第8話 お寝むな岩手 岩手 北海道

 入学式が始まり教頭先生の長くてくだらない催眠音波が生徒達の眠気を惑わす。


 背の順で男子の一番後ろは北海道、そしてその隣では北海道には遠く及ばないが並の男子よりも遥かに背の高い女子がまぶたを閉じて頭を揺らしている。


 女子で一番背の高い冬岩(ふゆいわ)手南(てな)だ。


 入学式が始まった瞬間からすでに半寝状態だったがもう限界といった様子である。


「おい起きろ」


 北海道が肩を叩き、南岩手はハッと眼を覚ます。


 北海道の方を一度だけ見ると前に向き直り、そしてまた体が揺れ始めた。


 前に傾いてはガクッと上がり、またふらりと前に傾いては持ち直そうと上体を上げる。

 その度に彼女のクラス、いや、学校で一番の発育を見せる胸が弾む。


 一五歳でそのサイズは反則だろうと思いつつ、隣にいる北海道はどうしても南岩手の事が気になってしまう。


「おい寝るな」


 今一度起こすが、やはりまた意識が薄れているようだ。


 そして、マイクが教頭から校長に渡った二秒後に南岩手の腰が落ちた。


 さすがに最強の催眠呪文に抵抗する事ができなかったのだろう、北海道が慌てて肩を貸して支えるが完全に眠り、脱力しきった南岩手を校長の長話の間常に支えるのはやや厳しい。


 北海道の筋力ならば支えるのは容易いが、今、北海道の脇腹には南岩手の横胸が当たっているため、段々顔が熱くなっているのを感じる。


 一秒でも早くこの状態から脱出したい北海道は校長を睨み、早く終われと念じる。


 すると、校長がたまたま北海道と目が合ったのだが、その時の北海道の顔がよほど恐ろしかったのだろう、校長は目が合った瞬間、


「おわっ!」


 と言ってマイクを落として仰け反った。


 北海道は首を傾げつつ校長を睨む。


 岩手県:一日の平均睡眠時間は日本一


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る