第9話  忘れていた自分の意外な姿


私は、ボクサーたる者・・みたいな自分勝手に哲学みたいなのを持っていた。共に練習する仲間、トレーナー、会長。常は決して1人ではない。けれど、最後の最後。



リングに上がりゴングが鳴ったら、対戦相手と自分だけの勝負。最後は自分1人でケリをつけなければならない。



ボクサーとは孤独。



そんな考えでいたせいか、更衣室やシャワールームで山ちゃんみたいにフレンドリーに会話はする。けれど、仲良くなり過ぎて、スパーリングなどで情が出てしまうんじゃないかと連絡先の交換などは一切していなかった。



唯一、私の近所に住んでいたミドル級のプロとはよく遊んでいた。絶対にスパーリングしないとわかっていたから。



「なんかね~、絶坊主さんって、よくわかんないとこあったんすよね~。」



山ちゃんの話によると、仲間の試合の応援の為、皆で後楽園ホールに行った帰り。皆それぞれグループで、帰る者や食事に行く者とに別れて行動していた。



しかし、私は皆よりも先に歩を進めて、先々歩いて電車に乗って帰っていった。そんな私を見て、山ちゃんは不思議に思っていたんだと。



あんなにフレンドリーにシャワールームでバカ話をしていた私が、一緒に飯でもと思いきや、さっさと帰ってしまう。私のボクサー哲学を知らない人間は、ジキルとハイドか!と思われていたのだろう。



「絶坊主さんの頃が一番勢いありましたもん。勝率日本1位だったんすよ!」



山ちゃん曰く、ボクシングマガジンかなにかに勝率順にジムがランキングされていたらしい。確かに、私が現役の頃、仲間たちはほとんど勝っていた。だからか、自分も勝たなきゃ!と、いいプレッシャーになっていたから4連勝できたのかもしれない。



楽しい時というのは、何故か時間が経つのが早い。明日の昼には新幹線に乗って帰らなければならない。



本当にあっという間だった。Sさんは、おそらく後1、2日しかもたないだろう。



私と27年振りに会ったら奇跡がおきるんじゃないか・・・



結局、そんなものは私の思い上がりだったわけで・・・



でも、師が必死に生きようとする姿。寿命を全うしようとする姿。



それはしっかりと両眼に焼き付けた。



最後にSさんに会ってから帰ろう。そう決意して眠りについた。



そして・・最後の最後。






























奇跡が・・・


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