三の二 運命の女

 しばらく日が経ち、まさるの店を取材したいと連絡があった。

「来週ですか?お客様に迷惑にならなければいいですよ」

 電話を切った後、

「取材受けちゃ嫌だ」

 みさきが珍しく声を荒げて抗議した。

「なんで?取材初めてじゃないけど?」

「今回は嫌だ」

「ちゃんと話してくれれば考えるよ?」

 みさきが黙ってしまう。

 優もしばらくみさきを見ていたが、

「理由を言わなきゃ、わからないでしょう」

 優しく言った。

「嫌だ・・・彼女と会うのは嫌だ」

 泣きながら店を出て行く。

「よくわかんないな。若い子の考えていることは、いや、特にあの子の考えていることは」


 いつもはすぐに姿が見えなくなるのだが、今日はとぼとぼ歩いて行く。

 気になった優は

「ねぇ、みさき、どうしたの?」

 追いかけて横に並んで歩きだす。

 すると

「ちょっと、ルナちゃん。何してるの!」

 女性がみさきをルナと呼んで近寄ってきた。

「風見のおばちゃん・・・」

「あなた仕事は?どうしてここにいるの?」

 みさきが見えると言うことは、この女性もあっちの世界の人か?


「ご迷惑をかけているのではありませんか?」

 女性が優に聞いてきた。

「いや、別に迷惑はかかっていないですが、状況はよくわかってないです」

 その女性は笑みを浮かべて

「あなたのお店に行きましょうか?そこでお話ししましょう」

 みさきに向かって

「あなたは帰りなさい」

 みさきはフッと目の前から消えた。


 ちょうど客がきれていたので、本日終了のプラカードをかけて入り口を閉めた。

 従業員にも今日は早上がりしてもらった。

 優が珈琲を二つ持って女性の前に行き座った。


「あの子との出会いは・・・」

 優が話し始めた時、彼女は

「叔母さまの迎えの時ですね」

 笑みをたたえたままそう言った。

「今までの経緯はわかっています。あの子の名前はルナと言います。みさきという名は私がつけました。学生の姿をしているので見ることはできますが、本来実体はありません。とても永い刻あの子はこの仕事をしています。根はとても優しくて寂しがりやです」


