三 京都 ②ゆきとの出会い

 この日の撮影は早めに終了となった。

 ゆきに食事に誘われたが

「先約があるから」

 と言って断ると、ゆきがまた怒り出した。

(仕事が終わったら自由にしてくれよ)

 心の中で思いながらさっさと駐車場へ向かった。

 結局この日の送迎はサキのままだった。

「悪いけど、京都駅で降ろしてくれる?」

「わかりました」

 余計なことを詮索しないサキに、好感を持った。それにくらべゆきって子は・・・


 京都駅で降ろしてもらった後、奈良線に乗り宇治に向かった。

 仕事が早めに終わると風見へ連絡をしたら、今日は宇治にいるとのこと。

「食事しましょうよ、宇治まで来れる?」

 というわけで15:33の快速で行くことにした。宇治までは約18分と早い。

 駅に着いたときは、15:51を時計の針がさしていた。

 風見に連絡をすると

「宇治橋を渡って京阪宇治駅まで来てほしい」

 と言われた。

 京都が初めての真斗でも迷わない簡単な道だ。宇治橋を渡るときに足を止めて、しばらく宇治川を眺めていた。

 すれ違う女性の中には、真斗の姿を二度見することもあった。


「まったく自分のことを知らないのにもほどがある!」

 リサがよく真斗に言う。

「何を知らないの?」

「本気で言っている?あなたがどれほど女性を引き付けているか、わかっているか?ってことよ」

「俺のどこがいいの?俺のこと、よく知らないのに良いとか、引き付けるとか言われてわからないよ」

「簡単に言えばまずは外見!こんな高身長でルックスのいい男、芸能人でもあまりいないわよ」

「外見で判断するなよ」

「女はまず外見から行くの!どんなに優しくても小太りじゃいやなの!」

「それはリサの見解だろう?」

「一般論!」


 ポンと背中をたたかれて、振り返ると風見が立っていた。

「なに物思いにふけっているの?彼女のことでも考えていたの?」

「ああ、すみません、ぼおっとしていました。それに、彼女はいませんから」

「あら、そうなの?じゃあ、わたしが立候補しようかしら」

 風見は真斗の肩を今一度たたいて、

「じゃあ、行きましょうか。平等院が宇治ではデートスポットだけど、入館時間がもう終わりだから次回ね」

 二人で肩を並べながら『辰巳屋』という老舗の京料理店へ向かった。

 ここの女将と風見が知り合いということで、歓迎を受け恐縮しきりの真斗だった。

「この歳までこんな美味しいものを食べたことがないです。わぁ、どうしよう」

「真斗くん、子供みたいだね」

「美味しいものは美味しいというんです」


 帰りに大吉山展望台に上った。低いながらも京都方面・大阪方面などの夜景がきれいに見える憩いの場所だ。

 JR宇治駅まで歩くより、京阪宇治駅から中書島を経由して出町柳まで行くルートが、簡単なので二人で電車に乗って帰ることにした。

「だいぶ遅くなったわね、明日、仕事大丈夫?」

「大丈夫ですよ。それより、今日は本当に久しぶりにおいしいものを食べてリラックスできました。ありがとうございます」

「何よりだわ、仕事は面白い?」

「撮影所なんて行く機会がないから、目新しいことばかりで勉強になります。ひと月があっという間に過ぎそうな勢いで時間がたつんじゃないかと」

「この仕事が終わったら東京へ帰るのよね」

「そうですね、お客さんが待っていてくれればいいですけど」

「大丈夫よ、真斗くんのお客様は首を長くして待っているでしょうね」

「祇園祭はいつまで続くんですか?」

「7月1日から31日までのひと月ね。真斗くんが京都にいる間はお祭りの期間ね」

「山車とか見られますか?」

「もちろん、時間が合えば案内するわね」

「本当に!?すごい、楽しみができた」


 出町柳からタクシーで真斗の宿泊しているホテル経由で風見と別れた。


 仕事場の送迎は男性の運転士になったので、あれ以来ゆきの癇癪は起きなくなった。

 現場でもゆきの性格がわかってきたので、差しさわりのない対応で乗り切った。

 途中、風見と約束していた祇園祭の山車を見に行ったりと、あっという間のひと月だった。

 それも、もう間もなく終わる。

(東京へ戻ってカットの練習をしないと、腕が落ちたかもしれないな)

