私の不思議な夢の話※少し過激な描写が含まれます。

自分は一人で温泉地に来ていた。坂の上にある少し無機質な外見のホテルに泊まっていた。温泉に浸かって、森へ出発しようとしていた。その時、後ろから見覚えのある仲間が6人ほどゾロゾロと現れて、

「〇〇さん、森へ行くんだったら言ってくださいよ。俺たちも行きたいっす。」

とこう言ってきた。ここの地には森が二つある。一つは散歩コースとして有名な表の森。そして、特別な入り方をしないと入れない裏の森だ。裏の森は一人で入るとまず確実に死ぬと言われているほど危険な所だ。自分は散歩をしようと思っていたので、表の森に入る気満々だったのだが、仲間達を見ると、装備を固めて今にも裏の森へ行こうとしている様だった。

「ねぇ、裏の森には入んないよ?」

「え、なんでですか。入りましょうよ!こんなに人数いるんですし、〇〇さんが入らないなんてことあるんですか?」

自分は、自分のことを慕ってくれている仲間達のキラキラした目に耐えることができず、あえなく了承してしまった。

「装備を固めてくるから、その時間が欲しいんだけど。」

「もちろん、待ちます!」

「お土産も、まだ買ってないんだけど…?」

「え、買ってから行きましょうか。」

そうして、自分たちはまず坂道の少し寂れた商店街でお土産を見て、自分は一度ホテルに帰った。

そもそも裏の森に入ろうとも思っていなかった自分は、もちろんまともな装備は持っていない。簡易装備と携帯用武器しか無かった。取り敢えず、つけられるものは着けて行った方がいい。遭難したらほぼアウトだが、裏の森に住んでいる奴らにバレなければ、なんとかなると思い、それらを身につけて仲間の所へ行った。

「みんなお待たせ。」

「〇〇さん、待ってないっす。」

「〇〇、その装備でいいんですか?」

「しょうがないでしょ?そもそも入る気も予定も無かったんだから。」

「ええ、じゃぁ本当に湯治に来てただけなんですか?」

「当たり前でしょう。君たちみたいに血気盛んじゃないの。そんなんじゃいくら命があっても足りないし…。」

自分は両手で自分の腕を抱えてこむ様にして震えて見せた。

「そうっすか、なんかわがままに付き合わせる感じになって、すんません。」

「まぁ、いいさ。よし、じゃぁ、みんな。帰って来たら全員で全力で観光して帰るよ!いいね?」

「「あい!!」」

一気我々の中に熱が入る。後戻りは出来ない。みんなが冷静に集中していくのがわかる。その森の入り口は意外にも芋けんぴや飴を売っているお店の中にある。我々は店の中に入っていく。

店の入り口は横にスライドさせるタイプのドアで、中に入ると壁は朱色混じりの茶色が塗られていて、家の骨組み部分の大木がいい具合に露出して、木の温もりを感じる。入ってすぐ右手には壁伝いに棚が置かれ、左右正面の壁には一段高い所に木の板が付けられている。正面は右側にカウンターがあり、後ろには、ソフトクリーム製造機と何故か大量のドライフラワーが吊るしてあった。カウンター横に不思議ない空間があり、左側には地下に続く、階段があった。

裏の森行くにはカウンター横の不思議な空間にあるゲートを使うが、それは二人ずつまででしか入ることが出来ない。我々は誰と誰が組むか、一人で入るのは誰にするのかをその場で決めた。本来なら、上官の自分が一人で行くべきだが装備が装備なので、赤茶色の髪が肩くらいで外に跳ねている□□と行く事が決まった。一人で行くことになったのは今日ずっと機嫌が悪くほとんど喋っていない少し太ったガタイのいい江△だった。まぁ、入るのが一人というだけで、森の中で合流して3人で行動するつもりだった。

自分と□□は、直ぐに採取と討伐を終えた。江△は、周辺警備的な役割だったが、我々がひと段落ついて、少し息をついた間に単独でどこかに走って行った。この森で単独行動は命取りになる。江△は自分のチームの中で唯一自分を嫌っていた。それでも、誰かのましてや自分の命はとりわけ大事にする奴で、変な行動に出ることは無かった。自分は江△の後を追う様に走り出した。

「ちょ、〇〇さん!どこ行くんすか!?」

「江△追って来る!」

「自殺行為っすよ、装備も普段のやつじゃないのに。第一、異常行動とってるのは江△自身っす、死にたくなったのか、なんなのかは分からんすけど、勝手に行かせとけばいいじゃないっすか!見捨てるべきっす!」

