第4話
「はぁ、やっと見つけたわ、瑠璃」
ガサガサという音が聞こえ身構えた瑠璃だったが、聞こえてきた声が待っていた少女の声である事に安堵して顔を出す。首から下は手で押さえて隠しつつではあったが。
「!真由美ちゃん!流石は私の真由美ちゃん!天才!最高!愛してる!」
「はいはい、私も愛してるから早く服着て」
「はーい!」
真由美はかなり呆れつつも瑠璃に服を渡す。瑠璃の中で特にお気に入りな白ワンピと黒パーカーと白スニーカーだ。勿論、下着類もある。下着はどちらも白でちっちゃいリボンのついてるシンプルなやつだが、これもこれで瑠璃のお気に入りであった。瑠璃はそそくさと物陰に隠れて服を着て、最後に靴を履いて真由美ちゃんの前に立って決めポーズを決めておく。
「あのねぇ、私が来たから良かったものの、来てなかったら次の日の朝まで全裸だったのよ?」
瑠璃の渾身の決めポーズは無視された。その現在時刻はバリバリの真夜中。0時を過ぎた辺りの時間帯である。人の少ない住宅街だろうと、むしろ人が少ない住宅街だからこそ、真夜中で少女2人がのうのうとこんな場所居るというのは危ないのは明白だ。真由美はさっさと帰りたいのである。
ちなみに、真由美は昼頃、瑠璃が殺された辺りで瑠璃が死んだのを把握していた。がしかし、まさか服までやられてるとは思わず放置。しかし、いつも夕方辺りに事務所に帰ってくる筈の瑠璃が未だに帰ってきていない事から服をやったのかと思い立ったものの、まだ途中で読み終わっていない小説のシリーズがあったからこの時間帯まで放置していた。丁度5分前くらいに読み終わったから瑠璃を探しにきたのである。
「大丈夫!その時は死体のフリで難を逃れてたから!」
「それ、毎回言うけど逃れてないのよ。問題を先送りしてるだけなのよ。わかる?」
「でも今回も仕方ないってー。あいつ強いんだもーん。特にデメリットとか無さそうだしー」
「………はぁ、やっぱり変なのに巻き込まれてたの?」
真由美は諦めのため息を吐きながら、瑠璃の話を聞いてみる。
「私のされたい巻き込まれ方と違うんだもーん!私は探偵事務所に訳ありな依頼人が飛び込んでくるみたいなやつをやりたいのー!それでいつの間にか後にも引けなくなってしまったから真由美ちゃんと一緒に敵組織壊滅させたりとか………なんかこう、凄いおっきなスケールの謎を2人で一緒に解き明かしたりとか!そういうのがやりたいの!」
「で、死んだと」
「くそー!あの変態男ー!絶対捕まえてやっからなー!」
「はぁ………で?敵はどんなやつ?」
「んー。えっとね、多分影を操る的な超能力だと思う。異能は無し。多分ね多分。んで、少なくとも私の全壊疾走に追いつけるくらいのスピードと、人1人爆殺できるくらいの殺傷力はあるっぽい。肉体的には強そうじゃないけどねー」
「そう。他には?」
「なんかねー、女の人の身体バラバラにして売ってたよ。私の脚も売るとか言ってたし、結構やばい奴かも。あーあ、あの女の人助けられなかったなぁ………」
「女の人?」
「うん、私が偶然にも見つけられたのは、私が標的になる前に女の人が男に強姦されつつ首絞められて殺されてたからっぽくって。その時の悲鳴が聞こえてきたから」
「………つまり女の敵、って事で良いわよね」
「そう!あいつしかも、私殺した後、なんかとっとこの街から逃げるとか言いながら影の中に沈んでた!あんな超能力ずるいってー!」
「そう、なるほど」
瑠璃は文句を言いつつも、的確に情報を真由美へと受け渡す。真由美はその内容を把握し、瑠璃は覚えている限りの全てを話す。これが、この2人のいつもの基本行動であった。
偵察は瑠璃が行う。例え死んでも蘇ることのできる瑠璃は最強の偵察だ。死んでもらって口封じ、というのが出来ないからである。ただし、監禁には著しく弱い。瑠璃本人の戦闘能力や破壊力は皆無だからだ。普通に独房に入れられたらどうしようもないし、殺され続けて監禁されてもどうしようもない。瑠璃が誇れるのはその不死性のみであり、それ以外は普通の人間に過ぎないのだから。
そして、いざという時、今回のような超能力、異能、魔術、呪いなどの、世間一般では明かされることのない秘匿されている力や技術の一端が相手である場合のみ、瑠璃が所長を務める『ラピスラズリ探偵事務所』の探偵助手兼実働員である真由美の出番だ。