 真斗の頭の中は東京へ戻ってからの仕事のことで、いっぱいになっていた。


 最終日、ゆきに

「お疲れさん会をしたいから付き合ってよ」

 と、言われた。

 ひと月程度の付き合いだから、断ろうとしたがゆきのプロダクションの社長らも出るとのことなので、仕方なく付き合うことにした。

 現場とホテルの送迎をしてもらっていたので、撮影所周辺の地理には詳しくない。

 お店の名前を聞いていたので、スマホで場所を確認していたところに衣装担当のサキに声をかけられた。

「お店の場所がわかりませんか?一緒に行きましょうか。でも、途中までにしましょうね。また、叱られるの嫌なので」

 笑いながらサキが言う。

「そうだね、最後の晩に嫌な思い出は作りたくないし」

 二人で歩きながら

「明日から東京ですか?」

「いや、用事を済ませて三日後に帰る予定」

「こちらにお知り合いがいるんですか?」

「オーナーの店がこちらにあるので顔見世だよ」

「そうですか、寂しくなりますね。あっ、もうお店が見えてきました。先に行ってください」

「なんだ、思ったより近かったね。じゃあ、またあとで」

 さっさと先を歩き出した真斗の後ろ姿をサキはじっと見ていた。


 映画の撮影が終わりお疲れさん会は、かなりの人が集まっていた。

 やはり『飲み会』だとどこでも同じように集まってくるようだ。

 プロダクションの社長の姿が見えたので、真斗が挨拶に行くとすぐにゆきが走り寄ってくる。

「真斗!このまま専任でやってよ。京都に残ってほしいな」

 真斗の腕を掴みながら言った。

 社長は苦笑いしながら

「真斗くんに手伝いを頼むのにどれくらいかかったと思うんだ。それに、いつまでも独り占めしていると東京の真斗くんの客が1000人くらい押し寄せてくるぞ。早く真斗くんを返せってな」

 冗談とも本気ともつかない口調で言う。

「1000人くらいならこっちでもすぐできるでしょう。いいえ、こっちならその倍は集まるわよ。真斗かっこいいし、やさしいし、わたしお客集めるわよ。ああ、やっぱりだめ、わたしだけの真斗にしたいから、ねえ、残ってよ」

 ゆきは勝手なことを言っていた。

(もう酔っているのか?それとも、素面で言えるのか、この子は)

 真斗はそんなゆきを無視するように避けた。


 社長とゆきが挨拶にその場を離れた途端、何人もの女性が飲み物をもって真斗を囲んだ。

「ありがとう、でも、アルコールはやめているんだ」

 ジュースを持っていた子のグラスを取りながらそう言った。

 しばらく談笑をしていると、社長が帰られると誰かの声が聞こえてきた。

「じゃあ、僕も社長を送ってくるから」

 と、その場を離れた。

(早く帰りたい・・・)

