私の不思議な夢
三津→…→三華橋→三原→桐
次は三華橋〜三華橋でございます。
沿線で見えた風景は、桐方面の進行方向の左手に大きな食べ物のお店その奥に少し小さなパン屋さんそれの正面に2台のクレーンゲーム機が横並びになっていた。手前の方に何が入っていたかは覚えていないが、奥の方には大きなパンが置いてあった。
自分が乗ったのは三華橋の二つ前の駅だった。確か野菜のような名前の駅だった気がする。そこにはもう、電車が到着していて、それを逃すと次の電車は30分後か1時間後くらいにしか無かった。いやに現実味のある腹痛が襲う中、その電車を逃してはいけないと、本能的に直感した。少し小走りをして駅のホームを目指す。駅は、都電の駅に少し似ていた。駅の入り口にあたる階段の斜め前には赤いオーニングに野菜屋か肉屋と書かれた店があり、その左横には白を基調とした外観のちょっとおしゃれな喫茶店、そこを曲がるとフェンス越しに電車を見ながら下れる坂道があった。赤いオーニングのお店は右隣は道路でそれを挟んで向こう側に家があり、右隣の道は鈍角に曲がると路地に入いるようになっていた。
駅の階段の隣に白い小さな小屋のような駅員室があり、そこは地域の野菜を売ったり、観光案内もやっているような所だった。中に入ると、男性二人女性二人の計四人の駅員がおり、一人は髭面の車掌帽を被って、紺色のスーツに電車の会社のマークがついている胸ポケットあたりに名前のバッチをつけた男性。もう一人はきちんと髭の剃られている、二十代くらいのいかにも好青年といった風貌の男性。女性は二十代くらいで、ポニーテールの茶髪の人と、二つ結びの人の二名。女性の制服は、白を基調としたジャケットとタイトスカートで、どちらも、袖や、端の方に黒い細い生地と虹色の縞模様の細い生地で縁取られているデザインで、首にはスカーフが、頭には小さな帽子が付いている、一昔前といった風貌の制服だった。入り口を入って左側には野菜の入った段ボールが積まれており、その後ろにパンフレット入れが置いてあった。右側には、名前など、書類を書く為の台があり、正面には白いカウンターがあった。その後ろは2畳ほどのスペースがあり、もう客が来ないと踏んだ駅員たちが楽しくおしゃべりをしている様に見えた。その奥に壁があり、その壁の右端に関係者以外立ち入り禁止の駅員室と書かれた扉があった。壁紙は赤だった為、なんというか、郵便局の様にも見えた。
電車に乗る為には、持っている乗車切符を見せて切符を切ってもらうか、その場で購入しなければならない。自分が駅に駆け込んだ時、あらかじめ走りながら出していた切符を左手に握り締めていたが、無情にも駅ではドアを閉める合図の音楽がなっていた。この電車に乗る事に躍起になっていた自分は、駅員室を素通りして駅に入ろうとしたが、駅員室にいた車掌帽を被った髭面の男性に呆気なく止められてしまった。この時に、駅内から「ドアが閉まります。閉まるドアにご注意を。」と言う声が聞こえてきたので、電車を見ると、車掌室の窓から顔を出した三十代くらいの少し角張った顔の形の車掌が「残念だね。」と自分に言ってきた。自分と車掌との間には3メートル程幅があった筈だが、何故だかその時はその人の顔が自分の30センチ前くらいにあるように感じた。発車サイン音が鳴り始めた時、駅員室にいた二つ結びの水曜日のカンパネラの詩羽に顔の似た可愛らしい女性が、『少し待ってくれたらいいのにね。』と少し眉を下げて笑って見せる。しかし、自分にはそれに反応している余裕がなかった。その女性は自分の焦っている様子を見て何かを察したのか、どうしたのかと聞いてきた。自分は若干涙目になりながら、「あの電車に、あの電車に乗らないといけないんです!」と必死に訴えた。すると、二つ結び女性は少し急かすように「乗車券はありますか?」と尋ねてきた。自分は左手に握り締めたそれを渡すと、二つ結びの女性がそれを急いで確認する。そして発車サイン音が鳴り終わり、いよいよ電車が駅を離れるタイミングで、二つ結びの女性はフロントにあった全話を取り、「止めて」と誰かに指示を出した。すると、先ほどまでゆっくり動き出そうとしていた電車の動きがピタリと止まった。女性は余裕を持って切符を切り、『今度からは遅れない様に気をつけてね。』と言って優しく切符を自分に渡してくれた。そして、駅の階段の所まで出て来てくれて、「気をつけて、行ってらっしゃい〜!」と大きく手を振ってくれた。
