第9話
「今日は肝試しだー!」
「「「「わー!!」」」」
今日は肝試しの日だった。
「………まさか、こんだけ来るなんてなぁ………」
瑠璃は侮っていたのだ。自分の評判というものを。
瑠璃はまず白髪美少女である。それは誰の目から見てもそうだった。容姿の良さは信頼関係の築きやすさに直結する、とまではいかないが、普通の人間は容姿の良い存在をあまり不信には思わない傾向にあるだろう。良過ぎたら良過ぎたらで警戒されるかもしれないが。
次に、瑠璃は常日頃から挨拶を忘れない少女であった。何より常に元気いっぱいな少女であった。探偵の仕事で街中を駆け回り、その間も常に元気いっぱいで挨拶バッチリな女の子の評判が悪い訳が無いのである。
そういう事で、瑠璃の評判は割と高かった。
「でもこれは予想外」
今回の肝試しで集まった小学生の人数は計38人。そして何故か集まった近所のお爺さんからお姉さんまで、計30名のスタッフ。
何故かは分からないが、ちょっとした地域のイベントになっていた。
「瑠璃」
「あ、真由美ちゃん」
「とりあえず肝試しのルートに人員は配置済みよ」
「うん、うん………ありがと」
そして勿論、主催であるラピスラズリ探偵事務所から2名。瑠璃と真由美も主催者として参加する事になっていた。
「でも、こんなに大きなイベントになるなんて予想外だったなぁ」
「それだけ貴女の評判が良いって事でしょ」
「私そんなのしてないんだけどなぁ………」
「思って作り出すものでもないでしょうに」
そうして瑠璃と真由美が会話していると、瑠璃がイベントスタッフのお兄さんに呼ばれる。何だろうと瑠璃が頭上に疑問符を浮かべていると、そのお兄さんに手渡されたのはマイク。
「え………」
「肝試し開催の合図をお願いします!」
「え………?」
瑠璃は困惑していた。当たり前だ。自分の預かり知らぬ所で殆どが進んでいたイベントである。というかそういう人員の管理とか、マジで面倒くさくて全部真由美にぶん投げてたのだ。
瑠璃が視線を感じて動かすと、そこに居たのは小学生38人の群れ。ついでにスタッフ達。その視線は全部瑠璃に向けられており、どう考えてもこの空気で開催の合図をしない方向に持っていけそうになかった。
瑠璃は気が付いた。あこれ、真由美ちゃんにやり返されてる、と。仕事を回した事を根に持たれてるなと。そしてそれは事実だった。仕事を沢山回された仕返しに、瑠璃の困るような状況を作り出していたのはズバリ真由美だった。
真由美は瑠璃の困惑顔を見たかったのだ。だって瑠璃ちゃんの困惑顔とかあんまり見られないレア表情だし。何より困惑顔の瑠璃ちゃんは可愛いので。真由美は割と良い性格をしていた。
『えー………っと。もう電源付いてる、よね………あー。うん。後ろの子には聞こえてるー?』
「聞こえてる!」
『ならヨシ。じゃあ………そうだなぁ。あそうだ、ここ一応墓地の近くだから、はしゃぎ過ぎないようにね?眠ってる人達が起きちゃうから。それに騒音になっちゃうから………まぁとりあえず、気を付けてね!』
湧き上がる歓声………とまではいかないが、小学生達はとても嬉しそうにしているので及第点だろうと瑠璃は思った。すると真由美がマイクを瑠璃に寄越せと催促しているので素直に手渡すと、今度は真由美が話し始める。
『まずは二人組を作ってください。そしてその後、開始地点にいるお兄さんとお姉さんから懐中電灯を受け取って、道順に沿って進んでください。そして、1番奥に居るお姉さんから飴玉を受け取ったら、帰り道の道順に沿って帰ってくる事。開始時刻は8時からです。いいですね?』
「「「「はーい!」」」」
真由美の説明を聞いた子供達は非常に楽しそうにはしゃぎ始めた。真由美はマイクをスタッフのお兄さんに渡すと、そのまま設営されたテントの中に戻っていく。
「真由美ちゃーん?お化け役はー?」
「後で走って追いつくわ」
「森の中を駆ける化物に見られたくないならやめておいたほうがいいと思うけど」
「………ちょっとだけ待ってて。この紅茶飲んだら行くわ」
「了解。先行ってるねー」
「んー」