「僕に会いたかったと初めて会った時、言い出したんです。昔、婚約者だったと」

「それは無いですね。ただ、あの子はそう思い込んでいるんです」

「よくわからないけど、前世の記憶ってあるんですか?」

「本来は戻った時点で忘れます。でも、特例があるんです。私は亡くなる前の記憶はあります。あの子は寂しいということが残ってしまったようです」

「えっ?あなたも亡くなっているんですか?」

「怖いですか?」

「いえ、不思議な感じがするだけです。怖さは有りません」

「ルナ、いえ、みさきは愛に飢えた子なんです。何度生まれ変わっても愛を手に入れることが出来ない。あの子のせいではないと思うのですが」

「彼女はこれからどうしたらいいんですか?」

「本来は与えられた仕事の時以外、降りてきてはいけないんです。冷たいようですが、また、現れたら帰るように言ってください」

「愛に飢えた子ねぇ。確かにそういったところはありますね」

「いつまでも関わっていると、優さんにも良くありません」

「わかりました。今度会った時は、冷たくしますよ」

「お願いします」

「ここまで話していてなんですが、お名前聞いていなかったです」

「あら、失礼しました。風見彩かざみあやと言います。人相占いを時々しながら街角に出ております」

「変なこと聞いていいですか?」

「どうぞ」

「彼女は服を脱いだり食事をしないと言ったんですが、そうなのですか?」

「ふふふ、必要ないですからね。おっしゃる通りです。でも、時々衣装を変えることも食事をすることもありますよ」

 悪戯っぽく風見が言った。


 風見が帰った後

「本当に冷たくできるかな?愛情が欲しいんでしょう?相手ぐらいはしてあげてもいいんじゃないかなぁ」

 優は呟いた。


 取材の日

 この一週間、みさきは姿を現さなかった。雄一も仕事で東京にいない。

「オーナー、お見えになりましたよ」

 従業員が取材人の到着を知らせてくれた。今までも取材は受けているので、従業員や客も平然としている。

「お忙しいところ、取材に応じていただきありがとうございます」

 女性が優の元へやってきて、挨拶をしながら名刺を渡した。

「女性週刊誌美しきひと 波川香織」とあった。


「オーナーの高原優です。よろしく」

「以前もお店取材受けていらっしゃいますよね」

「ああ、何度か」

「その時の内容を拝見しましたが、ほとんどがイケメンオーナーって感じでしたね」

「僕,取材記事見てないんですよ。特に興味がないので。あ、取材の方に失礼なこと言いました」

「正直ですね。つまり、イケメンオーナーって内容は気に入らないってことですか?」

「イケメンって言われるのは嬉しいですよ。でも,それって外見でしょ?僕の内面を見てくれてないから何とも思わないですね」

「なるほど、外見はいいと認めてはいますよね。確かにステキな方です。私もドキッとしました」

「その後は?」

「えっ?」

「そう、その後、どう思うんでしょうか?」

「例えばもっと一緒にいたい、話をしていたい、顔を見ていたいとか」

「そのさらに先」

「・・・」

「ふたつに分かれるんですよ。何だと思いますか?」

「なんでしょう」

「過去を知りたいっていう人と身体だけを求める人、あなたはどっちですか?」

「・・・」

「すみません、遠回しに言いましたね。今回の取材の目的は何ですか?今までイケメンオーナーの店紹介っていうだけで終わる、それでもたくさんの店の中から選んでもらって嬉しいですよ、確かに女性客は増えましたから。でも、動物園のように僕のことを見に来るだけ、珈琲を頼んで僕を肴にお喋りをして行くだけなんですよ」


「そうですか、正直今回も同様でした。『素敵なオーナーがいる店』がコンセプトでした。あなたの顔を前面に出して、お客様の声を載せる。他社の同様の掲載から時間が経っていたので、二番煎じを狙いました。オーナーの意向を尊重してもう一度仕切り直して取材お願いできますか?」

「今回は最初の予定通り取材すればいい。もし、あなたが僕をキチンと理解してくれてからなら次回も取材いいですよ」

「わかりました。今日は写真とお客様へのアンケートだけお願いします」


 優はいい加減ウンザリしていた。少し冷たいと思ったが、今までと同じような内容なら掲載してもらわなくてもいい。自分を見にくるだけなら、十分だ。



 みさきはあの日以来姿を見せない。雄一がいない時は、部屋をウロウロして優に何かといえばくっついていたのに。少し寂しい気もするが、風見の言う通り甘やかさない方があの子のためか。