電車に乗り込むと、車掌室から顔を出した先ほどの男性が、チッと舌打ちをする。自分はさっきの事に少しばかりイラついていたので、お返しと言わんばかりに「残念でしたね。」とその男性に言った。
電車の中がすごく特殊だった。中は少し黄色がかった白色で、少しフカフカした椅子と金属製の硬そうな椅子は両方とも全て紺色だった。駅のホームから車内に入るとすぐに階段が一段あって、手前の左右両端に小高い席が一つずつ、そのすぐ後ろは今自分の立っている場所より二段程低くなったスペースがあり、そこに窓側を向く様に、要は、進行方向に対して横を向く様に作られた席がそれぞれ三席ずつ設けてあった。後方に進むと、また階段が一段あって、手前から両端に一席ずつ、その後ろは二席ずつ、その後ろには前の席よりも少し高く作られた席が二席ずつ、その後ろは前の席よりもさらに高めに作られた席が一席ずつあって、最後の列は、都バス同様一列丸々席になっていた。後方のこの座席の列に合わせて一列毎に通路の真ん中に駅の待合室にある様な金属製の硬い椅子が設置されていた。車掌室は前方の床と一段下がった所に作られていた。この電車は窓が多く、作り上天井も少し高かった為、開放感があった。
自分が乗り込んですぐ、後ろから中学生か高校生くらいの女の子が三人走って乗り込んできた。肩甲骨あたりまでの髪を下ろしている子と、肩くらいまでの髪の子、ポニーテールの子で、灰色のセーラー服を来ていた。席は、あの二段低くなった所は一席を除いて埋まっていて、後方の席も手前のフカフカの一人席は埋まっていた。自分は後方右側の少し高い一人がけの席に座った。彼女達は、ロングの子とショートの子が進行方向に対して左側の二人がけの席に座り、その隣の通路にある硬い椅子にポニーテールの子が座った。
電車はいかにも路面電車といった感じで、窓の外はずっと住宅街広がっていた。車窓から見える道路に車は走っていないが、妙に生活感があった。
一駅行くと、後方の手前の一人席に座っていたおかっぱ頭の黒いジャンバーに鮮やかな首巻きをしたおばあさんが席を立って降車した。すると、待ってましたと言わんばかりにポニーテールの子がそこに移った。
三華橋を過ぎたあたりで何故か見覚えのある景色がチラついて来た。三原駅に近づく毎にそれは顕著になっていき、宮地の交差点が見えた。電車は、都バスの浅草行きの草64と同じ方向から交差点に侵入し、薬局を通って三ノ輪の方へ走っていった。自分はここら辺で降りないとだなと思い、三原駅で降りた。しかし、先ほどまで見覚えのあった景色はどこへ消えたのか、自分が降りた駅からは何処を見ても見知らぬ景色ばかりだった。最初は、なんとも思わなかったが、しばらく経ってから駅にぽつんと居る自分を俯瞰して、随分と遠くまで行ったものだと思った。ふと、ここで見たものはどうせ直ぐに忘れてしまうという不安が込み上げて来た。自分はさっきまで見たパン屋のことや、電車の中のこと、駅の名前のことなどをよく反芻してから、覚えた!と思ったら、腹部に激痛が走った。先ほどまで曇っていた空は見覚えのある天井に変わり、昼間だった時間も気づけば、真っ暗な夜になっていた。
自分は、さっき聞いた駅の名前を思い出してみる。大丈夫、まだ記憶に欠損は無い。しかし、だんだんと頭が働いてきて、駅の名前をもう一度確認した時、自分自身の血の気が引いていくのがわかった。心臓が苦しくなって、電子機器で時間を確認した時、腹痛が自分を現実に連れ戻した。
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