第39話銀色なあの子の行方(3)

侑のところに柏原から返事の手紙が来た日の翌日、柏原が学校に顔を出した。

「柏原さん、病気が治って良かったね。」

「先生、ご心配していただきありがとうございます。」

柏原は風谷に頭を下げたが、どこかそっけない感じがする。

侑は何か言おうと思ったが、詮索して彼女の身に何か起きるのも困るので、今日一日は何も聞かないことにした。

しかし手紙に書いてあった「両親の借金」というワードが気になる侑、そこで帰宅した侑は茂雄にそれなりに質問してみることにした。

「ねえ父さん、柏原さんのとこで何か事件とかって無かった?」

「何を聞こうとしているんだ?」

重雄は不審そうな顔で侑を見た。

「いや・・・、悪い噂なんだけどね、柏原さんが学校を休んでいるのは、体を売っているからって噂が学校で流れているんだ。ぼくは信じないけど、父さんはどう思う?」

「まあ・・・、ハッキリ言って噂はでたらめだな。だけど柏原家についてなら、たった一つだけ良くない噂を聞いたことがある。」

「えっ?それはどんな噂なの?」

「尚美さんの芸能界デビューだな。」

「えっ!?柏原さんが、芸能界へ出ようとしているの?」

「ああ、尚美さんは見た目もいいがなにより歌が上手くてな、これでもテレビの歌番組にてかなりの好成績を出したことがあるんだぞ。だから将来は歌手志望ということで、両親が金だの色んな手を使って、尚美さんをデビューさせようとしたけど・・・、その努力の果てに積み上がったのが八百万円の借金だという。」

「八百万円・・・」

侑はとても驚いた。そんな大金、中学生が返せるわけがない。

「それで、その借金はちゃんと返せたの?」

「そこまではわからない、だがこの前の仕事で『尚美さんをCMに出させてほしい』と言われているからな・・・。」

重雄はお菓子メーカーの重役についている、つまり柏原の両親は娘をCMデビューさせて顔を売ろうとしているのだ。

「そっか・・・、ありがとう。」

侑は自分の部屋へと向かうと、イスに座りながら考えた。

「柏原さんに借金があったら、ぼくはどうやって助けたらいいんだろう?」

侑自身がそんな大金を払えるほど金持ちというわけではないし、両親に相談しても断られるのは目に見えている。

つまり侑にできることは何もない・・・、侑は自分が無力の立場にいることを実感した。

「こんなこと、Uに相談してもなんの意味も無さそうだし・・・。やっぱり、ぼくにはどうしようもないな・・・。」

侑は深くため息をついた。






その翌日、再び柏原さんは学校から姿を消した。

「えーっ、柏原は病気で休みになった。」

風谷の口調からも「またか・・・」という気持ちが読み取れる。

もうクラスメイトの中で柏原のことに関心があるのは、侑だけである。

「借金のこと解決できたかな・・・、そしてまた学校に来てくれたらいいんだけど。」

しかし何日経っても、柏原は学校に現れなかった。

そして風谷からこんな知らせを受けた。

「えーっ、あまり顔を覚えてないと思うが、柏原が学校を休校することになった。卒業式には残念だが不参加ということが決定した、柏原さんから手紙を預かってきたので最後に聞いてくれ。」

風谷はシャツの胸ポケットから折り畳まれた便箋を取り出すと、開いて生徒達に読み聞かせた。

〔みなさん、あまりに短い間でしたがどうもお世話になりました。私は闘病しながらなんとか学校へ通っていましたが、この度病状が悪化し入院を余儀なくすることになりました。最後の卒業式には出られそうにないのがとても残念です、みなさんどうか素敵な旅立ちの日になることを祈っています。それではごきげんよう、さようなら。

柏原尚美〕

手紙の内容は素晴らしいが、残念ながらこの手紙は嘘で塗り固められている。

「きっと、両親にやらされてこの手紙を書いたんだ。」

侑はそう思った。

そしてこの手紙を残して、柏原尚美は完全に侑の学校からいなくなったのだった。









そして月日は矢の如く過ぎて、ついに侑は卒業式を迎えた。

卒業証書を受け取り、クラスで最後の集合写真を撮影していた時だった。

「ん?あの子は・・・」

カーブミラーの陰からこちらを覗く、銀色の髪をした少女。

間違いない・・・、確信した侑はその少女のところへと向かった。

「柏原さーん!」

「侑くん!?」

侑は柏原のところに来ると、息も切れ切れに話しかけた。

「こんなところで、一体どうしたの?」

柏原は静かにしてのジェスチャーをすると、小声で侑に言った。

「実はね・・・、最後に卒業式を見に来たのよ。」

「最後って・・・?」

「私、親戚の家に行くことになったの。」

「えっ!?どうして?」

「住んでいた家は、借金の返済で差し押さえられたの。両親は離婚して、互いに行方不明になっちゃった・・」

「そんなことって・・・、あんまりだよ。」

「気づかってくれてありがとう、でもいいの。今はすごく気持ちが楽になったわ。」

柏原の銀色の髪は、憂いと安堵でなびいているように見えた。

「あっ、もう行かないと。じゃあね!」

「あ・・・、またね」

侑は柏原を見送ることしかできなかった。

銀色なあの子の行方・・・、それは誰にもわからない。







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