「だからだよ。異常行動には理由があるかもでしょ?それに、江△を見捨てることは、ましてや、見殺しにすることは出来ない。」

「でも、置いて行くべきっす…。じゃないと〇〇さんが危ないっす。」

「大丈夫、ちょっと連れ戻して来るだけだよ!」

□□は出口付近にいるから、安全には問題ない。それよりも、江△だ。自分はどんどん森の奥に入って行く江△を追った。意外と深くまで入って来て、ようやく江△の背中を捉えた。しかし、江△は自分の方を振り返り一瞬自分と目があったかと思うと直ぐに背を向けて不自然に置いてあるターザンロープに足をかけてまた離れて行ってしまう。自分はそれを追う様にしてターザンロープに乗って江△を追った。しかし、江△は途中でターザンロープを飛び降り、目視でかろうじて認識できる細い獣道を走って行ってしまった。自分がターザンロープを降りようとする頃には右手の遠くに見える木を右折して、江△は完全に自分の視界から消えてしまった。一方そんな事を考えている間にターザンロープは加速していき、制御不能の状態に陥ってしまった。ブランコの様に激しく前後に時に左右に不規則に揺れるそれにしがみついて、その勢いが落ち着くのを待つので精一杯だった。ふと走馬灯的に入って来た芋けんぴ屋の店内に戻って来た。仲間がターザンロープにしがみついた状態の格好をしている自分を見て、なんともいえない驚きに満ちた視線をこちらに向ける。我に帰ると、やはりそこは森の中で自分はターザンロープにしがみついていた。すると先ほど江△が右折していた道の草が不自然に揺れた様に見えた。その直後江△が走って戻って来た。私はそれを追いかけようにも、ターザンロープの揺れは収まって来たものの、そこは運悪く地面から少し離れていた。飛べない距離じゃない。が、地面は泥濘み、どれくらいの硬さかわからない上、少し行くと、崖の様になっており、何故かそこだけ川が流れていた。その川を迂回して追いかけるには圧倒的に時間が足りなかった。自分はターザンロープを中央くらいまで移動させ川を渡る事に成功した。3メートル弱距離のある地面に着地しようと思ったが、無事でいられる保証が無かったのと、森の住民に大きな物音で気づかれるのを避けたかったため、一度ターザンロープに乗った所まで戻ろうとしていた。すると、空から知らない渋い声がした。

「死にたくなければ、今直ぐロープを降りよ。それとも怖いのか?山鬼が来る。元来た場所に戻れ。」

この声が何度か繰り返された。不気味に思ったが、この状況では従う他無かった。声がピタリと聞こえなくなり、ロープ乗り場に戻った瞬間、山鬼の不気味な群れが見える。大きな女性の先生(シスター)の様に見える山鬼の周りにそれのお腹ら辺までしかない山鬼のが30匹弱ウヨウヨしていた。山鬼はそもそも人と同じくらいかそれよりも大きいはずなので遠近感が狂う。なんとか乗り場の支えの大きな木に隠れてやり過ごすが大きな個体の近くにいた2つ結びの少女の様な山鬼と、群れの後方にいたそれに瓜二つの山鬼が気付いて、大きな個体に報告する。

今の自分の貧弱な装備じゃ、囲まれたらまず勝てない。体に触れられたら、腕力でも勝てない。勝機はほぼないも同然で、終わったと思った。でも、小さな個体ならと思ったが、何やら大きな個体のそばにいた高校生くらいの男の子に見える山鬼が大きな個体に耳打ちをして、後方にいたさっきの山鬼と、意識の外にいた小太りな山鬼、そして先ほど耳打ちをしていた山鬼が飛びかかって来る。

