第38話銀色なあの子の行方(2)
柏原が学校に来なくなってから、一週間が過ぎた。
そろそろ心配になりだすころだが、受験シーズンということもあり、柏原のことなど誰も気にとめなかった。
侑も受験勉強に人並みに励んでいた、その合間を縫って、間所に会いに来た。
「あら?確か二組の侑くんだったよね、何の用?」
「柏原さんのことなんだけど・・・」
「ああ、転校してきた彼女ね。彼女について聞きたいの?」
「うん・・・、席となりだからもっと仲良くなりたいなって」
「なに?あなた、柏原さんに片思いしてる?」
間所が訪ねると、侑はドキッとした。
「うん・・・、彼女キレイだから・・」
本当は話しかけにくく、好きとはいいがたいが、間所との話を合わせるためにウソをついた。
「ごめん、あたしもあまり知らなくてさ。会って声をかけたことあるけど、そっけなく返事されてさ、ありゃ友だちを作る気無いって感じだった。」
「そっか、実は家の父さんが柏原さんに会ったことがあるんだよ。」
「えっ?侑の父がですって?」
「うん、仕事中に会ったと言っていたよ。柏原さんの父さんと一緒にいたらしい。」
「そんな・・・、あの子一体何者なの?」
「ぼくも気になるよ、せめて本人から直接聞ければいいのに・・・」
侑が呟くと、間所は侑の耳に囁いた。
「実は柏原さんの家の場所を知っているんだ、もし会いたいなら直接家に行った方がいいよ。だけどストーカーは絶対にダメ、後家の場所をあたしから聞いたことも喋っちゃだめだからね。」
「ありがとう、間所さん」
間所は侑に柏原の家の場所を教えた、そして侑は教室へと戻っていった。
そして下校中の侑は、帰り道ではなくて柏原の家へと向かった。
間所に書いてもらった地図と住所を元に歩いていくと・・・。
「あっ、ここだ。それにしても、大きいなあ・・・」
柏原の家は侑の家にも負けないくらい大きな豪邸だった、門には鍵がかかっているから、まだ家には帰っていないようだ。
「さて、このまま帰ってくるまで待とう」
侑は電柱の陰にかくれて、様子をうかがった。
すると門の前に白い車が停まった、そして車から柏原と父親と運転手の男が降りてきた。
「いいできだったぞ、尚美。」
「うん、それでお父さん、学校に行けるのはいつなの?」
「もう後、二週間だ。それまで我慢しろ。」
「はい、わかりました・・。」
柏原はどこか寂しそうな感じがした、そして父親に連れられながら家の中へと入っていった。
「柏原さん、一体あなたは何をしているんだ?」
疑問を抱えたまま、侑は自分の家へと帰宅した。
翌日も柏原は学校に来なかった。
侑は柏原が何をしていたのか、考えていた。
「もしかして、柏原さんは俳優か芸能人なのか?いや、それならみんながよく知っているはずだ。それともスポーツ選手かな?もしかして・・・!」
侑は柏原には人に言えない秘密があるんじゃないのか・・・?
侑は思いついたとたん、すぐにそれはないと否定した。柏原さんは話しかけにくい印象だったけど、それを省くと普通の女子中学生であり、特にどこかおかしいというわけではない。
やはりもう少し調べてみないとよくわからない、ということで今日も侑は柏原の屋敷に向かった。
しかしこの日は日暮れまで見張っても、なにも起こらなかった。
「今日はもう帰ろう・・・。」
侑は自宅に帰ると、どうすれば柏原さんのことを知れるのか考えた。
「侑様、最近難しい顔をされていますが、何かありましたか?」
突然、上条が声をかけた。
侑が上条の方を振り向くと、手に封筒を持っていた。
「上条さん、その封筒は何?」
「ああ、昔の友だちから手紙が届いたんですよ。いやあ、懐かしいなあ」
手紙・・・、あっ!それだ!
侑の頭に名案が浮かんだ。
侑は上条に便箋と封筒を持ってくるようにお願いした、そして便箋と封筒を上条から受けとると、柏原へ手紙を書き出した。
[初めまして、あなたと同じクラスの道明寺侑といいます。最近、あなたが学校に来ていないと聞き、とても心配しています。込み入ったことではありますが、どういった事情があるのかを教えて下さい。この事は誰にも言わないことを約束します。それではまた学校で会える日を待っています。
道明寺侑 」
侑は手紙を封筒に入れると宛先を記入し、切手を張って近くのポストまで行き、封筒を投函した。
後は柏原次第だ、侑は柏原さんが返事を出してくれますようにと祈った。
それから三日後、侑が帰宅すると上条が声をかけてきた。
「侑様、お手紙を預かりました。」
そう言って上条が渡した手紙には、柏原尚美と書かれていた。
賭けが当たったと喜び、自分の部屋へ行くと封筒を開けた。
そこにはこんな文章が書かれていた。
〔侑さん、お手紙ありがとうございます。実は私には両親の借金を返さなくてはならない使命があるのです。心配してくれる気持ちはありがたいですが、これ以上なにも関わらないでください。それではごきげんよう。
柏原尚美〕
それはやんわりとした拒絶の手紙だった。
「両親の借金って・・・、何だろう?」
もしや体を売っているのか・・・?
いかがわしいことが頭をよぎったが、すぐに否定した。
こうして柏原の謎はますます深くなったのだった。
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