 社長に挨拶をして戻りかけたとき、腕を掴まれた。こんなことをする人は一人しかいない。

 振り払おうとした途端、バランスを崩して掴まれたほうへ、もたれかかってしまった。

「やっぱり君か、もうそろそろ帰りたいんだけど」

「わかった、じゃあ、五分で良いから一緒に飲んでくれない?」

 ゆきは、大人しくそう言った。


 そして、会場の横にある小さな部屋の中に真斗を連れて行った。

「アルコールはやめているんだよ」

「と言うことは飲めるのに一時的にやめているってことよね。一杯でいいから一緒に飲んで」

 テーブルの上にあったグラスにビールを注ぎ一つを真斗に渡した。

「一杯だけだよ」

「わかった、じゃあ乾杯!お疲れさまでした」

 真斗がビールを飲みほした瞬間めまいを感じた。

「しばらく飲んでいなかったからか?」

 と、言いながら椅子にもたれるように座り込んだ。


 真斗が目を開けて見えた天井は見覚えがなかった。

 昨日、ゆきとビールを飲んだ後の記憶がない。

 ベッドから周囲を見回すと、ホテルの一室ではない家具が並んでいた。

「まさか・・・」

 ベッドから起き上がり、脱ぎ散らかしてある自分の服を見て愕然とした。

 真斗は服に関しては神経質で、部屋着との区別をきっちりつけるタイプだ。

 決して脱ぎ散らかすようなことをしたことがない。

 ベットの横を見ると枕が二つあり、誰かが寝た形跡はあった。


 服を拾いズボンだけはいて、リビングらしき部屋に行ったが誰もいない。

 テーブルの上に鍵とメモが置いてあるのが見えた。

「昨夜はありがとう。鍵はメールボックスへ入れておいて」


「ゆきに嵌められたのか?」


 怒りというより呆れてしまった。

 ここまで積極的にする女に会ったことがない。断ったらおとなしく引く女ばかりだった。

 無性に喉が渇いたので、勝手に冷蔵庫から水を取り出し飲み干した。

 キッチンから見回してみると女性の部屋と思える調度品や置物があった。


「終わったことは仕方ない。怒るにも本人がいないんだから、ホテルに帰るか」

 クシャっとなったシャツを着るのが嫌だったが仕方がない。

 鍵をかけメールボックスに鍵を投げ入れ外に出た。

「ホテルに帰るにも、ここはどこだ?」

 偶然に犬の散歩をしている女性にあったので、ホテルの名前を伝え行き方を教えてもらった。

 電車に乗ろうと教えてもらった道を歩いていくと大通りに出た。

 今更電車で帰るのは面倒なのでタクシーでホテルに戻った。


 ホテルの部屋に入った途端、今まで着ていた服を乱暴に脱いだ。

 シャワーを浴びすべてを流そうと何度も身体を洗った。

 やっとスッキリしたので、途中で買った缶ビールを開けた。

 アルコールが駄目というのは建前で、気の置けない人とでなければ飲まないようにしている。

(失敗したな、一杯でも飲まなきゃ良かった)

