第41話Uの謎(2) 海色の花瓶
生前のU・湯の山孝名が、全国のどこかの屋敷に託した謎の宝。
その内の一つ、海色の花瓶があるのがこの侑の屋敷なのだ。
「うわー、これが海色の花瓶・・・」
「はい、澄んだ海を再現した青に、海藻を模した緑・魚を模した赤・黄などの鮮やかな色の数々がとてもいいでしょ?ちなみにこの花瓶は、二百万円するとても高い花瓶なのです。」
侑は上条に紹介してもらいながら、花瓶をまじまじと見つめている。
「綺麗だな・・・、あっ!謎を探さなきゃ!」
侑は花瓶の中と側面をみたが、とくにそれらしきものは見つからなかった。
そして花瓶をそっと持ち上げて下を見たときだった。
「あっ、なんだこれ?」
そこにあったのは一枚の紙だ、紙は花瓶の底に張られていたが、侑の力でかんたんに花瓶から外すことができた。
「侑様、その紙は・・・?」
上条も張られていた紙をまじまじと見つめている。
そして紙を開いてみると、そこにはこんな謎があった。
「夜のため池から子どもが泥まみれになってやってきた。さてその子は誰だ?(木原くん・中野くん・田代くん)」
何やら怖そうなことが書かれていたが、これが謎のようだ。
「泥まみれ・・・、「ど」と「ろ」が関係しているのかな?」
「うーん、でも三人の名前に「ど」と「ろ」はついていませんね。」
「いや、泥まみれがキーワードなのは間違いないよ。」
侑は泥まみれになっている子どもについて連想した・・・。
「泥まみれ・・・、泥・・・、泥は汚い、汚い・・・きたない・・・あっ!」
「何かわかりましたか!?」
「これはきとたがない名前を当てるんだよ。つまり、中野くんが正解だ!」
「中野・・・あっ!?そういえば、この花瓶は中野様から譲り受けたもだ!」
「そうなの!?とにかく、中野さんに会いに行こうよ!」
「えっ、今からですか?ちょっとお待ちください・・・」
上条は中野にアポを取ったところOKが取れたので、侑と上条はその足で中野のところへと向かった。
「そういえば、あの花瓶っていつから家にあったの?」
「今から四年前、中野さん自らバザーを開きまして、年代物の骨董品が多数あるということで、重雄様が興味本位で来てみたら、この花瓶に一目惚れして、即購入したそうです。そのときに名刺を交換しておいて、良かったよ。」
そして侑の屋敷から車で二時間、中野の家へと到着した。
上条がインターホンを押すと、眼鏡をかけた中野さんが玄関に出た。
「わざわざ遠いところを、さあお上がり下さい。」
中野さんは上条と侑を客間に通して、お茶を用意した。
「それで、私に聞きたいことは何かな?」
「あの、青い花瓶についてなんですけど。」
「ああ、『子どもの名残惜し』という作品だね。」
「子どもの名残惜し・・・、どうしてそんな名前がついたんですか?」
侑がたずねると、中野は語りだした。
「この花瓶には、海を見ることができずに亡くなってしまった子どもへの慰めがこめられているんじゃ。その子どもは実在しておってな、家族で海水浴へ行くのを楽しみにしていた。ところが海水浴へ行く前日、友だちとため池で遊んでいる時に足を滑らせてため池に落ちてしまった。そして子どもは溺死してしまったんじゃ・・・。この花瓶の作者は亡くなった子どもの伯父さんで、せめてあの世で海を見られたらという思いで、この花瓶を作って捧げたということだ。」
侑は中野さんの話を聞いて、感慨深くなった。
「話はまだ続く、この花瓶は実際に子どもの仏壇に置かれていたんじゃが、この花瓶に飾った花がたった数日で枯れてしまう奇妙なことが起こったんじゃ。何度やっても枯れてしまうので、誰かに調べてもらうことにした。そこで呼ばれたのが、湯の山孝名じゃ。」
「あの、湯の山ですか?」
「ほう、君は高校生かな?その年齢で知っているとは、大したことだ。話を戻してな、湯の山はこの花瓶の中の水を舐めてみてびっくり仰天、なんと中の水が海水に変わっていたんじゃ。海から遠いこの地域で、何故花瓶の中に海水が入ったのか?彼が見つけた犯人は・・・、あの日亡くなった子どもじゃった。子どもはあの花瓶の水を海水で満たすことで、もっと強く海を感じたかったんだろうな・・・。そのことを依頼者に話したんじゃが、依頼者はむしろ気味悪がってしまい、花瓶を湯の山に譲ると言った。そして彼は屋敷の蔵の中にその子の小さな墓を作って、海水で満たされた花瓶を置いて供養したそうだ。」
侑はこの花瓶に込められた子どもの意思を痛感した。
そして中野さんの家を後にした侑は、帰り道で上条に言った。
「今でもあの花瓶の中に、海水は入っているかな?」
「それはどうでしょう?でも、あの花瓶にこんな話があったのは驚きです。」
「この他にもあるかな・・・、Uが残した不思議なもの?」
こうし侑は花瓶に隠された謎を紐解くことに成功したのだった。
一方、こちらは地下迷路のU。
『あの花瓶の謎を解くとは、さすがだ侑。だけどまだまだこれからだよ、ここからは恐ろしい骨董品が君を待っているからね・・・』
Uはこれから起こることにワクワクし、それに侑がどう挑むのか頭の中で想像した。
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