今回、瑠璃と真由美もお化け役をする事になっていた。事前準備の段階で誰がお化け役に適しているのかを調べる為にスタッフ全員がお化け役をやった所、瑠璃と真由美のお化け役がめちゃめちゃウケたからである。
真由美はその超人じみた身体能力を用いて甲冑を着込み、手には刀を持って、ただ追いかけるだけの役だ。お化けの役には落ち武者とかだろうか。しかしそれが心底恐ろしいのである。まず、真由美が用意してきた鎧は本物。まぁ刀はレプリカだが、甲冑という重装備であるのに成人男性の全力疾走に追いつく程の速度で走ってくる鎧は普通に怖いだろう。しかも顔を見られない為に能面付きなので尚更怖い。
瑠璃はその不死性を有効活用した怖がらせ方だ。そして真由美との連携技を使う事にしたらしい。まずは全裸になってから全身を包帯でぐるぐる巻きにし、全身の再生速度を通常の人間程度に落としてから、参加者の真横を目にも止まらぬ速さで走り抜けてそのままの勢いで全身を真由美に刀(レプリカ)で程々に切り刻んで貰い、そのまま全身から出血した状態で参加者を追いかけるのである。勿論全力疾走で。
まぁつまり、能面付けた鎧武者と全身血塗れのミイラみたいなのが同時に追いかけてくる、というものである。初見でこれを見せられたイベントスタッフ達は全員が腰を抜かした。が、これは素晴らしい出来だと全員が賞賛した事もあり、真由美と瑠璃は事前準備で行った驚かし方を、小学生用に走る速度をかなり抑えた上でやる事になったのである。
ちなみに2人はまぁこれくらいなら軽くやるかーって雑にやったのにスタッフ達にめっちゃ腰を抜かされたので、小学生相手の本番ではめちゃめちゃに抑えるつもりだったりする。
「とりあえず、さっさと準備しとこ」
瑠璃は手に持った懐中電灯の灯りを頼りに道順を抜け、そのまま目印を見つけたら横の森の中に入る。そこには瑠璃が事前に、というか午前中に準備しておいた木箱が二つ並んで置いてあった。
一つ目の木箱の中には沢山の包帯が入っている。これは瑠璃が着る用に用意した包帯だ。もう片方の木箱は空だが、こちらは瑠璃の服を仕舞う用の木箱である。木箱である理由だが、ビニール袋だと夜間の森の中は音が響くのだ。雰囲気ぶち壊しなのでわざわざ木箱なのである。
「さっさと脱ぐかな」
他のお化け役の人達とは配置場所が離れているので、瑠璃は屋外でも安慮なく脱ぐ。ちなみにわざわざ下着まで全部脱いでから包帯を全身に巻き付ける理由だが、そうしないと下着ごと真由美に切られるからである。そういう理由さえ無ければ普通に服を着ているだろう。
そうして全裸になり、次は全身に包帯を巻いていく。まずは普段下着で隠している最低限の部分を隠す為の包帯を巻き付けていき、その次に下着用包帯の上から追加で包帯を巻いていく。こうすればえっちな部分を切られても露出する危険性が減るからだ。
「瑠璃、準備良いかしら?」
「おわっ、あ、真由美ちゃんか。準備はもうちょい」
「手伝う?」
「ん、必要なさげ」
いつの間にか着替え終わって準備完了な真由美が背後に立っている事に瑠璃はちょっとびっくりしたが、真由美ならそれくらいあるだろうと瑠璃は思った。
実際としては、夜目の効く真由美は瑠璃の生着替えを真っ暗な森の木陰から覗き見て、あまりの美しさとえっちさにやられてどこぞのギャグキャラのように鼻血を垂らしそうになっていたりしたのだが、瑠璃は一切気が付いていなかった。
すると、笛の音のようなのが森の中に響いた。
「合図よ。始まったみたいね」
「オッケー。それじゃ、位置に着こうか」
「いい?なるべく抑えてやるのよ」
「わかってるよー。逆に私だって気が付かれて笑われるくらいを目指すから!」
「えぇ、それくらいでいいわ。でも演技はやめないように」
「ミイラの演技くらい楽勝だよ!本物のやつ見たことあるし!」
「そんなのもあったわね………と、配置に行ってくるわ。じゃあね、また後で」
「うん!また後でー!」
そうしてしっかりと配置に着いた瑠璃と真由美だったが。
──子供達はおろか、他のスタッフ達の姿も消えてしまった事に気が付いたのは、この数分後の事である。
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