第35話取り壊されない団地事件(2)

廃墟となった団地で白骨の死体を目撃した侑たちは、結局その場で解散しそれぞれ帰宅したのだった。

侑は白骨の死体を目撃した時の衝撃が大きく、両親や上条にもそのことを言うことができなかった。

そしてその日の真夜中、侑はUからの呼び出しを受けた。

今度はすっかり慣れている地下迷路を、足早に進んでいく。そしてUの待つ部屋へと到着した。

『よく来たな、侑。また、何か面白い話はないか?』

「面白いというか・・・、とてつもないほど恐ろしいものを見たんだ。」

『ほうほう、侑は一体何を見たんだ?』

Uは侑に団地で見た白骨の死体について説明した。

『おお、それは珍しい・・・!侑よもしかしたら、これは大事件の予感がするのう。』

「大事件って、もしかして殺人とか?」

『もちろんじゃ、おそらくその男は、身元不明になっている可能性がある。まずは白骨の死体が何者なのかを突き止めなければならない。』

「そうだね、ぼくが調べてみるよ。」

そして侑は地下迷路を後にして、翌日から白骨の死体が誰なのか調べることにした。






そして翌日、侑は一人であの団地へと足を踏み入れた。

まだ日があるにも関わらず、団地の中は薄暗くて不気味である。

侑は階段を上って、二階へと来た。

そして例の一つだけ開いているドアの中へと入っていく。

そしてふすまを開けて、白骨死体を見た。

「やっぱり衝撃的だなあ・・・」

やはり現実の骸骨に慣れるにはまだまだ時間がかかるようだ。

侑は死体の回りになにか手がかりはないかと探し始めた、そして一冊の手帳を見つけた。

手帳はホコリを被っていて、表紙が黒く汚れていた。

侑が手帳を開くと、スケジュールのところが予定でびっしりと埋め尽くされていた。

「几帳面な人だったんだ・・・、これは団地の清掃をする予定かな?」

そして手帳の裏には「中村慶吾なかむらけいご」と名前が書かれていた。

「この死体は中村さんだったことに違いない、でもどうして中村さんは死んでしまったんだろう・・・?」

中村さんが亡くなった部屋も入れると、ホコリは被っているが前は綺麗な部屋だった。

つまり孤独死の可能性は薄い・・・、だとすればこれは殺人か?

「だとするなら、中村さんはどうして殺されたんだろう・・・?」

それを知るにはさらに手がかりが必要だ、侑は部屋全体を物色した。

そして見つかったのは、古く黄ばんだ一枚の紙。

「これは・・・、なんの紙だ?」

まだ中学生の侑には難しい紙が多かった。

部屋に入ってから二時間後、これ以上調べてもなにもでないので、侑は団地を後にした。

「やっぱりみんなに聞かないと・・・、だけどあの団地のことを知っている人はいないのかなあ?」

その前に団地のホコリで汚れた体を洗うために、侑は帰宅したのだった。







そして翌日、侑は安久津にあの団地のことを聞いてみることにした。

「安久津くん、あの団地のことについてなんだけど・・・」

「ヒィ!・・・わりぃ、もうあの団地の話は止めてくれ。思い出したくないんだ・・・」

侑は話を聞くのを止めた、白骨死体を見たのだからああなるのも解る。

次に侑はオカルトに詳しい佐原に聞いてみた。

「ああ、あの団地を安久津に教えたのは俺だよ。あの団地には怪談以外にも黒い噂があってね、なんでも役人と管理人とのトラブルがあったんだけど、殺人事件にまで発展したようなんだ。それでその役人というのが、市役所の地域課の偉い人で、団地を取り壊す工事のリーダーをしていたんだ。」

「なるほど・・・、それでトラブルというのは?」

「管理人が頑なに団地の取り壊しに反対していたようで、毎日市役所におしかけては抗議していたらしい。それで役人が管理人を目障りに思って、管理人を殺害したという噂だよ。」

「そうなんだ、ありがとう」

これで噂ながらも、団地の闇について触れることができた。

「後は近所を回って話を聞こう。」

そして今週の土曜日、侑は団地の近所で聞き込みをした。

そして愛犬の散歩をしていた五十代の男から話を聞くことができた、なんでもその男はあの団地の元住人だった。

「私はあの団地に住んでいた時、管理人の中村さんと親しくしていた。私だけじゃなくて、あの団地の住人全員が中村さんを慕っていた。じゃが、市役所からここを取り壊す通知がとどいた時から、中村さんは変わったよ。それまで大人しい男だったのに、攻撃的になったね・・・。団地を守るために必死だったんだけど、ある日から急に見かけなくなって、そして団地の取り壊しが決定した。しかしその団地は、今も残っている。」

「なるほど・・・、そのある日っていつなのか解りますか?」

「五年前の六月だったかな、そこんとこしか覚えていないんじゃ。」

「わかった、話してくれてありがとう。」

侑は男の話をベースに仮説を立てた。

「中村さんは市役所から、この団地が取り壊されることになったことが許せなくて、市役所に取り壊しを止めるように強く訴えた。しかしそれが納得できない市役所の誰かが、中村さんを殺害し、布団の上に寝かせて放置したということか・・・」

しかし侑には疑問があった、どうしてだれも五年もの間中村さんのことを気にとめなかったんだろう?

そして中村さんはどうやって殺されたんだろう・・・?














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る