 それもそうだが、なぜ取材を受けたら嫌だと言ったんだろう。波川さんとは別にどうってことは無さそうだけど。


 雄一が帰ってきて、テーブルの上に置いてあった名刺を見て

「なんだ,波川が取材にきたんだ。生意気なこと言わなかったか?」

「ゆうちゃん知っているんだ」

「何度か撮影で一緒に仕事したことがある」

「生意気なこと言われる前に、先手を打った。俺の顔だけ出すような雑誌は読まないって」

「ははは、でも、気が強いがいいやつだよ。意外にもまあちゃんが振り回されるかもしれないよ」

「そうなの?楽しみができた」


 突然,波川が店にやってきた。

「今日は客として来ました。悪いけどあなたを観察する側で見させてもらうわ」

 確かに,高飛車な口の聞き方をする人だ。

「ご自由に」

 波川は珈琲を二杯飲んで、いつのまにかいなくなっていた。従業員に聞くと、本当に優をじっと見ていただけだったようだ。誰にも話を聞くわけでもなく。


 次の日、閉店時間間近に波川がやってきた。

「今日は終わりだけど?」

「知ってます。今度プライベートで会えませんか?」

 意外なことを聞いてきた。

「プライベートで?」

「いえ、休みの日を見せてもらえませんか?」

「休みの日はほとんど家にいるけど、家に来るの?」

「えっと、出かけないんですか?買い物とかスポーツするとか」

「一体何?ストーカー?」

「あなたに興味が湧いたので、知りたいだけです」

「ねぇ、お酒飲める?」

「少しですけど」

「じゃあ飲み行こう」

「今からですか?」

「俺のこと知りたいなら、早い方がいいんじゃない?鍵閉めるから少し待ってて」

 優は笑ってしまう。俺のことを理解しろって言うことがこんな茶番か


 店のそばにある老舗のBARに連れて行った。

「あら、マスター,いらっしゃい」

「こんばんは、今日は連れがいる」

「じゃあ、あちらのテーブルがいいわね」


 ウイスキーとおつまみを頼み向かい合って椅子に座る。

「で、昨日は店で俺を見てて何かわかった?」

「確かに女性客が多いし、あなたを話題にしている人も多かった」

「それだけ?」

「あなたは如才なく対応をしている」

「それは仕事だからね。記者のわりにつまらない回答だね」

「失礼ね」

「別に怒るなら帰っていいよ。そんなに簡単にプライベートなんか見せないよ」

「・・・」

 優はその後は黙ってウイスキーを飲んでいる。波川も黙っていた。

 時々知り合いが声をかけてくる。だが、向かいに座っている女性に目を止めると、挨拶をして離れて行く。

「帰ろう」

 優が立ち上がり、扉に向かって行こうとするが、波川は座ったままだ。

(面倒くさいな、みさきはなんでこんな子が気になったんだ?)


 そんなに遅い時間でもないので、優はそのまま彼女をおいて帰宅した。

 雄一も帰っていたので、波川のことを話した。首を傾げながら

「そんな女だと思えないがな。何か魂胆があるのか?それとも本当にまあちゃんが好きだとか」

「あの手は後が面倒臭いからやだ」

「誰でもいいわけじゃないんだ」

 雄一は苦笑しながら呟いた。


 翌朝、シャワー浴びていたら久しぶりにみさきが現れた。

(何してたんだ?)

(大人しく仕事していた)

(この間気にしていた女は、全然心配するような人じゃなかったよ)

(それはそうよ。あの人違うもん)

 えっ?どう言うこと?

(大きい声出すと、同居人に聞こえるよ)

(そうだった。何言ってんの?)

(あの女は勝手に人の名刺を使って、優に会った嘘の人)

(取材が嘘?雄一は名刺の人を知ってるよ)

(同居人さんが会ったのは本物、取材の人は嘘)

(はぁ、みさき同様わからないことばかりだ。だって取材受けるなって言ったよね)

(取材の電話は本当、でも、あの女が成りすましてやってきた)

(なんで?)

(優が好きなんじゃない?)

(俺、あったことないよ)

(優は有名人、誰もが知ってる)

 取り敢えず今は出るよ、怪しまれる。また、あとで。


 タオルで頭を拭きながら、優は試しに雄一に聞いてみた。

「ねぇ、波川って人の写真ないの?」

「あるよ、ちょっと待ってて」

 仕事部屋に雄一が行った時、みさきが

「見ちゃダメ!」

 と目の前にきて喚いた。

 雄一が戻ってきてカメラの中のデータを探していると

「あ,あった。この子だよ」

 みさきがデータを隠そうと手をだしてくるが、それを無視して見ると

「うっそ、マジに?いい女じゃん」

 昨日までに会った女性とは、全く別人だった。

 雄一の横にみさきが立って、雄一の頭を叩いてる。

 優は苦笑いをして

「ゆうちゃん、この間の女は偽者だわ」

 そう言って相変わらず頭を叩いてるみさきを見て笑った。


 その後、偽りの波川は現れなかった。


 雄一が仕事から帰って開口一番

「本物の波川がゆうちゃんに会いたいって」

「本当に?いつ会ったの?」

「今日仕事場で一緒だった。偽者の波川が会いにきたって言ったら、本物も会いに行かなきゃねってさ」

 みさきの姿を探したが、現れなかった。


 雄一の付き合いで、撮影現場に行った日に、偶然に本物の波川に会った。写真で見るよりさらにいい女で、負けん気の強さが出ているがそれも優の好みだった。

(なるほど,みさきが会うのを阻止したい気持ちがわかった)