 明日は智の京都店に顔を出すことになっている。

「時間があったら少しカットの練習させてもらおうかな」

 ゆきの仕事はほとんどがメイクだけで、たまにセットをするくらいだった。

 自分の店を持つのが夢な真斗にとっては、このひと月カットが出来なかったことが一番の悩みだった。


 ホテルの窓から見下ろすと人混みが見えた。

 何日か前、風見と祇園祭の山車を見に行った。待ち合わせに行った真斗を、近くの着物レンタル店に連れていき着物を借りてくれた。

 身長がある真斗にあう着物がなかなか見つからず、店長が海外の人が来た時用のケールから探してくれてやっと着付けをすることができた。


「着物を着ながら祭りに参加できるなんていいな」


 真斗が今まで感じたことがない感情に本人が一番びっくりしていた。

 その夜は遅くまで二人で時間を過ごした。


 朝から何も食べずシャワーを浴びた後のビールも、つまみがなかったので空腹を覚えた。

 しかし、外で食事をする気にならず、ベッドに横になり少し休むことにした。

 目が覚めて時計を見ると午後3時を回っていた。1~2時間くらいかと思っていたが4時間近く眠っていたようだ。

 さすがにお腹に何か入れないと・・・

 クローゼットから着替えを取り出し、ホテルの外に出ることにした。

「この時間でもやっぱり暑いな・・・」

 ホテルから少し出ただけなのに、汗がジワッと出てきた。

 このひと月仕事場は室内が多く、照明の暑さはあったがあまり汗をかくことがなかった。

 通りから一本小道に入ると昔ながらの食堂があった。


「いらっしゃいませ」

「ビールと餃子とチャーハンもらえますか?」

(酒飲みスタイルな注文内容だな)苦笑いしながら商品が出てくるのを待った。


 翌日オーナーのさとしの京都店に向かった。地下鉄で四つ目の駅なのでさほど遠くない。

「わあ、真斗まさとさん!」

「ええ!京都にいらしていたんですか?」

 店に入る途端あっちこっちから声がかかった。

「店長はいますか?」

 真斗が聞いた途端、後ろから声がして

「従業員の黄色い声が聞こえたからすぐにわかったわよ」

「ご無沙汰しています」

「本当よね、真斗ったらひと月あまり京都にいたんでしょう?なぜ、もっと早く来なかったの?」

「何かと忙しい毎日でしたので」

「なになに、京都の女と?ちょっと!羨ましいわね」

「誰もそんなこと言ってないですよ、仕事でこき使われていましたよ。そんなわけで全然カットが出来なかったので、今日手伝わせてくれませんか?」

「もちろんよ!喜んでよ。道具は持ってきているのよね。まだ、時間があるから珈琲でも飲みに行きましょうよ」


 真斗は店を手伝いながら勘を取り戻していた。

 閉店の時間になって店長が

「今日ね、飛び込みのお客さんが多かったのよ。入り口で真斗がカットしてくれていたので目についたのかしら?すごい宣伝効果!ねぇ、明日もお願いしたいわ。どう?真斗」

「明後日東京に帰る予定なので、いいですよ。こちらこそお願いします、じゃあ、また明日」


 翌日も同じように店を手伝いながら京都の最後の日を過ごした。

 夜、部屋に戻ってしばらくするとブザーが鳴った。

「誰だろう?」

 扉を開けると風見が立っていた。

「風見さん、どうしたんですか?」

「入ってもいいかしら?」

「もちろん、どうぞ。明日帰るので連絡しようと思っていたところです」

「これ」

 と、言いながら封筒を取り出して真斗に手渡した。

「なんですか?」

 封筒を開けると数枚の写真が出てきた。

「・・・・」

 そこにはゆきが写っていた。

 全裸の二人が抱き合っているもの、ゆきのアップの顔などかなり衝撃的なものもあった。相手の顔はどれもはっきりと写っていないが、真斗であることは間違いないようだ。


 しばらくしてから

「何があったの?」

 風見が真斗に尋ねた。


 あの晩の記憶がある限りのこと、朝起きたら誰かの部屋に一人で寝ていたことなどを、真斗は風見に話した。


「全く記憶にないの?」

「ないです」

「そんなことをする人なのかしら?」

「わからない、破天荒な子だということは周囲から言われていましたが、ここまでする子だとは思わなかった。目的は何だろう」

 ふと真斗は風見に聞いた。

「この写真どうしたんですか?」

「手に入れた方法は話せないのだけど、知り合いの記者からもらったの」

「記者?」

「そう、雑誌記者。こういったスキャンダル専門の雑誌」

「・・・・」

 なぜそんな雑誌記者と知り合いなのか疑問もわいたが、

「それより、ゆきは何をしたいんだろう?この雑誌いつ出るんですか?」

「明後日発売」

「ちょっとオーナーに連絡しますから待っててもらえますか?」


 真斗は智にこの京都で起こったことをすべて話した。

 智からは

「プロダクションの社長にクレームをつけて、何とか差し止めさせるから少し待って。それから、もう少し京都にいたほうがいいわね。どこかにいられるところあるかしら?」

 電話を切った後、智の言葉を風見に伝えた。

 しばらく考えていた風見は、

「荷物まとまってる?」

 と、聞いた。

「ほとんど出来ています」

「じゃあ、残りやってしまって。今からすぐ出ましょう」

「出るって何処へ?」

「私に任せてちょうだい」


 10分後風見と真斗はホテルをチェックアウトして街に消えた。


 タクシーが京都市内を抜け山間をズンズン走っていく。周囲がどんどん暗闇になっていく。隣に座っている彼女は前を見て何も言わない。

 どれくらい走ったのだろうか、小さな平屋の一軒家の前でタクシーは止まった。

 風見が料金を支払い、家に向かって並んで歩きだした。

「ここなら知り合い以外来ないから大丈夫よ」

「ここは風見さんの家ですか?」