どうにか、小太りの攻撃を交わして、2つ結びの山鬼の攻撃を受け流すと、そいつの背中を流したナイフでついた。しかし、相手は3人小太りのやつに結局背後を取られた。すかさず、そちらに向き直り、攻撃を受け止めるが後方にはまだ、高校生くらいの山鬼が一人残っていた。挟み撃ちの状態で、この装備では勝ち目がないことは明白だった。後ろを見て、もう一匹との距離を確認する。すぐさま目の前小太りな方のに向き直ると、もうすでに刃物が振りかぶられていて、今にも顔を掻っ切られる所まで来ていた。しかし、次の瞬間、そいつの顔が鼻の付け根あたりから横に線が入ったかと思うと、グシャッと音を立てて、死んだ。悩んでる暇は無かった。ただ、ただ、死にたくなくて、防御の構えをしながら後ろ向く。キィンと音がして、相手の攻撃を受け止められたことを認識する。そういう、ギリギリ受け流すやりとりを何度かした。しかし、全身からふらっと力が抜けていく感覚と同時に、攻撃を受け止める武器を持った手に力が入らなくなった。恐怖で少し冷えた頭で相手の顔を見てみた。結構整っている顔立ちで、そこには未だに余裕のある様だった。これは、もう、助からないと思い、覚悟を決めて、武器を手放した。押さえつけられるままに手を拘束され、相手が馬乗りになって覆い被さって来た。もう、抵抗する意思も無かった。自分は意外にも心中穏やかで、自分の死体を想像しながらその山鬼に対して、出来るだけ優しく穏やかな笑顔で笑って見せた。ナイフの刃が顔に、目に迫って来る。死ぬんだ。と思ったが、想像している痛みがいつまでも来なかった。相手の山鬼の顔を見ると、それが殺せないと顔を歪めた。なんだが、可哀想な気持ちに、その山鬼を放って置けない気分になって、その山鬼をそっと抱き寄せて、おでこにキスをしてやった。すると、山鬼が抱きついて来てそのままグッと涙を堪える様な嗚咽が聞こえた。先ほどの彼とは違いあまりにも痛々しかったので、思わず、

「あの、大丈夫ですか?」

と声を掛けた。彼の腕に力が入る。少し落ち着きを取り戻した自分は彼の状況を頭の中で整理してみた。端的に言えば、山鬼からすると彼は裏切り者だと言う事に気づいた。今から、自分を殺せばそうでなくなるが、一向にその気配は無い。

「あの、あなた山鬼からすれば裏切り者ですよね?こんなことして大丈夫なんですか?」

彼はハッとして自分から離れた。殺されるかと思ったが終に彼は自分を殺さなかった。丁寧にナイフをしまうと、こちらの目を真っ直ぐ見つめて、

「大丈夫、ではない。あいつらは裏切り者が大嫌いだから、バレれば全力で殺しに来ると思う。それに俺はあの中でも血が濃いからその分匂いも分かりやすい。バレるのは時間の問題だと思う。」

だから、一緒に逃げないかと提案して来た。もちろん、死にたくない身としてはまたとない提案だが、生憎自分はもう片足が使えない状態だった。具体的にいうと、片足の膝がありえない方向に曲がり、アキレス腱辺りが斬られて、足と脛が皮でギリギリ繋ぎ止められていて、それぞれがバラバラにプラプラしている状態だった。自分の視線を追って彼もそれに気づいた様で、すぐさまおんぶを提案して来た。自分は迷ってしまった。もし、山鬼の群れに見つかりでもしたら、彼一人ならきっと逃げ切れる、助かるだろうと思った。しかし、お荷物の自分がいて、彼が2人分の命を背負うと思ったら、力不足なのは明白で、任せるのは彼にとっても自分にとってもリスキーに感じた。自分の恐怖心を知ってか知らずか、こんな事を言って来た。

「怖い、よね。さっきまで命を狙って来ていた相手だ。しかも足を使わせない様に切った本人なんだから、怖いよね。しかも、裏切り者で命まで狙われるときたら、道連れにされるかもしれないからね。でも、もう俺は人を殺す事も、誰かが殺されるのを見ることも嫌なんだ。」

自分は彼の熱意に負けてしまい、結局素直におんぶしてもらった。幸い道中山鬼に一体しか遭遇せず、無傷で出口付近まで来れた。すると彼は突然立ち止まって、自分を下ろした。そして、大きな木の根に座らせて、戻りたいのかと聞いてきた。当たり前だと答えたら、山鬼は寂しそうに視線をそらした。ふとまた山鬼について考えてみた。彼はこのまま森にいたら、山鬼たちに見つけられて殺されるのがオチだ。しかし、この森を出ると言っても、この森の外は我々人間からしたら未知。どこまでも続く、無限の森なんて異名がつく理由になったこの森の果てしなさの前に、彼も倒れると思った。

彼が森の出口の店の地下の扉まで送ってくれた。しばし考えてこんだ後、自分は彼に表の世界に来る様に誘った。彼は一瞬躊躇ったが、自分が外の世界はここなんかよりよっぽど平和で貴方の見える範囲で諍いは起きても殺し合いはないし、食べ物は美味しいし、安全なところだ。と説明したところ、