 雄一が波川を誘って三人で、お茶を飲むことになった。仕事の途中なので酒はまずいだろうと近くの喫茶店に入った。

 話し方も聞く内容もこの間の偽者とは大違いだと優が言うと

「先に評価を下げてくれていたから、バレずに済んだのよ、お礼を言わなきゃ」

 笑いながら答える。その笑顔がまた良い。

 今日は別々の仕事だったので、近いうちに会おうということになり別れた。

「ゆうちゃん、いいな,久しぶりに会ったよ、ときめくひとに」

「本気?」

「なんか昔から知ってる感じがして、いやぁ、いいな」

「悪い癖がはじまったのか?それとも本当に惚れたのか?」

「落としてみたい!」

「それは悪い癖の方だ」

 雄一は苦笑いしながら仕事に戻った。



 店の従業員が、優に聞いてきた。

「オーナー最近楽しそうですね。何かいいことありましたか?」

「ええ、そうか?顔に出てるか?」

「あまり表情に出さないオーナーが、デレてるって初めて見ました」

 そう言ってケラケラ笑い出した。つられて優も笑い出す。

「そんなに楽しいことがあるんだ。でも、オーナー浮かれてて社員旅行忘れないで下さいよ」

 古参の従業員山下に言われて、

「そうだ!思い出した。チケット取りに行かなきゃ」

「忘れてはないんだ」

「当たり前でしょ。大事な従業員だもの、ちょっと出てくる」

 慌てて外に出ると、途中でため息をついて

「顔に出るようになっては天下の優サンもおしまいだね」

 自分で評価している。


 三人で喫茶店でお茶を飲んだ次の日から、優の波川香織への猛アタックが始まっていた。

 素っ気なくされれば余計に元気になるんだと言いながら一日に何度も連絡をしている。

 波川はそれでも打ち合わせで電話に出られない時などは、折り返し優に連絡してくるのでさらに優のアタックは止まることが無い。

「もう一回会ってよ」

 と、優が何度目かわからないくらい繰り返し、波川に電話をするたび言っている。

「100回通わないと会えないって、小野小町じゃないんだからさぁ、会ってよー」

 最後は懇願する電話に、さすがの波川も大笑いしながら

「わかりました。来週お店に行きますよ」

 とやっと言ってくれた。それで、先ほどのニヤけた優の態度だった。


 波川が店に来る日、店に近い二天門を待ち合わせの場所に選んだ。

 定番の雷門は平日でも人が多いので,比較的少ない場所にしたのだ。

 ほとんど同時に二天門前で会うことが出来た。


「やっと来てくれたんだ。嬉しいよ」

 子供みたいな笑顔で波川に言うと

「あれだけの連絡をもらって、知らん顔する度胸は無いわよ」

 笑いながら波川が答える。

「あと75回くらい連絡しないと会ってもらえないかと思った」

「誘う相手に困ってなさそうなのに・・」

「ちょっと待った!その普通の会話はやめよう。やっと会えたんだからさ、今日は俺だけみてよ」

「その殺し文句・・・あゝ,これがダメなのね」

「そう言うこと!最初はお参りしよう」

 そう言って浅草神社に波川を連れて行った。


 参拝の仕方もキチンとしていて、お賽銭を投げ入れることもない波川に

「まずは合格点100点!」

 と言った。

「何が?合格点を貰えると何かいい事があるの?」

「お楽しみに!」


 次に浅草寺本堂に行くと外陣は天井まで約10mの大きな空間があり、天井を見上げると三面の大きな絵が見える。中央が川端龍子画「龍之図」、左右が堂本印象画「天人之図」「散華之図」である。そして内陣に上がると、その中央にはご本尊を奉安する御宮殿(ごくうでん)があり、その内部にお厨子が安置されている。御宮殿は唐様・三方軒唐破風千鳥破風付、八棟造りで、鎌倉時代末期の建築様様式を模したものだ。

