第6話

 じいちゃんの家には、風呂はない。いつも銭湯に出掛ける。もちろん番台のおじさんは、いつも笑顔でじいちゃんと、話をしている。その銭湯は昔ながらの少し古ぼけてはいたが、とても居心地の良い空間だった。

 体を洗うじいちゃんに声をかけると、いつもニコニコしているじいちゃんの顔が一瞬にして変わった。私の顔面が血だらけになっていたからだった。なぜならば、走って転んで浴槽の縁に眉の上の部分をぶつけてしまい、切って、出血してしまった。

 顔面から血が流れる私を、じいちゃんは、タオルで顔面を抑えながら、脇に抱えて、必死に走って病院へと向かった。処置を終えた私を見て、じいちゃんは今までで見たことのない顔をしていた。そして、ギュッと抱きしめてくれた。帰り道、行きつけの喫茶店で、大好きなソフトクリームをたべた。じいちゃんは、笑顔だった。



 告別式のお焼香を待つ間に、思い出していた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る