第36話取り壊されない団地事件(3)

侑はまたあの団地へと足を踏み入れた、中村がなぜ亡くなったのか・・・、その理由を解き明かすために。

団地の二階にあるあの部屋へと足を踏み入れた、そして和室へと入ると異変が起きていた。

「あれ?無い・・・」

布団の上にあった中村の白骨死体が、忽然と消えていた。

「もしかして、誰かが持ち出したのか?」

そうとしか思えない、そして持ち出した理由は侑が事件の調査をしているからだ。

「でもぼくが調べていることに気づいて死体を持ち出したとすれば・・・、犯人は昨日ぼくに出会った人・・・」

その中で怪しい人がいるとすれば、この団地にかつて住んでいたあの男だ。

理屈を繋げるなら、あの男が犯人だとした方がいい。しかしあの男が犯人だという証拠がない。

「あの時住んでいた番号を、聞いておくべきだったなあ・・・」

侑は後悔した、それから部屋を物色していたが、とくに何も見つからなかった。

侑は諦めて部屋を出た時だ、目の前に一枚の張り紙が落ちていた。

今まで気にとめることはなかったその張り紙を拾うと、そこにはこんなことが書かれていた。

『悪霊出没により、立ち入り禁止』

悪霊・・・?一体どういうことだろうか?

まだまだ謎が深いこの団地に、侑は苦戦していた。




そしてその日の夜中、侑はUからの呼び出しを受けて地下迷路へとやってきた。

『侑、あれから団地の事件はどうなったんだ?』

「うーん、ちょっと行き止まりに当たったところかな?

侑はUに捜査の進展を説明した。

『なるほど・・・、つまり中村の遺体を持ち去ったやつが犯人か、黒幕の一員ということだな。』

「黒幕の一員って、どういうこと?」

『この事件は市役所が団地の取り壊しを強引に進めるために、引き起こした事件だ。つまり、中村の遺体を動かした人物は市役所の人か、市役所と繋がりがある人物と考えていいだろう。』

「確かに・・・」

『侑、これから身の回りには用心したほうがいいぞ。ああいう連中は、計画がバレるのを第一に怖れるからな。』

「うん、わかったよ」

そして侑は地下迷路を後にした。







それから一週間後、侑はあの団地には行かずに、団地から持ってきた中村のメモ帳に目を通した。

もしかしたら何か分かるかもしれない、という期待でメモ帳を開くと、そこにはこんな文章が書かれていた。

『六月七日・波田間が犬を飼っていた、注意をすると「どうか、飼い主が見つかるまで置いてほしい。」と頭を下げてきたから、様子を見るとこにした。ところが波田間は一向に犬を部屋に入れたままだ。』

そして翌日の文章

『六月八日・波田間さんに犬のことを聞いてみた、波田間さんは「中々飼い主が見つからないんだ」と言っていた。そして市役所から、団地の取り壊しについての通知を受けた。だが市役所にこの団地は取り壊させない。』

そしてその翌日の文章

『六月九日・波田間さんとこの犬が吠えてうるさいと、隣部屋の住人から苦情がきた。住人と一緒に波田間さんと話しにいったら、「飼い主探しは止めて、ここで私が飼う」と言い出した。ここでは飼えないと位置から説明したら、波田間さんが逆上して、ドアを閉めてしまった。気が重いことだ・・・、市役所からの通告もしつこいのに・・・。」

ここで日記のページは終わっている。

「波田間さん、中村さんとトラブルを抱えていたんだ。そしてとうとうキレた波田間さんが・・」

侑は事件の内容をおぼろげに思い浮かべた。

やはりあやしいのは波田間さんだ、侑は波田間さんを捜しに向かった。










侑が屋敷の近所にやってきて十五分後。

「あ、あそこだ!」

そこには町の小さな公園にあるベンチで、愛犬と一緒に休む波田間さんの姿があった。

「波田間さん!!」

「おお、あの時の少年か。久しぶりじゃなあ。」

「あの、あの団地で管理人の中村さんと一体何があったの?」

「えっ?なにがって、私と大家さんは仲がいいだけの関係だよ。」

「いや、あなたは愛犬のことで中村さんと揉めていたんだ。」

侑が言うと波田間の表情が変わった。

「なんで、それを・・・」

「あの場所で見つけた中村さんのメモ帳に書かれていたんだ。」

「そんなものが・・・、そうだよ。あの日、私と中村は揉めた。」

中村は暗い口調で侑に言った。

「私はこの愛犬の飼い主を必死に探した、しかし簡単には見つからなかった。飼い主が見つからないうちに、私自身が飼ってもいいんじゃないかと思った。妻に先立たれ一人暮らしを始めてまだ一年しか経たないうちに、私にとっての新しい家族ができたんだ。だけど、中村は『犬を飼い続けるのなら、出ていってもらう!』と言った。家族を失いたくない私はここから引っ越そうと思ったときだ・・・、あいつたちに声をかけられた。」

「あいつたち・・・?」

「市役所の連中だよ、あいつらは新しい団地を建てるのに反対していた中村が邪魔だったんだ。そこで私に『もし中村を殺してくれたら、あなたを新しい団地に住まわしてあげる。もちろん愛犬と一緒に・・・』と言ってきた。私はその作戦に乗り、中村を自宅に招いて、毒入りの酒を飲ませて殺した。そして中村の死体を布団に寝かせて、万が一見つかっても孤独死を偽装できるようにした。そして中村の部屋は立ち入り禁止にして、中村は借金で夜逃げをしたという噂を流したんだ。そうしたら、あの部屋には自然と誰も近づかなかった。」

「・・・あなたは今も愛犬と?」

「ああ、あの団地で暮らしている。だから、これ以上君に嗅ぎまわられるのは迷惑だ!」

波田間は服の内ポケットから、ナイフを取り出した。侑の顔が青ざめた。

「死ね!」

「うわーっ!!」

侑に危機が迫った時だった、突然波田間の手元からナイフがひとりでに離れた。

あっけにとられた波田間と侑、そしてナイフは波田間の愛犬の脳天に刺さった。

「うわぁーーっ、ああぁーーー!」

即死した愛犬に波田間は発狂し、侑はその間に逃げ出した。




それから波田間は自首し、この団地で起きた事件が白日の元に晒されたのだった・・・。







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