「最後に見る世界がそんなところなら行ってみたいな」

と笑顔で承諾してくれた。彼におんぶしてもらいながら、この森の出口を使って表の世界に連れて行った。店の人に通路の陰った所にある椅子を貸してもらい、彼の話を聞いた。山鬼泣きながら今まで悩んで来たことを打ち明けてくれた。通常、殺しを悪いものだと捉えない、ゲーム感覚で人や動物を殺す事を楽しむ山鬼の集団の中で、彼だけがそれに疑問を持っていた。生きる為には他の命を奪わなければならないと割り切っていても、それに快楽を感じる事は無かった。自分と明らかに違う周り、そして少数派である自分。仲間の輪から外れることが怖かった。だからそれまで殺しが嫌だと言えなかった。いつか、誰も殺したくないと仲間の前で彼と同じ様に泣いた若い山鬼の仲間がいたらしいが、その子はその場で仲間の手によって殺されたらしい。山鬼は精神的に我慢の限界が来た様だった。

「もう、誰も殺したくないよ。」

そう涙を零ながら自分にすがる様に体を寄せる姿を見て、やはり山鬼も自分と種族が違うだけで、生きていて、感情がある同じ人なんだと感じた。自分はそんな人間味の強い山鬼をそっと抱きしめることしか出来なかった。不意にそっと唇に何か柔らかいさらっとした何かが触れる感覚がした。驚いて山鬼の方を向いたが、一瞬のことで、もう山鬼は先程と同様に俯いて、自分の右手の袖を少し握っているだけだった。

自分は、今まで敵同然の立場だった山鬼と同じ様な考えを持っていた。人間だろうが、種族が違おうが、そのものが生きている事に変わりはないし、命の重さも同じように感じていた。そもそも、我々はここ何世紀もの間異種族だからと殺しあって来たが、自分個人は、見た目が違う種族でも、そこに見た目以上の違いが分からなかった。自分はそういう区別をする事が文字通り得意では無かったのだ。自分は、この山鬼とは違って植物や食事、虫なんかにもそういう事を思える程優しくは無いが、戦場や、ハンター業を生業としていてもやはりたまに同じ事で悩んでいた。だから、なるべく殺さない様に戦って来た。部下達にもなるべく戦わせないでいい様に教えて来た。殺す時はなるべく相手が苦しまない方法もずっと探して部下にもそれを教えて来た。自分はその事を山鬼に話した。自分も少数派だからか、同じ悩みを共有出来る相手に初めて会ったからか、鼻の奥がツンとして、知らぬ間に頬に温かい何かが流れた。初めて、自分も限界に近かったのだと悟った。それと同時に、自分達はお互いまだ傷つくことが出来る心がある自分に安渡して、人でもいいのだと、生きていてもいいのだと、そう、思うことが出来た。

自分は、山鬼とこれからもずっと一緒にいれたらと考えてしまった。人は殺さなくていい、住処は提供するし、組織に引き抜いて、うちの組織に守ってもらいながら生活をして行けばいいと思った。だから山鬼に表で暮らさないかと提案した。山鬼は驚いた様な表情をしたあと少し諦めたようなそんな顔をして自分から視線を逸らして、静かに、

「誰かの脅威になりたくないから。」

と言って、自分の提案を断った。ガチャッと音がして、最後の仲間が帰って来た。随分と遅い帰りだなと思ったが、今は気にしない事にした。不意に、山鬼が自分を抱きしめて来た。何かと思い山鬼をじっと見つめると、何か焦っているように感じた。自分は彼を安心させたかった。だから、ギュッと抱きしめ返した。本当は自分は幼い時、違和感を感じている時に、それを無条件に肯定して欲しかった。そして、そっと抱きしめ返して欲しかった。という事を思い出し、過去の自分とも少し重ねながら、大丈夫、貴方は間違っていないと何度も繰り返した。そして、山鬼はスッと抱きしめる腕の力を抜き、自分の目を真っ直ぐ見て、今度は正々堂々とキスをして来た。そして、何歩か後ろに歩き、ついさっきの自分と同様に優しく穏やかな笑顔を見せて、午後の日がさした狭い通路の真ん中で砂の様にふっと消え去ってしまった。もう、会えないのだと直感した自分はなんとも言えない寂しさを感じた。そして、十年来の親友や、恋人でも失ったような気分になって泣きそうになった。でも、あまりにも急すぎて呆気なさすぎて、終に涙は出なかった。

気がつくと横に仲間がいた。そこに江△の姿は見えたか見えなかったかもうわからない。だが、少なくとも隣に5人いた。まずは生き残った事をみんなで喜ぼうと素直に思えた。

「じゃぁ、宿に帰りますか!」

自分の一言にいつも通りみんなが答える。

「「あい!」」


おわり。

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