね………」


「別に気にしないわ。足りない分は片手間に稼げるもの。そんな事言ったら貴女だってそんなに自由に出来るお金少ないでしょうに」


「そうなんだけど………うーん………うん!ここでぐだぐだしてても依頼は来ないし、依頼探してくるね!」


「はいはい、行ってらっしゃい」


瑠璃は何をするでも無いし暇だし、何より愛する真由美ちゃんにお給料を沢山支払えていない現状がちょっとだけ嫌だったので、勢いのままに依頼を求める人を探しに外に飛び出すのだった。


これもラピスラズリ探偵事務所の日常風景である。

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