ちなみに実働には大抵瑠璃もついていく。まぁ真由美にとっては多少の足手纏いではあるものの、当の本人である瑠璃は不死なので仮に巻き添えにしても問題無いし、相手が切羽詰まって瑠璃を人質にしようものなら瑠璃も一緒に殺して終わりなので大抵一緒に着いていく。
瑠璃自身は毎回囮にされたり巻き込まれてたりする事に若干遺憾の意を示してはいるものの、合理的に考えたらそれが一番だし特に文句はない。
「どうかな、真由美ちゃん。あの変態男に仕返し出来そう?」
「………そうね。影を操る超能力のみだろうと、それ以外に何かあったとしても、負ける要素は見つからないわね」
「ひゅー!さっすが文武両道天才少女!超能力者で異能使い!魔術師であり呪術師な真由美ちゃん!ラピスラズリ探偵事務所の最強美少女!愛してる!結婚して!」
「うるさいから静かにしてよ………もう夜中だって分かってるわよね?」
「分かってる分かってる!」
「分かってない………」
──
真由美は超能力者だ。超自然的な現象、科学の埒外を扱う者だ。
真由美は異能使いだ。身体機能の延長に存在する特殊能力を使う者だ。
真由美は魔術師だ。神秘的エネルギーにて属性に由来する不可思議な現象を引き起こす技の使い手だ。
真由美は呪術師だ。世に満ち世界に淀み続ける呪いを扱う技術の担い手だ。
真由美は2種の神秘の保有者であり、2種の神秘的技術の使い手であり担い手である。そして更に、真由美は文武両道であった。あらゆる方向への才能に満ち溢れ、そして決して努力を怠らない人種であった。
真由美の両親はごく普通の一般人だ。それなのに真由美は二つの特殊能力と、二つの神秘的技術を扱う適性を保有していた。各々の技術形態の研究者及び学者達が声を揃えてあり得ないと論文に書いていたのにも関わらず、過去数千年の中で二つを併せ持つ存在すら居なかったというのに、真由美は四つを併せ持った。
故に、真由美は各業界から狙われた。研究材料として、苗床として、更には犯罪者にも狙われた。当時の幼く小さな真由美は死に物狂いで逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。
母親は母体として捕まり、何度も孕まされて子供全てを研究されたが真由美と同じ存在は居なかった。
父親は犯罪者に捕まり、その肉体をバラバラにされて肉体の部位をオークションで売られてしまった。
真由美はそれを後から知った。
「真由美ちゃん!今から懲らしめにいく?それとも明日?」
真由美は逃げた。ずっと逃げていた。でも。
「明日にしたら逃げられるわ。今からさっさと行って殺して終わりにしましょ」
「りょうかーい!私何すればいいかな?!」
「瑠璃は囮ね」
「先陣を切っちゃダメ?」
「ダメ」
「むー………」
しかし、真由美はこの目の前でいつものように不貞腐れている白髪の少女に救われた。目の前の少女という要素があって初めて、真由美は絶対の力を手に入れた。だからこそ真由美には今がある。
「不貞腐れてないでさっさと行くわよ。『仇探し』のお陰で場所は把握済みだから、さっさとね」
「むー………瑠璃ちゃんにカッコいいとこ見せたいんだけどなぁ………」
「っ………」
真由美は、『いつも私の為に頑張ってる姿が既にカッコかわいいってば!』と叫びそうになる自分の身体を止める。端的に言って、真由美は自分の心に素直になれないツンデレタイプの少女であるが故に。後ついでに、自分の為に一生懸命に頑張る瑠璃を何度も見られるからってのもある。
真由美は瑠璃に助けられたとある日から瑠璃に対して惚れているとか最初っから通り越して即座に愛していたし今も愛しているが、それを表に出したことが殆どない。というか瑠璃の前で出したことがない。だって知られたら恥ずかしいし、何より自分にカッコいい所を見せようと頑張る瑠璃が見れないからである。真由美は割と自分の欲望に忠実でありながら隠れ潜む少女だった。言うならばむっつりであった。
「………?どうかした、真由美ちゃん?」
「っ、いえ、何でもないわ。さっさとやることやって帰りましょう」
「よーし!囮………囮だけど、私足手纏いだからなぁ………でもカッコいいとこ見せたいし………まぁうん、とにかく頑張ろう!」
「っ、くっ」
自分の感情に素直になれない真由美ちゃんと、助手ちゃんにかっこいい所を見せたくてちょっとすれ違ってる瑠璃ちゃんの2人は、変態男の元へと向かうのだった。
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