第49話Uの謎(10)Uの秘密

扉を開けて先に進むと、また棺が現れた。

しかも今度は蓋がされてなくて、中に青白い顔の男が眠っているのが見えた。

「この人は誰だろう・・・?」

侑は男の顔に触れてみた、とても冷たいことから、すでに亡くなっていることがわかった。

「これは一体どういうことなんだ・・・?」

『それは私がまだこの世で生きていた時の姿だ。』

侑が声のする方を見ると、そこにいたのはUの姿だった。

「生きていたってことは・・・、君は幽霊なの?」

『ああ、そうだ。私はかつて名探偵と言われた湯の山孝名なのだ。私は探偵という才能であらゆる事件を解決し、やがて名声と富を得た。』

Uは話しながらかつての自分のところへと向かった。

「しかし・・・、そんな私ですら解けなかった事件があったんだ。それがあの『三月三日の自殺事件』だった・・・。私は徹底的に捜査をしたんだがな、結局自殺の理由に行き着くことができなかったんだ。」

「そうか・・・、それじゃあ君がぼくを名探偵にしたいと言ったのは・・・?」

『ああ、あの事件を解決して欲しかったんだ。あの事件が私にとって唯一の心残りだったんだ。ありがとう』

Uは侑に頭を下げた。

「どういたしまして、それにしてもこの事件を解決するまで長かったね。」

『ああ、侑が八歳の頃にここへやってきてもう八年の月日が過ぎたのう・・・。立派な青年になったなあ。』

「そうだね・・・、あれからいろいろあったけど、君との怖くて不思議な日々は楽しかったよ。」

『ほぅ、あの頃は私のことを散々憎んでいたのに・・・、立派になったものだ。』

「そうかな〜?」

侑は照れた。

『さて、侑よ。この私がなぜお前を探偵にしたいのか・・・。もう一つ理由があるんだ。』

「えっ?それは何なの?」

『知りたければ・・・、解っているだろ?』

「謎に答えろということだね、いいよ。」

侑は頷いた。

『それじゃあ問題だ、二人の大人で出来る、かけがえのないもので、真ん中に点がつくものはなんだ?』

かけがえのない大切なもの・・・、そして真ん中に点・・・。

侑の頭に思い浮かぶものはなかった・・・、これは明らかになぞなぞだが難しい。

「えっと・・・U、何かいいヒントはない?」

『ほぅ、この問題は簡単に作ったつもりなのだが・・・、それならヒントを一つあげよう。ヒントは、侑自身だ。これ以上のヒントは無いぞ。』

「えっ、ぼく?かけがえのないもので、真ん中に点がついていて、ぼくに当てはまること?」

そして侑はひらめいた、Uに正解を告げる。

「答えは・・・、子どもだね。」

するとUの目から涙がこぼれ落ちてきた、そして侑を抱くと彼は言った。

『正解だ、侑。私は子どもが欲しかったんだ、そして私の知識を与えて探偵にすることで、私の血を受け継いだ立派な子どもみたいにしたかったんだ・・・。』

「U・・・、寂しかったんだね。」

侑はUの肩を優しく抱いた、それはまるで親子の再会のように見える。

『侑、私のワガママを叶えてくれてありがとう。これでもう私に、心残りはない。安らかに成仏できる・・・』

「U・・・」

Uの体が透けてきた、成仏が始まったのだ。

『侑との楽しい日々は、忘れない。私は空から、君の活躍を見守っている。』

「うん。じゃあね、U・・・。」

そしてUの姿は完全に消失した、怖くて時に凶悪だけど、楽しい日々をくれたUがいなくなったことは、侑の心にポッカリと穴を開けた。

すると侑の目の前に一つの光が見えた、侑は光を目指して真っ直ぐ進んでいくのだった。








侑が光を真っ直ぐ進んだ先にあったのは、いつもの地下迷路へと続く扉の前だった・・。

ところがその扉が無くなっていて、侑の目の前にあったのはただの壁だった。

「あれ?扉が無くなってる・・・」

「侑様、こんな時間に何をしているのですか?」

寝間着姿の上条が声をかけてきた。

「あの、ここに地下迷路へと続く大きな扉があったんだけど・・・」

「地下迷路?大きな扉?何を言っているのですか、侑様。」

上条は首を傾げた。

「えっ?この屋敷には地下迷路へと続く扉があって、絶対に中には入っちゃダメって言いつけられていたんだよね?」

「この屋敷には地下迷路も言いつたえもありませんよ。」

上条の言っていることがおかしい、地下迷路のことが最初から無かったかのようなことを言っている。

「とにかくもう眠りなさい、私もトイレから戻って寝るところなので・・・。」

上条はあくびをすると寝室へ戻っていった。

侑は上条に言われた通りにした、でもどうして地下迷路が消えてしまったのかわからず、侑はしばらく眠ることができなかった。






翌朝、起床した侑は家族で朝食を食べている時に、重雄に直接聞いてみることにした。

「ねえ、あの屋敷の奥にある扉のこと、知ってる?」

「屋敷の奥にある扉・・・?一体、何を言っているんだ?」

「えっ・・・、いや何でもない。」

同じ質問を百合絵にもしてみたが、百合絵も「なんのことなの?」と怪訝な顔をするだけだった。

どうやら屋敷から奥の扉も地下迷路も、存在自体が消滅してしまったようだ・・・。

侑は今まで重雄さんたちが言っていたことは何だったんだと、しばらく考えてばかりいたが、答えは出ない。

そして地下迷路の記憶は侑だけの物になったのだ。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る