 波川は厳粛な雰囲気に圧倒されて何も言葉が出ないようだ。

 優がそっと肩に触れると、

「いろいろなところに取材に行かせていただくけど、これほど素晴らしいところを見たのは初めてよ」

 波川が優を振り返りみて、興奮した口調で話し始めた。

 本堂を出て境内や裏浅草など隈なく散策した後、優の店に入った。


 優はカウンターに波川を座らせると、自分はカウンターの中に入り向かい合った形になった。

 スタッフはオーナーが彼女をカウンターに座らせた事で、「特別な人」だと認めて決して近寄ろうとはしない。

 優は特別な人以外カウンターには決して座らせない。特に女性が座ることは特別中の特別だ。

 店の中の常連客も羨望の眼差しを波川に送っている。

 当の波川は優の浅草案内がよほど気に入ったと見えて、周囲には注意がいかなかった。

「警戒心とれた?」

「普段と全く違う姿が見られてとても感謝よ。これでも人を見る目はあるのよ。警戒心は解れたわね」

「良かった」

 優が波川に送った笑顔は、他の女性から見たらため息ものだった。

 波川はかなりの知識人で話題も豊富なうえ、一を聞いて十を知るということわざがぴったりな女性だ。趣味も多彩で最近はスカッシュにハマっているらしい。

 優もスポーツはなんでもこなす方だが、スカッシュは未体験だ。

 店の旅行が終わったら教えてもらうことになった。


「そろそろ今日は帰るわね」

「そう?なら送って行くよ」

「遠慮しようかと思ったけど、お願いするわ」


 店を従業員に任せて波川を浅草駅まで送って行った。途中でスカイツリーがライトアップしたのが見えた時、

「もう少し付き合ってよ」

 と優が波川をあるビルの屋上に連れて行った。

 スカイツリーが目の前に見える最高のスポットだ。

「ここは知り合いのビルだから邪魔されずにデートが出来るんだ」

「と言うことは他の人も連れてくるってことよね」

「ほら,そう言った普通のことは言わない。自分だけが連れてきてもらったって考えなくっちゃ」

「ふふふ、なんでもポジティブに考えろってこと?私そこまでポジティブになれないわよ。普通にやきもちもやくし、そう、忘れてたわ。合格点がたまったらのお楽しみってなに?」

「あゝ、残念。まだ貰えるほどたまってないよ。繰越できるから頑張って次回もためてね」

「あら,ずるいわ。お楽しみ交換って何点以上なの?」

「そうだなぁ、交換するものにもよる」

「なら交換するものになにも興味がなかったら、ポイント放棄もありなの?」

「いいよ。ただし、他の人にあげることは出来ないけどね。できるのは、自分で欲しいものを指定することかな」

「へぇ、次にたまったら私から交換するもの決めようかしら」

「こっちの指定ものは興味なしってことか」

「そうね、聞かなくてもわかったからね」

「ふぅーん」

「いつから旅行に行くの?」

「再来週の火曜と水曜日、上高地と白骨温泉に行く」

「両方ともいいところね、だれの提案?」

「俺と言いたいが、ゆうちゃん。仕事に合わせて今回は決めた。ねぇ、一緒に行かない?」

「残念ね。来週から海外に取材に行くのよ」

「いつ帰る?」

「子供みたいな質問ね。2週間後に帰るわ」

「海外に取材かあ。気をつけてね」

「ありがとうございます」

「だいぶ遅くなったけど、お腹空かない?」

「これ以上一緒に入るとあなたのペースにはまりそうだから帰るわ。帰国したら食事しましょう」

 ふと優が波川を抱き寄せて

「食事ね」

 とだけ言って一瞬で離した。

「そうだね、このままいると今、食べたくなるから帰ろうか」

 波川の手をとりエレベーターに乗り、人がきれない歩道を歩いて駅まで送って行った。

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