「違うけど、知人の家で私が自由に使えることになっているの、中に入りましょう」


 鍵を開け灯りをつけると、山小屋風造りのこじんまりとした内装の部屋が見えた。

 京都市内はこの時間でも暑いが、だいぶ山奥に入っているからかひんやりとしている。

「これからのことは明日話しましょう。今日はここでゆっくり休みなさい。嫌なことは考えないようにして」

 風見がお風呂の支度をしてくると奥に入っていった。

 真斗は周囲を見ながら

「明日からどうなるんだろう、俺。しかし、やられたなゆきには」

 少しずつ怒りが込み上げてきたが、世話をしてくれる風見の前では顔に出さないようにしようと思った。


「お風呂はもう少し時間がかかるわね。お腹空いていない?」

「今は食べたくないな」

「そう、だったらソファに座ってテレビでも見ていたら?」

 言われたようにソファに座り、テレビをつけるが全然頭に入ってこない。

 その後姿を見た風見は奥の部屋に行き布団を敷き始めた。


 お風呂上がりの真斗は風見に缶ビールを渡され

「外に行ってごらん」

 と言われた。

 扉を開け何気なく空を見上げると、満点の星空だった。

「うわぁ!すげー!プラネタリウムよりキレイだ」

 子供のようにはしゃいでいた。

 風見も缶ビールを持ちながら、外にある切り株に腰を下ろした。

 夜風に当たりながらいつまでも、天然プラネタリウムを二人で見ていた。


 翌朝、風見が用意してくれたパンと珈琲で朝食を摂った。

「よく眠れた?」

「正直あまり眠れなかったです」

「そうよね、でも、無駄に考えても駄目よ。対処方法が分かった時点で考えましょう。少し、田舎暮らしを経験してみたら?」

「風見さんはどうするんですか?自分にいつまでも付き合っていられないでしょう」

「そうね、一度戻るわね。三日後に必要なものを持ってくるから、欲しいものをリストアップしておいてくれる?」

「わかりました」

「それから、この場所携帯つながらないの。用事があったらキッチンわきの電話を使っていいわよ。知り合いの方に連絡するのもそれを使ってね」

「ありがとうございます」


 朝食後しばらく風見の姿が見えなかった。

 真斗は寝不足の頭をふりながらソファに腰かけていたが、いつの間にか眠ってしまった。

 ようやく目が覚めた真斗は、そのままの姿勢のままキッチンのほうを見た。

 風見が戻っており、食事の支度をしているようだ。

 起き上がった真斗はキッチンのほうへ行き

「何か手伝いますか?」

 と、聞いた。

「もうすぐ出来るから、戸棚から食器を出して並べてくれる?」

 茶碗と箸などを二組づつ取り出し、テーブルに並べた。

「簡単なものでごめんね。次に来たときは材料を用意してちゃんと作るからね」

 笑いながらお皿を持ってきた。簡単なものと言っても三品もあり、それなりに手の込んだ料理だった。


 三日後、風見が週刊誌を手に戻ってきた。

 黙って真斗に渡し、真斗も黙って開いた。


【女優田崎ゆき スキャンダル嬢 連日連夜 男と密会 これが証拠の写真だ‼】


 ありもしないことが大きく見出しに書かれていた。

 写真も真斗が見たものがかなり大きく掲載されていた。

 ただ、真斗の名前は書かれおらず、結びつけるような文も見当たらなかった。

「週刊誌ってこんなありもしないことを書かないと、売れないんですかね?実際に現場を見たわけでもないのに。たかが写真だけで」

「この手の雑誌は読む人が喜んで買ってくれる内容を書けばいいのよ。現場なんていらないの。写真やタレコミで勝手に想像して面白おかしく書くだけ」

「書かれたほうはたまったもんじゃないですね」

「それがこの世界よ」

「俺、関係ないけどな」

「そうね、災難だわ」

「風見さん、この写真なんですけど、これは俺じゃないように思える」

「どれ?」

「恥ずかしいけど全裸の写真は自分です。でも、こっちの写真は俺じゃないと思う。顔をはっきりさせないところが、意図的に感じるし背中が違うんですよね」

「背中?」

 風見が真斗の顔を見る。

「俺、子供のころ木から落ちて背中に大けがしたんですよ。その傷痕は今でもはっきり残っているんです。この人の背中はきれいでしょう?」

「なるほど」

「それに意識がない状態で、女を抱くことなんてできないと思うんだよね」

「ちょっと!最後の会話はさすがに照れるわね。真面目な顔して言われると」

「ははは、すみません。それからなぜゆきが俺を貶めるような写真を撮らせたか?ってことが気になる。この写真はこの場所にいなければ撮れないですよね。それに、なぜ仕事の最終日だったのか。いつでも撮るチャンスはあったと思うんだよね」

「そうね、売名行為で真斗くんを利用したにしてはおかしいわね。それに、今、田崎ゆきは所在不明なの」

「えっ?」

「誰も連絡が取れないらしいのよ。真斗くん、連絡先知ってる?」

「いや、連絡するつもりがないから聞きもしなかったな」

「ともかく、田崎ゆきが会見をするか、これを仕組んだ人がどう出るか、様子を見ることにしましょう」


「風見さん、俺、横浜に戻ることにします」

「横浜?真斗くんの住まい?」

「いえ、店のオーナーの横浜店です。逃げているのも嫌だし、この週刊誌には自分の名前は書いていないでしょう?京都にいるほうが、ゆきとの関係を知っている人が多いから戻ろうと思って」

「そうね、それがいいわ。わたしも何かわかったら連絡するわね」

「迷惑ばかりかけてしまって、すみませんでした」

「謝ることなんてなにもないわ。京都が嫌いにならないことを祈るわよ」

「京都は最高の街ですよ。祭りも楽しかったし、風見さんと再会できた場所だから」

「ありがとう」


 しばらくして真斗は横浜へ戻った。






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